マジックは“服”から始まる!?

杉本 前田さんのブログは、マジックやテクニックの話題があまり出てこなくて、確かにマジシャンっぽくないかもしれません(笑)。

前田 マジックの話が出てこないので、家ではほとんど練習してないように思われてしまうかもしれませんが(笑)。友達と話すことも、主に料理についてとか、建築の話とか、服に関する話がすごく多いですし。

杉本 そういった日常が、何らかの形で前田さんのマジックにも反映されているんでしょうか?

『ファンタジウム』より

タキシードの正装に身を包んだ良。「エスケープアーティスト」編、クライマックス!(「モーニング・ツー」22号より/『ファンタジウム』第5巻収録予定)

前田 それはわかりません。でも、マジシャンにとって大切なことの一つは“衣装”だと思うことは確かです。初対面の観客に会うときに、どんなマジシャンかを判断してもらう要素になりますから。あるお客さんが初めてマジックを見るとき、やはりマジシャンには素敵であってほしいと願うと思うんですよ。値段の高い、ブランドのタキシードを着ればいいということではなくて、まずは自分のスタイルを見せることによって、お客さんとのコミュニケーションの糸口を掴めればいいなと。もちろん、服だけが大事というわけではないですけどね。……でも、こういうことを対談で言ってしまうと、「だから前田はいけ好かない」なんて声が上がるかもしれません(笑)。

杉本 そんなこと言われるんですか(笑)!?

前田 ただ、いきなりマジックの技法の話だけになってしまうのは、やはり違うと感じるんです。テクニックというのは基本的に目に見えないものなので、そこについて語り合うのは本当に難しいことだからです。最初のマジックの最中、僕は杉本先生に「素敵な指輪ですね」って話しかけましたよね?

杉本 ええ、おっしゃっていました。

前田 あれは別にお世辞を言ったわけじゃなく、杉本さんがどういう好みをお持ちで、どんなライフスタイルを送っている人なのかを知りたいと思って、その上で、まず目に見える指輪を素敵だと感じたので、そう口にしたということなんです。僕にとっては、そんなコミュニケーションのほうが重要だったりするんです。

杉本 あ、何やらメンタルマジックのような……(笑)。

前田 でも、それって日常生活では、初対面の際にとる当たり前の行動だったりしませんか? 社会で生きていく中で必要とされるコミュニケーションの一つだと思うんですよ。でも、マジックをしていると、そういうことをたまに忘れてしまうことがあるんです。

杉本 なるほど。

前田 その点、『ファンタジウム』に登場するマジシャンは、みんな素敵な格好をしていると思います。マネージャーの北條さんだって、素敵なキャラクターですよね。

杉本 おおっ! 北條さんにお褒めの言葉をいただきました(笑)。

前田 背は高いし、ハンサムだし、ファッションセンスもありそうだし(笑)。登場人物の魅力的な演出に関しては、テクニックに目が行ってしまいがちなマジシャンよりも、漫画家のほうが長けているのかもしれませんね。もちろん、良くんもとてもハンサムに描かれていると思いますし。

杉本 ありがとうございます。良のステージ衣装は、あえて少しクラシカルな感じにしているんです。テイルコートとシルクハットに、ステッキやマントが似合う、ランス・バートン(※ラスベガスを拠点とするトップマジシャン)のようなイメージで……。

前田 ランス・バートン、素敵ですよね! 彼もインタビューの中で、「マジックの中で大切なのは衣装です」と言っていました。

杉本 ピシッと背筋が通っているところとか、前田さんに似てますよね! ランス・バートンはクラシックなスタイルを基本にしつつも、演目の内容に見事に合った衣装を着たりもしますよね。良も普段着はジャージだったりして、ちょっとオヤジっぽいんですが(笑)。

前田 普段はジャージだけど、ステージに上がるときはタキシードでビシっと着る。そういうところ、すごくいいと思いますね。良くんは良くんなりに、きっと模索をしてるんだと思えます。僕も普段はジャージのように体を締め付けない服が好きですし(笑)。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。