対談を断ろうと思っていた!?

『ファンタジウム』より

エリートマジック集団「K.O.M」のボス、木戸零士。良との初対面のシーン。(『ファンタジウム』第3巻より)

前田 『ファンタジウム』、たいへん楽しく拝見したのですが、木戸零士というマジシャンが登場しますよね?

杉本 エリートマジック集団K.O.Mのボスの木戸さんですね!

前田 もし、主人公の良くんが木戸零士について行くような展開だったら、この対談を断ろうと思っていたんですよ(笑)。

杉本 えーーーっ!(笑)

前田 それくらい、あの辺りはドキドキしました。もう、純粋に心配だったんです。

杉本 実は、ある取材で、木戸さんのように我が強いタイプの、こちらが押されてしまうような強引な感じのマジシャンの方にお会いしたことがありまして。その人は、マジックがとても上手かったんですね。それが私としては、なにか悲しくなってしまったというか。マジシャンの方にも、強引な人もソフトな人も、いろんなタイプの人がいるんだっていうのはわかるんですが。よく取材に伺う場所に、日本橋のあるマジックショップがあるのですが──。

前田 漫画で拝見しました(笑)。僕もよく知っているお店ですね。

杉本 はい、矢口さんの店のモデルです(笑)。そこの店主さんとお会いしたとき、「マジックには、漫画や小説の表現以上にその人の人となりが出る」……つまり「マジシャンの性格だとか、マジシャンが人に対してどう思っているかとか、そういうものがマジックには反映されやすい」という話になったんです。

前田 なるほど。

杉本 漫画の場合、漫画が完成して掲載されて、刊行物となってから初めて読者の手元に届くわけですよね。ところがマジック、特に前田さんのクロースアップマジックの場合は、マジシャンとお客さんがとても近い距離で、一対一で向かい合って演技されるわけですよね。

前田 はい。

杉本 ステージマジックの場合でも、マジシャンとお客さんとの間にはやっぱり何らかの……アトモスフィア(笑)みたいなものがあって、そこにはマジシャンのパーソナリティのような何かが、滲み出ると思うんです。それは目に見えるものではないし、手で触れるようなものでもなく、簡単に言葉にできないんですが……私が観客としてマジックを見るときには、確実に存在するものとして感じることができるんです。そういう意味で、前田さんのようなマジシャンが日本に存在することが、とても貴重というか、ありがたいというか、嬉しいというか……。

前田 先生、それは褒め言葉が過ぎるというか、なんというか(笑)。嬉しいですね、ありがとうございます。

『ファンタジウム』より

日本橋の有名マジックショップがモデルになっているという、「矢口さんのマジックショップ」。これは良が初めてショップを訪れたシーンです。(『ファンタジウム』第1巻より)

杉本 いえいえいえいえ、そんな、先生だなんて!

前田 そういえば昨年、アメリカのマジック専門誌で僕の特集を組んでいただいたとき、“Quiet Warrior”(静かなる戦士)というタイトルを付けられて、興味深いネーミングだなと思いました。「自分はこんな素晴らしいマジシャンだ」とか、「こんな立派な場所で仕事をしてきた」「こんなスゴい賞をもらった」「こんなセレブリティにマジックを見せている」など、しばらく言わずにいた。それが向こうの編集者にとってはとても珍しいことだったらしくて。普通は宣伝しまくるのに、それをしないことが逆に宣伝になったんですね。

杉本 まさに木戸さんの正反対ですね(笑)。

前田 僕はマジックをすることに満足してしまっていて、それをあえてほかの人に宣伝する必要はまったくないと感じているんです。僕も含めて人間って、「自分はこんなに素晴らしいのに、世間は評価してくれない」というようなストレスを感じていると、自己主張が過ぎてしまうのかもしれません。

杉本 そういったストレスにさらされないよう、ご自分をなるべくクリアな状態に置いておこうと努力していらっしゃるのでしょうか?

前田 できるだけ謙虚でいるようにしています。ただ、謙虚すぎると今度は未熟だと思われてしまって、関係者に「お客様に対して失敗をしないか」と心配されることもありました。そんなときには、相手を安心させる意味で、過去の仕事を少しだけお話するんです。自分だけでなくお互いをクリアな状態を保つのは、そんなバランスだと思います。

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杉本亜未

漫画家。2月27日生まれ、横浜市出身。うお座O型。サン出版(現マガジン・マガジン)刊「JUNE」誌(現在休刊)の『竹宮惠子のお絵かき教室』への投稿が、デビューのきっかけとなる。2006年よりモーニングスーパー増刊「モーニング・ツー」で『ファンタジウム』を連載中。好きな食べ物は有機野菜。特技は料理で、それを生かし現在「Superクロスワード」誌(マガジン・マガジン)で『おしえて!アンサーちゃん』も好評連載中!

前田知洋

クロースアップ・マジシャン。1965年、東京出身。1988年、ロサンゼルスのマジックキャッスルに日本人最年少で出演。2004年より「スーパーテレビ 奇跡の指先 前田知洋」「徹子の部屋」ほか、多くの番組に出演し、近距離で見せるマジックのブームを巻き起こす。2005年にはマジック・サークル・ロンドンの100周年イベントにゲストで招かれ、最高位のゴールド・スター・メンバーを授与される。2008年には米国のマジックの専門誌「GENII」の表紙を飾り特集を組まれた。著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密の言葉』(日本実業出版社)など。