第2回M.I.M.C.結果発表

今回は大賞一本、副賞二本ともアジア勢が占めました。前回はアメリカから大賞が出ましたが、全体の傾向としては、アジア勢の優勢は今回からというわけではありませんでした。アジアは確かに欧米にくらべて「MANGA」と親しんできた歴史は長いのですが、欧米には「アメコミ」「BD」「カトゥーン」など、素晴らしいビジュアルアートの歴史があります。そうした歴史を背景にした優れた作品の応募が、欧米からほとんど見られなかったのは残念です。この賞は「M.I.M.C.」という名称ですが、我々は「MANGA」という名称をいわゆる“日本スタイルのマンガ”という狭い意味では使っていません。BDでもアメコミックでもカトゥーンでも、ビジュアル主体の読み物であればなんでもマンガだと解釈します。 今回の応募作を見ていて総じて感じたのは人物描写の不足です。この賞の開催母体となっているモーニングは、子供よりは大人が読者の主体です。日本においてマンガが子供だけでなく大人にも受け入れられている大きな理由に「深い人間描写」があると思います。人間のなかにある不思議さや興味深さ素晴らしさを、鋭い洞察で鮮やかに描き出すことで日本のマンガは大人の読者の支持を得てきました。しかしモーニングに関して言えば、私はまさにこのことがある種の足かせになってきているとも感じています。つまり、我々はマンガといえば反射的に「人間を深く描くもの」だと思い込んでしまっているのです。 言うまでもなくマンガは「人間を描く」だけのものではありません。「人間」の面白さなんか全然描けていなくても、何らかの意味で面白ければそれでいいのです。日本の、それも大人向けメジャーマンガ誌の物差しで計るからこそ「人間描写の不足」を感じてしまうのですが、もう少し広い感覚で見れば、いくつかの応募作の「人間描写の欠如」には逆に可能性を感じることも可能かもしれません。我々が縛られている「マンガは人間を描いてナンボ」という先入観をまったくもっていないように見受けられるからです。「人間」なんて全然描けてなくてもかまいません。しかし一方、「人間」は強烈に面白い題材であることも確かです。つまり「人間」を描かないのであれば、それに匹敵する面白いモチーフや構造を描いてほしい。たとえば人類史上誰も考えたことのない奇抜なストーリーとか。 「人間」の面白さを描くだけでは物足りない、と感じつつも我々はもちろん「人間」こそがこの世で最も面白いものだという信念も持っています。我々のその信念を覆すようなマンガをお待ちしています。 我々は、我々が持っていないものを求めています。我々は常に今ある自分たち以外の何かになろうとしています。「人間」を描くことで読者の支持を得ているのなら、「人間」以外のものの面白さを、大人の読者に主に支持されているのなら、今度は大人以外の読者の支持を、読者のほとんどが日本人なら日本人以外の読者を、そして日本人以外の作家を求めています。 6月21日発売の月刊「モーニング・ツー」で、フェリーぺ・スミス(アルゼンチン出身 tokyopop社より「MBQ」1〜3巻でデビュー)の新連載「ピポチュー」が始まります。(彼は残念ながらM.I.M.C.の出身ではありませんが)フェリーぺ・スミスは我々が持っていないものをたくさん提供してくれるでしょう。「ピポチュー」は日本で単行本化され、その後アメリカをはじめとする諸外国でも単行本として発売されるはずです。彼が我々に我々が持っていないものを提供してくれるのと同様、我々も彼に我々ならではのものを様々な面で提供できると信じています。 あなたが我々を求めているように、我々もあなたを求めています。第3回M.I.M.C.は9月30日締め切りです。より素晴らしい出会いを期待します。

M.I.M.C. 選考委員長・島田英二郎

「FAIRY TALE」

余孟霖(Meng-Lin Yu) / 台湾

《あらすじ》 “黒い雪”が何かを奪う世界。ひょんなことから出会った、名前を忘れた少年、顔をなくした少女、形をなくした犬、飛び方を忘れた小鳥。いま、2人と2匹の“自分”を取り戻す旅が始まる!!

《受賞者コメント》 天井も突き破りそうなくらいうれしい〜。本当です。歯磨きをしていても、うれしくてうれしくて笑ってしまいます。でもなんとか自分を抑えないと。受賞の言葉を書かなきゃいけませんしね〜。なんだかメチャクチャですけどお許しを。僕は初めて感動の喜びがどんなものかかみしめているのです。
 小さい頃から日本のアニメや漫画を見て育った僕にとって、日本は夢の楽園であり、自分の作品が日本に現れる日を毎日夢見ていました。賞をいただき認めていただいたことは、この上ない光栄です。でもすごくうれしいけど、これからもっといい作品を描いていけるのか恐くもあります。
 今回は講談社のこの賞に大きな勇気をもらいました。僕をずっとずっと信じて応援してくれた家族と友人に感謝し、そして僕を励ましてくれた講談社の皆さんにも感謝します。ありがとうございました!

《評》 おとぎ話のような世界を、独特なタッチと色彩で魅せる物語。  『モーニング・ツー』掲載時は、編成の都合上すべてカラーでお見せできませんでしたが、抑え目の色調で描かれた人物・建物・空などはストーリーと非常にマッチしており、“大事なものを失った世界“の雰囲気をうまく表現できていたと思います。その中では赤色が印象的に使われており、ページにメリハリを与えていた点も付け加えておきます。
 また、後半部分で場面の転換と同時に色彩の大胆なチェンジがある構成も見事。世界が変わった場面が強く印象に残り、絵で魅せる能力が非常に高いと感じました。  ストーリーの方では、前半部分がやや難解な印象を与えるものの、謎めいた老人のセリフや登場人物の描写に興味を惹かれ、グングン物語に引き込まれていきました。そして、老人が意中の人物と再会を果たすところから、日本人に馴染みのあるあの有名キャラの名前が出てくるラストまでは、温かな幸福感と驚きを与えてもらいました。
 ただ、コマ割りが細かいことに加えてセリフが多いので、窮屈な印象を与えてしまったのは残念。絵で魅せる能力があるだけに、コマ割りにメリハリを付け、セリフを洗練すれば、更に良くなると思いました。  とは言っても、最後まで一気に読まされて、ラストの驚きと心地よい読後感を感じたのも事実。その総合力の高さからこの作品を大賞とさせていただきました。

「Joe's Teeth」

Kinono / 台湾

《あらすじ》 歯医者一族に生まれたジョーは、幼少の頃より歯をきれいに保つことを父から徹底的にしつけられていた。そして父から将来は歯医者になることを望まれていた。そんな生活に嫌気が差したジョーはある日、歯なんてなければいいと思い、自分の歯を抜こうとするが……。

《受賞者コメント》 受賞の知らせを受けた時、私はちょうど絵を描いていました。電話を切った後自分では冷静だと思っていましたが、興奮が体の中からふつふつとわいてきて、結局全然落ち着いていられませんでした! 私はいたって普通の人間ですが、これからのさまざまな可能性を妄想せずにはいられなかったのです!でもそれと同時にプレッシャーもやってきました。それは創作意欲をかきたてるプレッシャーです!
 私はこの栄誉を創作生活での大きな励ましととらえています。その励ましをくださった講談社の皆さん、ありがとうございます。より多くの人に私の作品を読んでもらえる機会を与えていただき、感謝です。私はこれからもがんばって創作し続けます!
 それから……この物語でペンチが向かってくる瞬間を作ってくれた、私の歯を抜いた歯医者さんにもやはり感謝しなければならないでしょうね……。

《評》 絵のタッチと童話的なストーリーが非常によくマッチして、心温まる作品世界を作り出している。歯を抜くという行為は多大な痛みをともなう恐ろしい体験であるが、それも少年の真摯な悩みゆえの行為として、ほほえましく読めてしまうのだ。
 少年の悩みを淡々と描く前半から一転、ファンタジックでにぎやかな後半になるという構成も見事だ。
 この作品はナレーションで話が進んで行く絵本的な作品だが、作者の描くキャラクターのかけあいで話が進んで行く漫画的な作品も読んでみたいと思った。

「Puppet Eyes」

KATHRYN CHONG / マレーシア

《あらすじ》 舞台の上で、人間の観客を喜ばせるためだけに存在するパペット。ただしこのパペットたちに紐はついていない。パペットを操る者もいない。パペットを動かしているのは、彼らの目の中の魔法。不思議な石の目に引き込まれた観客は、最初その魔力に次に彼らの演技に魅了される。ある時、一体のパペットが自分を人間だと思い始める。そこから始まる喜びはやがて大きな悲劇を呼ぶのだった。

《受賞者コメント》 国際的なマンガ賞に応募したのは初めてなのに受賞できて、大喜びしています。 賞を取れるとは思っていなかったので、嬉しい驚きでした。学校の期末テストが終わった後応募作を描き始めて、仕上げるのに1ヶ月かかりました。家族や友達の助けが なかったら受賞はなかったと思います。
 私は10歳の頃からマンガを描き始めました。私のような人たちが私を見てマンガを頑張り続ける気持ちを持ってくれればと思います。
 私の夢は絵を通して自分の作る物語を表現することです。今回の受賞がこの 夢をかなえる扉を開けてくれることを願っています。このような機会を与えてくれた講談社に感謝します!

《評》 カラー、モノクロとも卓抜した画力を持つ秀作。わずかに出てくる人間のシーン以外は、感情も言葉も持たないパペット達のやりとりで物語は進展する。そして本来、感情を持たないはずのパペット達が感情を持ち始めると、無機質な顔に見事に表情が表れてくる。
 彼らの心の動きを、会話を伴わない動きと表情だけで表現する技法は見事である。  パペット達の行動を通して描かれたこのラブストーリーは、虐げられた者たちが権力者に向かって立ち向かっていくさまを描いている一面も持っており、わずか17歳でこういったストーリー構成を作れる作者の力量には驚きを覚えました。

「ASSASSINS」

Kosma Gatner / カナダ

《評》 不思議な線で描かれた絵には、日本の作家の作品にはない独特の魅力があった。特に人物のポーズにはこの人ならではのオリジナリティがあってとても惹かれる。「止まっている絵」は魅力的なのに、残念なのは、それが戦闘シーンをはじめ、動きのある場面で生かしきれていないところ。全般に「絵」に関する部分は荒削りながら魅力を発揮しているが、それだけでデビューするのはやはりむつかしい。たとえばストーリーや人物設定にもこの人ならではの“奇抜さ”が欲しかった。大いに可能性を感じるので、ぜひまた応募してください。

「HERMES」

Andrea Iovinelli/Massimo Dall’oglio / イタリア

《評》 人物の表情に見るべきものがあった。暗く、深く、何かを語りかけてくるような瞳が印象的。しかし内容があまりに単純だった。壮大なストーリーの第一話のようだが、そういうものに挑戦したいのなら、もっともっとストーリーテリングを学び、人間の内面描写に心を砕いて欲しい。はじめから長編に挑戦するより、とりあえずは50P以内でしっかり完結する話をつくって徐々に技術を身につけるべきだ。

「Exit」

Anna Sergeeva Tsocheva / ブルガリア

《評》 女の子が非常にかわいく描けている。それと同時に少し怖さも感じさせる不思議な絵だ。絵にはこの人ならではの雰囲気があるのだが、話がわかりにくい。コマとコマのつなぎが下手なため、すんなり読めないというのも難点。もっと自分の作品を客観的に見る力を養って欲しい。

「魔布/我的世界、我的梦想」

覃东华 / 中国

《評》 漫画というよりは絵本に近いスタイルだが、これはこれで完成されたものを感じた。色使い・ビジュアルには非凡な物を感じるので、コマ割の漫画が描けるかどうかに大いに興味がある。

「PHONE」

Byun ki hyun / 韓国

《評》 漫画を描くうえでの基本的な画力は十分に備えている。応募作のなかでは最も「うまい」うちの何本かに入ると思う。しかし、よく見ると表現にこの人ならではのものが意外と少ないように感じた。登場人物の表情も、コマによってもっと微妙かつ繊細な変化を見せてほしい。ストーリーも序盤は引き込まれるが、後半極端に不親切でわかりづらい展開。最後は結局なにがどうなったのかわからなかった。

「THE LAST WEREWOLF/ FLYING FREEMAN」

張磊 / 中国

《評》 迫力のある絵柄で雰囲気はありましたが、世界観・キャラの作り方ともに既視感のあるものだったのが残念でした。もっと作者オリジナルの展開が見たかったです。

「GIANO/Notturno」

Mario Mazzo / イタリア

《評》 無駄を徹底して排除した絵は、きわめてスタイリッシュで日本人とは違ったセンスを感じさせた。それでいて人物造形などは欧米、アジア、どこの文化にも通じる普遍性を獲得している。10年前には存在し得なかったタイプの才能。大いに期待して読み始めたが、内容的にはまだまだだ。まず作者が何を描こうとしているのかよく伝わらない。スタイリッシュな構成にこだわりすぎて、難解になってしまった。印象的になりえる場面がそうならなかったことが残念だ。内容に自信があるのなら、それをしっかり伝える努力をすべき。難解な作品はえてして「ちゃんとわかったら実は大した話じゃないんじゃないか?」と思われるものです。

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