“静かなる戦士”はテクニックの話をしない

対談風景

杉本 マジシャンを漫画の題材にしようと決めた理由のひとつでもあるんですが、たとえば刑事や弁護士なら、既にたくさんの刑事ドラマや弁護士ドラマ、小説などに描かれていることもあって、どんな家庭を持っていて、どんな生活をしているのかが想像しやすいんです。でもマジシャンの場合、普段何をしているのかまったく想像がつかない(笑)。本当にミステリアスで、謎に包まれた存在という感じがするんですね。ところが、前田さんを最初にテレビで拝見してからすぐブログを読ませていただいたら、とても面白くて!

前田 ありがとうございます(笑)。杉本さんに読んでいただけて恐縮です。

杉本 「マジシャンの方は普段こんな生活をしているんだ!」というのを垣間見ることができました。前田さんのブログには、「ヒミツちゃん」という猫ちゃんもたびたび登場して、すごく可愛いんですよね。

前田 なんだか照れくさいですね(笑)。タネを明かすと……ブログは、こういう対談やトークショーのための話題の“貯金”として、日々感じたことなどを書くことから始めました。でも僕は、マジシャンの中では変わっているほうだと思いますよ。

杉本 そうなんですか? どういったところでしょう?

前田 マジシャンって、マジックの話や、テクニックの話が大好きじゃないですか?

杉本 お好きですね(笑)!

前田 世界中のほとんどのマジシャンがそうです。でも僕は、そういったテクニックに関する話はすごく苦手なんです。テクニックを大切にしてないという意味ではないですよ。たとえば音楽家は、ピアノの技法があったからといって、それについて固執したりはしないじゃないですか。僕もそれと同じように、「何を表現したいか」とか「何を伝えたいか」ということを語りたいんです。ダ・ヴィンチの絵を見て、「モナリザがどういう技法で描かれたか」なんて討論をするのは、美術研究者にとっては重要なことかもしれないけど、絵を見る側の人間と絵を描く側の人間の関係においては無意味なことだと思います。漫画家でも、「ここの技法はどうで、こうで」っていきなり語り始めてしまったら、読者が置いていかれてしまいますよね?

杉本 鋭いことをおっしゃいますねー。テクニックということでいうと、マジシャンの方に取材に行くと、「自分のマジックのネタを漫画に使われるのではないか」と警戒されてしまうこともよくあるんですよ。『ファンタジウム』は、マジックのテクニカルなことを細かく描いたりする作品ではないんですけど。そのせいか、たまに「マジックのhow toが何も描かれていない!」というお手紙をもらったりもします(笑)。「割り箸でできる簡単なマジックを教えてください」とか(笑)。

前田 それについては……ほかの入門書を買っていただきましょう(笑)。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。