第3回M.I.M.C.結果発表

今回の大賞は黄俊璋氏の「Poor Knight」。ファンキーなタッチとテンポの良さが心地よい若さあふれる快作で、作品としてはスタンダードMANGAスタイル。前回に引き続き台湾からの受賞となりました。  副賞も台湾からで、林氏の「死神」。こちらは一枚絵を多用し、部分的にカラーを使ったやや絵本的タッチの一作。心の深みに触れてくるような、それでいてどこかユーモラスな味もある魅力的な絵柄とストーリーがかもし出すハーモニーが素晴らしかったです。  以上の2本は、どちらが大賞になってもおかしくないほどに拮抗していましたが、その分、ほかの作品はややレベルが落ちた印象。ほかにもあと数本、副賞候補にあがった作品はあるにはあったのだが、どれもおしいところで決め手に欠け、今回は副賞は一本のみとなりました。大賞になった2本に共通するのはキャラクターの魅力。必ずしもキャラクターの魅力が漫画の必須条件とは思わないが、それが最大の武器のひとつであるのは動かしがたい事実だと思います。  大賞受賞者の黄氏のコメントに「台湾で漫画を描いて生活していくのは大変だ」というくだりがありますが、世界不況のあおりで、台湾以外の世界中の多くの場所、国でも漫画市場に悪影響が出ているようです。日本でももちろんあちこちに不況の影響は出ていますが、それでも漫画には次々にヒット作、野心作が出ていて、相変わらずとても元気な状況だと思います。ほかの国々が世界不況の影響で、新たな才能が出にくい状況であるならなおのこと、我々はこの活動にエネルギーを注いでいきたいと考えています。ある一国に編集部を置きながら、他の国の才能と打ち合わせを重ねるのは容易なことではありませんが、この度第2回の大賞受賞者・余孟霖氏(改め YOVOVA氏)の50Pの読み切り作品が3月21日発売のモーニング・ツーに、巻頭カラー付きで掲載されるはこびとなりました。打ち合わせの過程で2回、3回と原稿を描き直しましたが、その甲斐あっての充実した内容です。また、同じく第2回に 「Joe's Teeth」で副賞受賞のKinono氏の「Kinono's kiwifruit comic tales」も、モーニング・ツーで現在第4話を準備中です。海外の読者の皆さんにこれらの作品を直接お届けできないのは残念ですが、成果は着実に出始めています。  最後になりますが、今回も前回、前々回に引き続き、全体としては美少女、ロボット、忍者などが活躍する、いわば狭義の「MANGA」風作品が多かったという印象を受け ました。海外において「MANGA」という言葉は、我々日本人が想像する以上に偏ったイメージがあるもののようです。ここではあえて定義しませんが、我々は漫画というものを、もっと広いイメージでとらえています。たとえば、今は日本でも「アメコミ」「B.D」「カトゥーン」といった言葉が使われるようになりましたが、10年前ならこれらは日本語ではすべて「マンガ」といっていました。我々はこの賞を、そういう意味でM.I.M.C.と名付けたののですが、どうやら適当な命名ではなかったようです。 第4回からは、より広いジャンルの作品が応募されるよう、賞の名称をMORNING INTERNATIONAL COMIC COMPETITONと改称させていただきます。

M.I.M.C. 選考委員長・島田英二郎

「Poor Knight」

黄俊璋 / 台湾

《あらすじ》 大学生の“ぼく”は生活のためコンビニでバイトをしていた。ある日、二人組のコンビニ強盗が現れ、“ぼく”は縛り上げられてしまう! ドジな強盗は金庫が開けれず四苦八苦。その隙をついて、“ぼく”はその店の古いレジに眠る貧乏神を呼び覚ますが……。

《受賞者コメント》 まずこの作品を評価してくださった審査員の方に感謝します。私にとってこれは非常にエキサイティングな知らせでした。台湾では、漫画描きは主流の職業ではなく、生活もしにくいのですが、それでも多くの漫画描きが黙々と努力を続けている状態で、私もその一人です。こうした人を支えているのは漫画に対する情熱です。この賞を実施し、海外の創作者の作品に対しより多くの、よりよい発表のチャンスを与えてくれている講談社モーニング編集部に非常に感謝しています。
 作品を描き終えた後、何人かの友人に見せたのですが、この作品に対して彼らは彼らなりの考えがあり、多くの意見をもらいました。プラスのコメントもマイナスのコメントも、私の創作のパワーとなりました。もちろん最大の励ましは今回いただいた新人賞です。これは私に創作に対して自信を持たせてくれました。今後もより多くの、よりよい作品を描き続け、皆さんに見ていただきたいと思います。最後に、この作品を気に入ってくれた皆さん、この作品を評価し励ましてくれた審査員の方々にもう一度感謝します。今後ともよろしくお願いいたします。

《評》 登場人物たちのテンポのよい会話のやりとりがとにかく笑わせる。また貧乏神と主人公が合体して生まれるPoor Knightの貧相な造型や、コミカルなアクションなど、これでもかと笑いどころを詰め込んだ、爆笑必至のギャグ漫画。
 強盗二人組のマヌケっぷりも笑わせるが、なんといっても強烈なのは貧乏神のキャラクター。何のありがたみもない神なのだが、実に魅力的なのだ。貧乏神が再び登場する27ページ目以降は、それ以前にも増して笑いの密度が濃くなり、加速度的にテンポが上がり、あとはもうあっという間にラストまで読み切ってしまった。
 その分、前半の強盗二人組のシーンがちょっと長いかもしれない。ここを短く刈り込めていれば、さらにテンポがよくなっていただろう。
 「笑い」は多分にその国独自の文化に根ざしたものだと思うが、この作品の中の 「笑い」は普遍的でわかりやすく、国境を感じさせなかった。グローバルな笑いのセンスに今後も大いに期待したい。

「死神」

林 / 台湾

《あらすじ》 少女の前に現れた「死神」。彼は「天使」に憧れていた。
その日、彼は一人の雪だるまに恋をした。だけどその恋は淡く儚い終わりを迎えてしまう。大切な人を失った原因は自分自身。無限の星空の下、旧式ブラウン管の情“熱”、は空回りするだけだった。
ハイスペック、ハイポジティブの時代に、いびつなオールドタイプの二人が最後に見つけるものは?スローペースな会話が効いた、切なくやさしい大人のファンタジー短編。

《受賞者コメント》 まず、昨年事故で亡くなった親友にこの作品を捧げたいと思います。まわりの人は誰もが、彼女は天使で、「死」とは天使が元いた場所に戻っただけだと言っていました。
この出来事は、私に生と死、そして運命の問題を考えさせ始め、生きている人間の運命に対するやるせなさを感じさせました。こうしたことのすべてがこの作品のコンセプトと内容に影響しています。
受賞の知らせを聞いた時は、自分の耳がまったく信じられず、嬉しさのあまり両手の震えが止まりませんでした。
自分がコンテストで認められるとは思っていませんでした。まるで夢のようです。 絵を描くのが好きな人間にとって、創作そのものの楽しさもさることながら、 自分の作品が他の人に受け入れられ評価されることは何よりも嬉しいことなのです。 家族、友人、そして私に関心を寄せてくれるすべての人に感謝します。
みんなの優しさと思いのおかげで、私はじっくり創作でき、私のペン先から生まれるキャラクターも豊かになりました。
最後に、このようなチャンスを与えてくれ、この作品の貴い意味を広く知らせてくれる講談社モーニング編集部に感謝いたします。

《評》 白と黒のコントラストが鮮明な冒頭はホラー作品かと思わせる展開だが、そこから「天使に憧れる死神」と少女の交流を描くことで、読後に温かな気持ちを抱かせる秀作。
死神の顔がアップになる一枚絵や、天使の格好をする場面など、「絵で魅せる」意識がすごく感じられた作品でした。
また、死神と少女が過去に会っていたという事実と現在をリンクさせることで、死神の優しさを表現する構成は見事。
作者の個性を強く感じさせる作品だったので、林さんの次回作を早く読んでみたいです。

「我的奮斗」「悔恨在心」

謝鵬 / 中国

《評》 我的奮斗」は、一癖ありそうな天使(?)が飛び回る空の表現が素晴らしい。微妙 なトーンと色使い、独特な雲の表現で、雄大でありながらもどこかに閉塞感を感じさせる不思議な空間を演出した。その空の表情の移り変わりが、ストーリー全体のオチにしっかりつながっているのがまた見事。ただ、ショートストーリーなこともあり、 テーマは少々単純すぎる気がした。「懐恨在心」は一種のブラックユーモアだが、ちょっと残酷すぎて救いのないオチ。

「TIME BEINGS」

drewscape / シンガポール

《評》 主人公の奥さんのキャラクターは非常にユニークだと思った。しかしいろいろとわからない部分が多すぎて、作品自体を楽しめなかった。応募作は1話目ということで、これから話が続く中でいろいろと解明していくこともあるのだろうが、これでは2話目に期待する以前に、よくわからない話で終わってしまう。

「No sentiments」

Inbal Breda / イスラエル

《評》 話としてはよくある話で真新しさはなかったが、構成が練られていて非常に読みやすかった。また人物の陰険な表情が非常にうまく描けていたと思う。マリアが銃を撃とうとするが弾が出なかった、というこの作品において最も重要なシーンが、うまく演出されていなかったのが残念。

「BUSY RIDER」

Seah Ze Lin / マレーシア

《評》 次から次へと奔放につながっていくイメージの連鎖が面白い。こういうシンプルな発想の一発芸はよく見かけるが、普通2〜3ページも見ればすぐ飽きてしまうものだが、30Pにもわたって、螺旋階段をあがるようにいっきに雲のうえまで連れて行かれた感覚。ラストの壮大なスペクタクル。ただ、途中で難解な箇所も多々あり、その辺で評価はわかれた。

「DREAM NO.14(夢十四列車)」

沈穎杰 / 台湾

《評》 夢列車とガラス細工の島、2つの話を軸に進めていく構成は見事。ですが、それぞれのエピソードをもっと掘り下げて描けたのでは。続きが読んでみたかった作品です。

「攪出個大頭佛」

文嘉宏 許慶龍 / 香港

《評》 同僚の企みで、リストラされてしまった主人公が、神様見習いの力を借りて活躍するという漫画のメジャーなパターンで挑戦してくれた。このような話の枠組みは、誰もがすぐに物語のフレームを理解してくれるという意味では有効だ が、オリジナリティが発揮されないと面白くならない。神様見習いのダダとディディが力を取り戻すくだりなどは、お国柄が出ており楽しめたが、それ以外にも工夫が欲しい。画力は一定の水準に達している。

「KAMI NO KAMI」

Eduardo Damasceno/Luis Felipe Garrocho / ブラジル

《評》 物語世界とマッチした絵柄は、温かみを感じさせ非常に好感が持てた。ただ語られている内容自体には心動かされるものはなかった。折り鶴が空を飛ぶというのが絵空事にしか見えない。絵空事の中でしか通用しないセンチメンタリズムでは読者の心を動かすことはできない。

「山神木与守林人」

森・多拉龍 / 中国

《評》 アクションも叙情的なシーンも上手に描けており、キャラクターもきちんと確立していて、引き込まれる。ただ、山の神木と林の守り人との時代を超えた交流をより効果的に見せるのであれば、同時代に孫娘とお祖父さんを同居させないほうがわかりやすい。少年だった男の子が年老いていくなかで山の神木と交流が生まれ、彼の死後、孫娘と再び交流が生まれるという設定にしなければ、 物語の中で二人の役割がダブってしまう。

「STringer」

Gratiot Florie senri / フランス

《評》 とても読みやすく、作者が考えていることを読者にきちんと伝える構成力を持っている方だと思います。ただ絵に関しては画面が全体的に白く、無機質な感じを受ける。そしてそれは人物の表情が固いことにも起因していると思う。人物の喜怒哀楽を表現できる画力を身につけてほしい。

「願いの湖」「ゲソン(黄色のあやめ)」

Park Song Yi / 韓国

《評》 アイディアや人物の表情には、人を惹きつける力を感じました。ただ、時間軸や場面転換がわかりにくく、作品の世界に浸れなかったのが残念。そこを改善すれば、劇的に良くなると思います。

「興夫本色」

Yu Jae Wan / 韓国

《評》 構成・コマ割などのレベルは一定の基準を超えていたと思います。その場の匂いまで感じさせるような絵も魅力的。リアルな生活感に焦点を絞って掘り下げていけば、更に良くなったのでは。

「廃屋里的三兄妹」

何声輝 / マレーシア

《評》 三兄弟のキャラクターが服装の細かいところまで描き分けられており、作者の工夫のあとが見られる。特殊能力によるアクションは読者を楽しませるよう工夫されているが肝心のストーリーが説明不足なのが残念。「母親は事故で亡くなったのか?」「なぜ廃屋に住んではいけないのか?」などの説明がないため彼らが戦わなければならない理由に読者がいまいち引き込まれない。画力は高いので、ぜひ設定をわかりやすく工夫してより物語の世界に読者を引き込んで欲しい。

「倉頡密碼」

覃東華 / 中国

《評》 第2回に「魔布」で二次選考まで残った覃東華氏の作品。前回は絵本的な作品だったが、今回はコマを割ったスタイル。前作もそうだったが、動きのある絵がとてもいい。あと、女性も魅力的。もっと出してほしかった。ストーリーも中国らしく「漢字」にかかわるSFミステリ(?)。ラストまで興味深くひっぱられたのだが、オチはどういう意味かわからなかったのが非常に残念。

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