タネ明かしを少しだけ……

対談風景

杉本 マジックと漫画を勉強していくと、マジックと漫画って実はよく似ているんじゃないかと思うんです。漫画の場合は、誰もが墨とペンという同じようなツールを使っているのに、内容は千差万別ですよね。マジックの場合も、たとえば「アンビシャスカード」なんかは定番のトリックですが、マジシャンによって演じ方が全然違う。個性が出るというのか。

前田 やっぱりそこがないと。先生に漫画を描いていただこうというときに、「漫画家だったら誰でもいいや」ということでお話を持っていったら、駄目だと思うんです。「杉本先生でなければ描けないから、先生にお願いしたい」というのが理想ですよね。僕も同じように、「マジシャンだったら誰でもいいや」と言われるよりも、「前田さんでなきゃ」と言われたら嬉しいですね。

杉本 ただし違いもあって……漫画だと技巧を凝らし、時間をかけて一枚の原稿に取り組むわけですが、マジシャンは、その場で瞬間的に行うマジックで“個性”を表現しなければならないですよね。ああやって瞬間的にパッと面白い気分にさせてくれるのって、一体何が作用しているんでしょうか? その人が持つ魅力だとかカリスマ性といったものも作用しているんでしょうか?

前田 またとても難しいことをおっしゃいますね(笑)。でもちょっとだけ秘密をお話ししますと……マジックで僕が気にかけているのは、“体の中心線”と“呼吸”ですね。まず、自分の体の中心線をしっかり保ち、体の軸をブレないようにする。次に、お客さんと呼吸が合うようにする。馬鹿なことを言うと思われるかもしれませんが、お客さんが息を吸う瞬間と、吐く瞬間って、非常に重要なんです。なぜかというと、人ってびっくりしたときには「ハッ!」と息を吸うんです。

杉本 あっ、確かにそうですね。

前田 で、息を吸ってもらうためには、その前に吐いてもらうことが重要なわけです。吸いっぱなしでは、お客さんが苦しいじゃないですか。

杉本 なるほど。

前田 例えば最初にお見せした、切ったはずのカードがつながっているというマジックで、僕が「手を開けてください」と言ってカードがつながっていることを確認してもらうとき、杉本先生に思いっきり息を吸ってもらいたいわけです。そのためには、その前に吐いておいてもらわなければならない。だから僕は、「手を開けてください」と言う前に、意味のない変な“おまじない”を唱えましたね? くだらないとよく言われるんですが(笑)、でもその「くだらない」ものに対しては人って息を吐くんですよね。

杉本 はぁ〜!

前田 というようにですね(笑)。

杉本 (笑)。

前田 笑いというのも、実は息を吐く行為です。ですから僕は、お客さんのそういう反応を誘うように、台本を書きます。うまくいけば、演技者の呼吸とお客さんの呼吸が合ってくる。呼吸を意識する、体の中心線を意識する──最近はそんなことを心がけています。マジシャンの“オーラ”とか“存在感”とか言ってしまうと、ちょっと漠然としすぎていませんか? 「どうやったらオーラが身につくんだろう?」とか、「売れたらつくのかな?」とか(笑)、そんなことを言い始めてしまうと、努力できませんでしょう?

杉本 そうですね(笑)。

前田 ところが姿勢とか、呼吸とか、重心とか……スポーツの世界では“体幹”という言葉を使いますが、それらは誰もが練習できるものですから。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。