“さりげなさ”を演じるために

杉本 前田さんのお手元、ネイルがとてもきれいですよね。ネイルサロンでお手入れされてるんですよね。

前田 顔がたいしたことないので……(笑)。

杉本 とんでもない(笑)!

前田 たとえばテレビに出演すると、そのたびにディレクターに「顔はハンサムじゃありませんから、手だけ撮ってください」ってお願いするんです。ですからその分、手だけはきれいにしておこうと。

杉本 そういえば、良がパラパラパラってトランプをめくるシーンで、実は前田さんの手を参考に描いたんです。とてもきれいなので。

『ファンタジウム』より

前田さんの手さばきをイメージして描かれたという「フォース」のシーン。対談の冒頭でも前田さんはこのマジックを披露しました。(『ファンタジウム』第1巻より)

前田 ああ! それはもう本当に光栄です(笑)。でも実は僕の手って、マジシャン向きではないんですよ。手そのものより、“どういうふうに動かすか”というのがポイントなのだと思います。スタニスラフスキーというロシアの演出家が考案した、「スタニスラフスキー・システム」という、俳優の世界では有名な演技法があります。ちなみに、その演技法を採用したのがニューヨークに作られた有名な「アクターズ・スタジオ」で、マリリン・モンロー、ロバート・デ・ニーロ、ダスティン・ホフマン、マーロン・ブランド、アンジェリーナ・ジョリーなどはみなそこで学びました。そのスタニスラフスキーが言うには、「見せることと、ひけらかすことは違う」と。たとえば、誰かが指にダイヤモンドの指輪をはめているとしたら、それはあくまで“さりげなく”しているのが素敵なのであって、「見て、これがダイヤモンドよ!」とひけらかされてしまうと──(笑)。

杉本 引いてしまいますね(笑)。

前田 ですから僕の場合、手を使うときはなるべくシンプルに動きを少なくして……と心がけています。実際は、そんなにきれいな手じゃないのですが(笑)。

杉本 いえいえ、絶対そんなことありませんよ!

前田 立ち居振る舞いに関しては、美術館の絵画や写真集なんかも参考にして、どうしてきれいなのか、その理由を考え、取り入れてみたりします。杉本先生が資料を探して描かれるときと似ているかもしれませんね。

杉本 取り入れるためには、かなり練習もされますか?

前田 練習は、しますね。しますけど、おそらく一般の方が想像される練習とは少し違うと思います。鏡の前で練習するとか、そういうことはあまりない。マジックにおいて“お客さんに悟られたくない動き”をスムーズに行うためには、緊張していては駄目なんです。たとえば車での移動中だったりとか、何かをしている最中に、その“動き”をひたすら繰り返す。そのことを忘れてしまうまでやるんです。

杉本 無意識の動作になるぐらいまで練習されるんですね。前田さんは体調管理もばっちりされるそうですね。

前田 ええ、しますね。特にやっぱり、筋肉を緊張させないように気をつけています。筋肉って、冷やしたり硬くしたりするとダメージを受けるので、常に柔軟にしておくよう心がけていますね。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。