「不完全なヒーロー」が新しい!

対談風景

前田 これからの時代のマジシャンって、完璧でないほうがうまくいくような気がします。『ファンタジウム』の良くんがまさにそういった存在なんですが。一方、木戸零二は、マジシャンに対して非常に完璧なものを求めますね。ハンサムでなければならない、頭も良くなくてはならない、スタイルも良くなくてはいけない、その上でマジックも素晴らしくなきゃいけない、お金もたくさん稼がなければいけない……。ところがそれって、あくまで1980年代から20世紀末までにかけて世界的に広がっていた考え方であって──たとえば『ランボー』や『スーパーマン』のような、一見超人的な主人公が活躍する映画が流行った時代の考え方だと思うんです。「ハンサムで頭が良くて強くてこそヒーロー」というような。

杉本 アメリカンなヒーロー像ですね。

前田 それが21世紀に入ってから、「実は人間ってみんな弱い面を持っているんじゃないか」という考え方に移行してきているような気がするんです。戦うこともできないホビットの少年が主人公の映画『指輪物語』がヒットしたのも、いまの時代だからこそなのではないでしょうか。ほかの登場人物たちは弓や剣や魔術でどんどん戦ったりするのに、主人公の得意技は“ひたすら歩くこと”ですから(笑)。また『ハリー・ポッター』の主人公も、魔法は使えるけど、心のどこかで疎外感を感じていますよね。

杉本 なるほど。

前田 良くんは、ディスレクシア(難読症)という障害のあるキャラクターとして描かれていますが、だからこそ、この漫画は非常に優れていると思うんです。

杉本 ありがとうございます。

前田 人間って、誰しも弱い面や足りない面を持っていますが、そこを何で埋めるかということがすごく大切です。たとえ埋められなかったとしても、そこには相手のことを推測してあげる優しさが生まれます。お互いに完璧を求めすぎるというのは、辛い社会です。近代社会はさまざまな国や人々とも共存しなければなりませんが、そこで「ここが違う、そこが違う、あれが足りない」などと言い合っていたら、いつまでたっても仲良くなれないですよね。相手との違いを認めた上で付き合っていかなくちゃいけない。そういう大切なことをふと思い出させてくれる『ファンタジウム』は、とても素晴らしい設定、流れで物語が進んでいる漫画だなと思います。

杉本 ありがとうございます。なんだか照れ臭いです(笑)。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。