出会いと環境が、マジシャンをつくる

杉本 日々の練習のほかに、マジシャンとして成功する秘訣のようなものってあるのでしょうか?

前田 いろいろなことに興味を持つ、ということでしょうか。マジックとは別の世界の、武道家や音楽家、ダンサーの方と話をすると、必ず呼吸や立ち方の話になります。

杉本 “距離感”のお話なども、マジックというより武術に近い感覚ですものね。

前田 ええ。外国にゲストとして招かれたとき、僕がその国のマジシャンと同じスタイルのマジックをしたら、がっかりされるような気がしていたんです。飛行機代を出してはるばる日本から呼んだのに……と。彼らとしては何か異国のエッセンスがほしいわけですね。それで自分たちの伝統について調べてみると、珍しいものがたくさんある。たとえば、“ナンバ歩き”という右手と右足を同時に出す歩き方なんかは、昭和の時代には駄目だとされていましたよね。「あの人、同じ側の手と足が同時に出ちゃってるよ!」なんて具合に。

杉本 そうですね(笑)。

前田 ところが近年、「体幹をひねらないほうが人は効率的に動けるのではないか」ということで研究され始めた。「世界陸上で日本の選手がナンバでメダルをとった」なんて話を聞くと、僕はできるだけそういうものを自分の演技に取り入れてきました。そんなことを続けていると、知識だけでなく、いろいろな人と知り合えるのも嬉しいことです。“素敵な人たちと過ごす”というのも重要なことだと思います。以前、番組でご一緒した美輪明宏さんに「人間は“保護色”の動物だから、駄目な人たちが集まる駄目な場所にいると、“保護色”で自分も駄目に染まってしまう。ところがいい場所で素敵な人たちと接していると、“保護色”で自然にそれが身に付いてくる」と教えてもらいました。

杉本 自ら環境を変えていくことも大事なんですね。

前田 杉本さんもご存知の「マジックランド」を経営されている小野坂東さんにも、昔、「もしクロースアップマジシャンになっていい場所で働きたいのなら、そういう場所にお客さんとして出入りしてなきゃ駄目だよ」と言われました。その時は「面倒くさいこと言うなあ……」くらいにしか思っていなかったんですけど(笑)、でも今はとても感謝しています。圧倒的な才能がある人なら、環境がなくても立派なマジシャンになれるのでしょうけどね。

杉本 良にもそういうところがあるかもしれません。彼が育った家は、マジックをやれるような環境ではありませんでしたが、やがて北條と出会うことによって、環境が変化していきます。

前田 そうですね。良くんにとっては、お父さんと離れたというのが一つのターニングポイントだったのかもしれません。実の親子としてはもちろん一緒にいたほうがいいのでしょうが、マジックをやっていくということであれば、しばらくの間少し距離を取ったほうがいいでしょうね。

『ファンタジウム』より

良が生まれ育った家を離れ、世界に飛び出すことを決意する名シーン。良と北條のパートナーシップはここから始まりました。(『ファンタジウム』第1巻より)

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。