作品世界に映し出される、家族の肖像
——お二人の作品世界の共通点として、どこか疑似家族的な、集団のドラマを描かれていることがあるのかなと思ったんですが。
オノ やっぱり、子供の頃から見ていた、警察もののドラマだったり、映画だったり、そこからの影響は強いと思います。集まるべき場所がひとつあって、そこに人が集まっている、そういう状態を描くのが好きなんですよね。
中村 私も好きです! 私の場合は、うちの家族が異常に仲がいいので、それでかなぁと。私の家族の話をそのまま描いているときもあります。でも、そういうふうに集まれる人たちへの憧れ、みたいなものも大きいですね。基本的に私は集団行動が苦手なので(笑)、本当はこういうふうにできたらいいのに……っていう気持ちで。
オノ 私もあんまり大勢は苦手です(笑)。うちも家族はすごく仲がいいのですが、そこからの影響って、やっぱり大きいんですかね。
——いいですね、あったかい家庭を作ると、娘が売れっ子漫画家になるんですね(笑)。
オノ うちの父親は、私が漫画家になったことが嬉しいみたいですね。このあいだ法事があって、神戸に住んでいる親戚から、アニメ(『リストランテ・パラディーゾ』)のポスターが張ってあったという話を聞いたらしいんです。そしたら、ポスターが見たくて、その日のうちに神戸に行っちゃったんですよ。でも場所をちゃんと聞いてなかったみたいで、夕方ぐらいに「神戸に来たけど、ポスターが見つからなかったので、帰ります」っていうメールが来て(笑)。母親にも言わずに行ったみたいなんですよ。「言ったら怒られるかなと思って」って……。
中村 かわいい!
オノ そういう家の娘です、私は(笑)。
中村 うちもいい家族です。私がひとりではちゃんと生活できないってわかってるので、漫画だけ描いていればいいように、ごはんを作りに来てくれたり、お部屋を掃除に来てくれたり、結構頻繁に来てくれますね。すごい助かってます。
オノ うらやましい~。
中村 父は料理がすごく上手くて、パンなんかも自分で作るんですね。お母さんも上手くて、姉も上手いので、私はいっつも、何にもしないでごはんが出てくるのを待ってるだけで(笑)。
オノ 仕事に集中できるように、って家族がサポートしてくれるのは幸せなことですね。
中村 家族の理解があるのは、ありがたいです。

——モーニングには、『天才柳沢教授の生活』から『ひまわりっ』まで、女性作家によるユニークなお父さんをモデルにした漫画の系譜がありますが、お二人のお父様はどんな方なんでしょう?
中村 うちの父は、ちょっとアル・パチーノっぽい感じですかね(笑)。昔はすごく派手好きで、腰ぐらいまでのウェーブがかかったロン毛に、ピンクのスーツとかを着て、デザイン会社で働いてました。
オノ 中村さんの漫画に出てきそう(笑)!
中村 でも、突然、髪を坊主にして、じんべえを着て、陶芸家を始めましたね。
オノ 人生を楽しんでらっしゃる、アーティストタイプなんですね。うちは意外と体育会系の父で(笑)、トライアスロンをやっていた頃があって。
中村 トライアスロン!?
オノ はい(笑)。あと、すごくミーハーです。娘が言うのもおかしいですけど、かわいいところがあって、ちょっとしたことが漫画のネタになるんですよ。このあいだも、父から荷物が届いて、坊っちゃん団子と愛媛のタルトが送られてきたんです。愛媛旅行のお土産かなぁと思っていたら、ちょうど写メが来て、「いま愛媛でお団子食べてま~す」って。「?」ってなって聞いてみたら、せっかくだから私と同時に坊っちゃん団子を食べたくて、旅行前までに手配を済ませてたらしいんです(笑)。
中村 すごい! かわいい!
オノ なんでそんなこと思いつくんだろう?ってことを、やってくるんですよ。狙ってやってないところがいいんですけど。あったかい家族だとは思います。
中村 いまのエピソード、オノさんの絵で、頭の中で再生されてます(笑)。
オノ いつかこれも、漫画に使えますかね(笑)。いつか使えそうなネタ、まだまだたくさんあるんですよ。『LA QUINTA CAMERA』の、日本人の男の子のお父さんなんかは、うちの父親がやったことをわりとそのまま使っていたりします。中村さんもそういうことってありますか?
中村 『聖☆おにいさん』の二人は、うちの父の感じはあまり入ってないですね。あ、でも、イエスの痩せ方は似てます(笑)。