第4回M.I.C.C.結果発表

賞の名称を〔MORNING INTERNATIONAL MANGA COMPETITON〕=M.I.M.C.から〔MORNING INTERNATIONAL COMIC COMPETITON〕=M.I.C.C.と改めてから初めての開催となる第4回。前3回の賞を通じて我々が痛感したことがありました。日本では幅広いジャンルを網羅し、今現在も新しいものが生まれている「マンガ」ですが、国外に出て「MANGA」と呼ばれると、ファンタジーに寄った、様式美に固まった非常に狭いジャンルになってしまうということ。もちろんそれを受け、応募作も日本の少年漫画の縮小再生産的な作風が多くなっていました。
今回、改称の効果はてきめんで、日本で我々「モーニング」誌がメインに扱う「成年マンガ」ジャンルに含まれる作品を多数応募いただきました。さらにそこにとどまることなく、日本のマンガ界が決して思い描けないだろうビジュアルとストーリー、イメージの喚起力を持つ作品も多く、受賞作にもそれが反映されています。 今回、大賞を射止めたのは韓国のKim Daejin氏「響かないこだま」。「流麗な描線と、職人的技巧を施したトーンワークで耽美的な作風が多い」という、我々が韓国からの応募作品に、漠然と持つ先入観を見事に覆す個性的で力強い作風。テーマも作者が考え抜いたと思われる独創的なものでした。
副賞は香港の小雷−little thunder―氏「APPLE BABY CAT」とイギリスのMichael Aubtin Madadi氏「STARFIELDS」の2作品です。小雷氏の筆が描く世界はファッショナブルでエキゾチック、しかし底に流れる優しさは万国共通のもの。マンガの普遍性を再確認させてくれる才能だと思います。そして「ヘタウマ」と呼ばれそうなタッチとオフビート感でさらりと読ませ、選考会では「ロンドンの花くまゆうさく」の異名をとったMichael Aubtin Madadi氏を含め、第2次選考を通過した作品の半数が西洋文化圏、しかも日本のマンガが幅広く読まれているとは言い難い地域からの応募であることには大変興味を覚えるとともに、この賞の可能性を感じさせてくれました。
受賞された方をはじめ、マンガの枠を押し広げてくれる才能を、我々はどのように育て流通させていくかは、とても刺激的な今後の課題です。その手段は印刷された紙の本、さらには「電子書籍」でさえも飛び越えてしまうかもしれません。 もちろん本賞を主催する「モーニング」誌はビジネスとしてマンガを扱う集団です。ですが我々の目標は、マンガ家を世界から「輸入」することではありません。日本からは生まれえないであろう才能を刺激として吸収することももちろんですが、世界にマンガを読む喜びを「輸出」できれば、こんなに嬉しいことは無いと考えています。今回の賞に見られるように、多様性を獲得して行くマンガが、その橋頭堡(きょうとうほ)になることを心から願っています。

M.I.C.C. 選考委員長・田渕浩司

「響かないこだま」

金大珍 Kim Daejin / 韓国

《あらすじ》 大学受験を控えたチェ・ジャンスは、日々勉強に勤しんでいる。だが、この日はどこか様子がおかしかった。なんと、チェの教科書から子音が消えてしまったのだ。
子音を読むことも口に出すこともできない……。なぜ、みんなこの事態に気づかない? 「○※△#──」。誰にも伝わらない「こだま」を叫びながら街で暴れるチェ。「人間は本質的に狂気にある」──哲学者・パスカルの言葉を体現するような、人間と現代社会の歪みを描いた問題作。

《受賞者コメント》 この度は、私の作品を選んでいただき、ありがとうございました。この賞をきっかけにより良い作品を描き続け、自分自身の作品に自信と誇りを持って常に努力していきたいと思います。
私の家族をはじめ、作業しやすいように環境を作ってくださった富川創作漫画スタジオの職員の皆さん、私のそばでいつも応援してくれた友達、同じ空間で一緒に作業をしているシャリュンク洞の皆さん、この紙面を借りて感謝いたします。何より私の作品を認めてくださったモーニングに感謝申し上げます。 これまで描き終えた私の他の作品も一日も早く皆さんにお見せしたい気持ちでいっぱいです。良い作品で認められる漫画家になりたいと思いますので、今後とも何卒よろしくお願いいたします。

《評》 物語のコンセプトが面白い。主人公がいつの間にか巻き込まれて変な方向に行ってしまう様子の描かれ方が秀逸で、思わず引き込まれた。
本作はいわゆる韓国のWEBマンガのスタイルで、日本のコマわりとは違うものだが、それを凌駕するストーリーの強さがある。「子音がなくなる」ということで、全然自分の言っていることがわかってもらえない焦燥感とか挫折感がすごく自然に描かれている。
社会と離反するつもりがないのに、外から誤解され、足掻けば足掻くほど破滅に向かっていく様が、誰にでも起こり得ると感じさせるぐらいの緊迫感で描けているところに才能を感じ、今回の大賞としました。

「STARFIELDS」

Michael Aubtin Madadi / イギリス

《あらすじ》 時代遅れのロースペック。それが悲しい恋の終わりを生んだ──。公園に独りきり座っていた彼と、ふいに隣に現れた一台のロボット。どちらからともなく始まった、不器用な二人のつたない会話。
「ところで、どうして君はドクターEnwaのところに行ったの?」そこで明かされるロボットの悲しい真冬の一夜。
その日、彼は一人の雪だるまに恋をした。だけどその恋は淡く儚い終わりを迎えてしまう。大切な人を失った原因は自分自身。無限の星空の下、旧式ブラウン管の情“熱”、は空回りするだけだった。
ハイスペック、ハイポジティブの時代に、いびつなオールドタイプの二人が最後に見つけるものは?スローペースな会話が効いた、切なくやさしい大人のファンタジー短編。

《受賞者コメント》 まず最初に、このような素晴らしい賞に取り組んでいる講談社にお礼を言わせてください。次に、副賞をいただいて僕がどんなに喜んでいるかを言わせていただければと思います。
振り返ってみると、この作品を描くのは今までで一番楽しかったことのひとつでした。本当にそうなんです。もしこの作品を実際に描いていた真夜中に聞かれても同じように答えたと思います。
僕はこのふたりのキャラクターがとても気に入っているので、それが読者に少しでも伝わったのなら、こんなに嬉しいことはありません。

《評》 登場人物の人種も年代もわからない、この人にしか描けないだろうと思わせる独特のタッチが強い個性を出していた作品。既存の作品のルールにとらわれない自由な展開だが、物語の背後にさみしさと孤独な感じが存在しており、読後に妙なひっかかりを残した。
ただ、シュールなものとして読むか、日常にあふれる人生の機微を読み取るのか……どちらで読むべきかよくわからない。
不条理か日常かどちらかに重点的に描くとより多くの読者に読まれるものになる可能性を感じ、今回の副賞としました。

「APPLE BABY CAT」

小雷−little thunder− / 香港

《あらすじ》 リンゴのようでもあり猫のようでもある?人間たちの生活に入り込んでくる不可思議な生物「Apple Cat」。
彼らは増殖し、蔓延する。そして最後は愛くるしい声で「僕を食べて」と誘うのだ。 温かく切ない色彩とタッチで、世界を鮮やかに切り取ることに成功した、寓意に満ちた佳品。

《受賞者コメント》 受賞を知って、とても嬉しく思います。
漫画を描き始めて約10年、これまで中国や香港で作品を発表してきました。けれど残念なことに、漫画家が落ち着いて作品を発表できる場は、どんどん少なくなっています。
現在、娯楽の種類が増えているのに対し、漫画の読者は減っています。漫画家もまた、もっと良い職業を選択することもできます。
漫画家を止めるのは簡単なのです。筆をおき、描くのを止めればいい。漫画を描く友人たちがひとり、またひとりと、漫画から離れていくのを見ると、仕方がない、という気持ちと同時に寂しさを感じます。
この《Apple Baby Cat》は数年前に描いた作品です。一生懸命描いた作品でも、発表できるとは限りません。これは漫画家が受け入れざるをえない実状です。ですから、発表できることがすでに、とても嬉しいのです。
この作品を読んでくれて、面白いと思ってくれた皆さん、どうもありがとうございました。これからも頑張ります。

《評》 様々なタイプの人物を描きわける画力があり、女の子同士の会話の雰囲気、体のラインなど細かな部分もうまく表現されている。また、登場する謎の生物の造形も秀逸で、楽しく読ませる力は十分に感じさせた。ただ、イラストの力に比べると、セリフのテンポ・内容にはまだ甘い部分があったように思う。
しかし、今後の可能性を感じる才能であることは確かで、次回作におおいに期待しつつ今回の副賞としました。

「蜃」

李俊良 / 中国

《評》 物語の舞台となる架空の街が丁寧に細かく描き出されていて見ているだけで楽しい。しかし、構図に凝りすぎているため、人物の位置関係や、起きている出来事がわかりにくく、すんなりと物語に入っていけなかった。またストーリーもいろいろな要素を詰め込み過ぎている。細部に凝るのも大事だが、まずは読者を意識した画面作りとストーリ作りを心掛けてほしい。

「SPYWARE」

Mattias Elftorp / スウェーデン

《評》 主人公の一人語りで進んでいく単調な話ではあるが、主人公のとる行動や主人公が見る「神」の姿などに意外性があり、インパクトは絶大だった。ただ結末はよくわからないし、読後感もよくなかったのが残念。

「Bird Spotting」

Clio Millett / イギリス

《評》 作者が何を描くかを自分の中で整理しきらずに描いてしまっている印象。異形の者が存在する世界は一見面白そうだが、謎の部分が多く読者が考えながら読まないといけないため物語に入っていけない。虚構なら虚構なりにその世界を成立させる真実を提示する必要はあると思う。ただ、絵は巧みで、表現したい意志は感じるので、しっかり話の枠組みを作って世界観をかためていくとより良くなっていくと思われる。

「半地下タウン」

Song Taewook / 韓国

《評》 非常に読みやすい作品で、応募作の中でもっともエンターテインメントを意識していた。特にリズム感。漫画というメディアはページをめくるリズム感が重要になるが、エピソードが次々繰り出され展開に飽きることがない。絵柄も最近の韓国作品に見られるような過剰な描き込みではなく、シンプルな中に魅力がある。ただし、顔の描き分けができればさらによかった。漫画は絵と言葉がセットで伝わらないと意味がない。この弱点は、ラストシーン近くで登場人物が入り乱れるところで顕著に現れる。あのシーンで誰が誰だかわからないのは物語の面白さを半減させてしまっている。

「Dinner for Three」

Jasmine Ghalib / カナダ

《評》 絵に雰囲気はあり力を感じさせるが、登場人物がすべてを語り過ぎていてしまい、読者が想像する楽しみが損なわれていたのは残念。読者がどのように読むかといった点をより深く考えるとさらに良くなるはず。ただ、言いたいこと・伝えたいことがハッキリしているのは評価できる点なので、今後が楽しみです。

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