単行本22巻発売記念レポート 【 『神の雫』 in フランス 】 (1/3)

まもなく待望の単行本22巻が発売となる、「モーニング」の大人気連載『神の雫』(作 亜樹直/画 オキモト・シュウ)

本作品は日本(と韓国など東アジア)のみならず、ワインの本場フランスでも熱く支持されていることをご存知でしょうか?

現在単行本10巻までのフランス語版『神の雫』が刊行され、累計40万部を売り上げています。メディアなどでの評価も高く、作家&編集チームがフランスを訪れるたび、取材が殺到するなど大歓迎。その様子はさながら、ワインの母国への“凱旋”です。

11月13日(金)の単行本22巻発売、そして11月19日(木)発売の「モーニング」51号で連載6年め突入、さらにボージョレ・ヌーヴォー解禁を目前に控え、ここではそんな“凱旋”の模様の一端をご紹介します。


「シュド・ウエスト」紙 2009年9月10日

ボルドー地方をはじめとするフランス南西部を代表する新聞紙上に、見開きで『神の雫』が登場しました!


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ボンタン騎士団の叙任式(※後述)のため、ボルドーのメドック地区・ポイヤック村に滞在した原作者・亜樹直氏の貴重なロングインタビュー。モーニング公式サイトでは、これを全文翻訳して掲載いたします。

ワインの本場のメディアならではの、鋭い視点からの質問の数々をお楽しみください!


【BD:主人公はワイン】

「シュド・ウエスト」紙 2009年9月10日
文=クリストフ・ルーブ


ワインmanga『神の雫 Les Gouttes de Dieu』は、アジアとフランスで大成功を収めている。メドック地区ポイヤック村訪問のため滞仏中のシナリオライター・亜樹直が明かす。

── 日本は伝統的なワイン産地ではありませんが、どのようにしてワインの世界に入られたのでしょうか? また、このテーマをmangaにしようと思ったのは、特に何がきっかけだったのでしょうか?

日本にもたくさんのワインマニアがいます。日本人だから和食ばかりを食べているわけではなく、フランス人同様、日本人は食に対する好奇心の強い民族ですので、イタリア料理、フランス料理、中国料理などありとあらゆるものを食べています。お酒もまた然りで、日本酒が好きな日本人はそれほど多くない一方、フランス料理やイタリア料理に合わせてワインを嗜む日本人はとても多いのです。
かなり以前の話になりますが、そんなワインマニアの一人である友人を誘って、亜樹直弟が自宅でワインパーティを開きました。その席でたまたま、ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティの「エシェゾー」'85年を飲み、姉弟揃ってワインの素晴らしき世界に引きずり込まれてしまいました。
「エシェゾー」'85年を開けた瞬間、テーブルは華やかな花の香りに包まれ、パーティの参加者を驚愕させたのです。私たちはそのワインを一口飲んだ時に、「ワインとはただの酒ではないのだ」と思い知らされ、たちまちワインのコレクターとなってしまいました。それが、このコミックを始める最初のきっかけです。

── 典型的にヨーロッパのものであるワインの文化を理解しようとする際、日本人として難しいと感じることはありましたか?

いいえ、ありませんでした。特にフランスと日本では、食や文化に対する感性が似ているように思います。

── 一般的なフランス人にとって、mangaでワインを語ろうとすることは、非常に独創的な発想です。『神の雫』を作り上げたとき、manga界に何か新しいものをもたらしたと感じましたか? また、伝統的なワイン文学の世界に対しても、何か新しいものをもたらしたとお考えですか?

これまでも日本には、ソムリエを主人公とした漫画などはありましたが、『神の雫』は、ワインそのものを主人公とした漫画です。これは漫画界で初めての試みだったと思っています。また、ワインのイメージを漫画の絵で表現するというのも新しい試みであり、フランスのワイン文化にも新風をもたらしたのではないかと自負しています。ワイン文学の伝統に影響を与えることができたかどうかは……わかりません。

── 『神の雫』では、イタリア、スペイン、アメリカのワインよりもフランスワインが扱われる量が多いのですが、なぜこのような選択を?

亜樹直姉弟は、フランスワインのファンだからです。ワインそのものの美味しさもさることながら、ワインの持つ深いポテンシャル、ワイン造りを支える歴史的・文化的背景などもフランス以上の国はないと思っています。

── 『神の雫』の中のシーンで、父親の軌跡を追って息子が探求的な行為をしますが、日本文学においてこのようなテーマはよくあるものでしょうか?

文学はともかく、歌舞伎など日本の伝統的な古典芸能の世界や、長い歴史と伝統を誇る伝統工芸の世界では、父が師の役割を果たし、父の背中を見て息子がその芸の深い世界を学びます。強く意識したわけでないのですが、父・豊多香と主人公・雫の関係も、「師匠である父の背中を見て、息子が偉大な父の芸、すなわちワインへの造詣を学ぶ」という点で、古典芸能や伝統工芸の世界と共通するものがありますね。

── 実子と養子の対決、というアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか? ワインへの官能的なアプローチと分析的なアプローチを対比させる表現方法にもつながっているのでしょうか?

二人の関係は、実はもっと深いものがあるのですが、それは先を読んでのお楽しみということで。ただしワインへのアプローチに関しては、おっしゃるように、官能的な雫、分析的な一青というように、対比を意識しています。

── 定義によると、「ワインは味わいと感触に訴える」とありますが、そのようなワインの印象を、どのようにして言葉と絵で説明できるように翻訳するのでしょうか?

姉弟でワインを実際に飲みながら、さまざまにイメージを語り合って、次第に表現の形が出来ていきます。そもそも漫画の原作というのは、絵のイメージを頭で動かしながら創作する仕事ですので、姉弟で仕事をしながらワインを飲んでいるうちに、いつのまにか、ワインを女性や男性、自然物、アートなどのイメージに喩えるゲームが二人の間で始まりました。そのゲームから、やがて『神の雫』という漫画が生まることになったのです。

── 『神の雫』のグラフィックの観点から見ると、グラスやワインボトルの影の色調や、その表面の光の反射などのニュアンスが、とても素晴らしく描かれています。シナリオライターとして、漫画家の方にどの程度まで絵の指定をするのでしょうか?

漫画家オキモト・シュウ氏もワインへの造詣が深いので、イメージを伝えるのはそんなに大変な作業ではありません。私たちの考えていた以上に素晴らしい絵が入ってくることもしばしばです。共同作業のパートナーとしては、最高の人材といえるでしょう。

── 多くのmangaにおいて、アクションや恋愛のシーンがよく見られますが、『神の雫』にはそのようなシーンはあまり出てきません。それはなぜでしょうか?

だって、アクションはワインには似合いませんから。恋愛も、あくまで控えめな表現に留めています。ワインの世界の美しさの基本はエレガントさにあると私たちは考えているので、そのイメージを大切にするために、『神の雫』の世界観は、暴力的だったり過度にセクシャルだったりしないほうがいいと考えています。

── 『神の雫』は、専門的な次元においても、ソムリエや有名なエノログから称賛されていますが、ワインの資料収集や情報収集にどのくらいの期間をかけられたのでしょうか?

基本的には私たちは昔からワインのマニアで、友人にもソムリエやワイン関係者の方々がたくさんいるんです。そうした人的ネットワークや、ワイナリーへの取材などのフィールドワークを基本にして情報を収集し、ワインを買い求め、実際に飲んで、漫画の表現を作っています。言ってみれば、毎日が情報収集であり、資料集めのようなものですね。しかし、そんな中でもやはり「ワインは飲んでみないとわからない」と感じています。

── 単行本各巻の巻末に、15ページほどのワイン愛好家へのアドバイスを付けている理由をお聞かせください。

ワインに関する情報は多ければ多いほど読者に喜ばれると思っていますので、サービスとして付けています。また、漫画の情報収集のために試飲したワインのデータを眠らせておくだけではもったいないので、短いながらも巻末でご紹介することにしています。

── 各巻の巻頭に序文を寄せている試飲家には、どのように依頼されているのですか?

これは、フランス版だけの特別サービスですね。オリジナルの日本語版にはありません(笑)。ですので、翻訳されている出版社の《グレナ》さんにお聞きしたほうがよろしいかと思います。

── アジアでは、どのような読者が『神の雫』に感動しているのでしょうか? フランスと同じでしょうか?

あまりワインについて知られていなかった韓国では、ワインの世界へのガイドブックのような役割を果たしているようです。欧米には“ワイン外交”という言葉がありますが、韓国でもそれに習って、大企業のCEOが『神の雫』をまとめ買いして、社員にワインの勉強をさせるというような現象も見られました。

── 貴方のmangaの成功は、フランスワインのアジア向けの輸出にも影響を与えました。『神の雫』という作品の経済的な重要性を意識されていますか?

普段は何も意識していません。ただワインの値段がこれ以上上がらないといいなあと思うだけです。

── ワインを造っているオーナーたちから、『神の雫』に自分のワインを登場させてほしいという売り込みがあるというのは本当ですか? また、それを断ったというのも本当ですか?

そのような露骨なオーダーはありません。ご自分が造ったワインを送ってきてくれたりする方はいらっしゃいますが。ただし、たまたま来日したオーナーにお会いしてワインを飲んだら感動的に美味しくて、それでネタにした、ということもないわけではありません。私たちの心を動かす美味しさがなければ、どのような義理があろうと、大金を積まれようと──そんな人はいませんが──『神の雫』でそのワインを取り上げることはありません。

── 現時点で、フランスでは第9巻まで『神の雫』が出版されています。全部で何巻まで出るのでしょうか?

現在日本で連載中の週刊誌でも、「使徒」はまだ第7までしか登場していません。全部で12本の「使徒」がありますので、最短でもあと3年は連載します。となると、全40巻は超えるでしょう。ちなみに日本では、単行本は現在21巻まで刊行されています。日本における『神の雫』は、「モーニング」という週刊漫画誌で毎週連載され、ほぼ10週分で単行本1冊の量になります。週刊誌での発表後、約2~3ヵ月後に単行本として刊行されます。

── このたびのメドック滞在では、特に何を楽しみにされていますか? 今後の作品にも、場合によって影響を与えることはありえますか?

メドック・マラソンが楽しみです。テレビでしか見たことがなかったので。弟がどのように走るかも、ヒヤヒヤしつつも楽しみにしています。このメドック訪問は、もちろん漫画の誌面に活かすつもりです。フランスのみなさんも楽しみにしていてください。


【コラム:mangaの売上】

フランスは世界第2位
1900年代に生まれ、1950年頃に手塚治虫のような作家によってモダン化された漫画は、日本におけるバンド・デシネの形態であり、独特な表記法(小さなフォーマット、右から左に読む、等)を持っている。
フランスでは、『神の雫 Les Gouttes de Dieu』の出版社であるグレナ社が80年代に最初にこの分野に進出、『ドラゴンボール』『AKIRA』などを出版しベストセラーとなった。42巻まで刊行された『ドラゴンボール』は、全世界で2億5000万部以上出荷されており、その数字は『TINTIN(タンタン)』を超えている。
世界のmanga市場の第2位はフランスである。フランス国内で販売されるバンド・デシネの売上の40%はmangaが占めている。さまざまなテーマ(アクション、恋愛、ミステリ、歴史物……)があり多様化しているmangaは、主に若い世代が主要な顧客となっている。
BD専門書店を経営するマガリ・アメル氏は、「子供の頃にこの文化で育ってこなかった、新しい読者が増えていると感じます。特に『神の雫』は、そういった世代の読者を感動させています」と説明する。


以上、翻訳=加藤尚孝(OENOCOM)



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    神の雫
    作 亜樹直   画 オキモト・シュウ

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