青木雄二+わたせせいぞう、かわぐちかいじ+さだやす圭の歴代選考委員各氏が礎を築き、発展させてくれたMANGA OPEN。今回の第29回コンテストより、東村アキコ(『主に泣いてます』)+山田芳裕(『へうげもの』)両氏が審査を担当。「笑い」を強く意識するお二人ゆえ、ユニークな評言を連発。従来にもまして、爆笑に包まれた最終選考会となりました。モーニングが求める作家、作品とはなにか? 青年誌ならではの「漫画論」に踏み込んだ議事録というか、トークライブをお楽しみください。なお、まな板のコイとなった新人の皆様には心よりお詫びします。愛のムチ、親心だと思ってください。一人でも多くの才能が、世界へ羽ばたきますように。
※選考委員の肩書きは選考会当時のもので、現在とは異なる場合があります。

[漫画] 『Show』 中原一 (東京都・33歳)

事務局長・藤沢
お茶の水にある日本マンガ塾で講評させてもらった作品です。本人はレディース志望ということだったけど、他誌の編集者からも「入賞レベルでは?」という評価があり、今回応募してもらいました。東村さん、いかがでしたか?
東村アキコ
最終選考まで残った12本を評価するにあたり、自分の基準となったのは「キャラクターに魅力があるかどうか」ということです。言い換えれば「強く心を惹きつけられた瞬間が一瞬でもあるかないか?」という話ですけど。この作品は難解なところもないし、普通に読めるんですよ。でも三人の主役たちのキャラクターに魅力がないというか、三人もいるのに一人も魅力的じゃない。主人公も、かわいいのかブスなのかよくわからないし(笑)。どちらかにはっきりカテゴライズされていないと、物語に入り込めないですよね。あと、二人の男の子は、なぜこの女の主人公と一緒に活動してるのかが曖昧で、ちょっと気になってしまいました。話自体はわかりやすくてよかったので、キャラクターに魅力があれば、いや……魅力があっても難しいかな?(苦笑) 「文化祭ネタ」は個人的に引っかからなかったというか、あまり好みではないので、正直評価しづらかったですね。
モーニング編集長・島田
話の内容的には、「自分探し系」ですよね、これ。
東村アキコ
そうですね。作者自身も「一発当てよう」とか「儲けよう」とか、野心のある話ではありませんからね。「自分探し」は禁じ手にしてほしいです。
編集部一同
(爆笑)
事務局長・藤沢
ちなみに、作者はイブニングでも賞をとった経験があり、数年間担当がついていたそうです。現在はある漫画家さんのアシスタントをされてます。山田さんの感想はどうですか?
山田芳裕
いや? 言いたいことは東村さんが全部言ってくれたような(笑)。いや、でも、東村さんの評価はだいぶひねくれてる気もしないではないすね(笑)。
編集部員・Y口(担当)
自分はこの漫画のジャンルを「仲間もの」だと感じています。三人の力を合わせて何かを成し遂げる過程が、うまく描写されている。その点を評価していますし、これからもそういう方向性で描いてもらいと思っています。

[漫画] 『HOTEL愛』 原田尚 (東京都・25歳)

事務局員・岡山(担当)
去年のコミティアで持ち込みを受けました。作者は美大出身で、すでに他誌で受賞歴と掲載歴があります。画力の高さと、ストーリーにあわせて様々な画が描ける才能に注目しています。この人はすでに「自分探し」を終えていて(苦笑)、地に足をつけて漫画家を目指している最中です。
編集部一同
(笑)
事務局員・岡山
キャラクターの表情を豊かに描き、それを読者に伝えようとする意欲を感じます。たとえばラストで、フィリピン人の女性が別れの前に主人公にかけた言葉「Mahal kita」はフィリピン語で「愛してる」という意味ですが、訳や注釈ナシでも読者が想像できるように、前後のコマの二人の表情のみで描かれています。よけいなテキストに頼らず、画で勝負しようとする。その姿勢がすばらしいと思います。
事務局長・藤沢
山田さんは、かなり評価が高いですね。コメントに「達者」と一言書かれていますが、どのあたりですか?
山田芳裕
そうすね(笑)。いや、自分にはこういう話は描けないんですよ。それに、なんか「懐かしいな」って思ったので、評価を高めにつけさせてもらいました。古き良き時代の、ちばてつや賞の匂いがするっていうか。
事務局長・藤沢
山田さんはちば賞出身ですよね。この作品に足りない部分は?
山田芳裕
うーん、「お金を出して買うか?」って聞かれたら、買わないかな?(笑)
東村アキコ
画が上手く背景もきれいに描かれていて、漫画として読みやすかったし、イヤなところもなかった。ただ、目や顔の描き方に強烈な特徴を感じなかったので、好きな作家の真似などして描いた方がいいのではと思いました。たとえば登場人物のフィリピーナが、フィリピーナに見えなかったです。ガン黒な日本人という設定なのかと思った(笑)。新井英樹さんの描く「ちょっぴり下品だけど可愛い」フィリピーナ(『愛しのアイリーン』)みたいな、強烈な魅力があるといいですね。ストーリーはエンタテインメントとして成立していると思います。「一軒のホテルがあって、そこに人々が集まってくる」という形でシリーズ化、または連載化できそう。いろいろ言いましたが、お客様を意識している姿勢に、私はとても好感を持ちました。というと、なんだかエラそうな感じですけど。
事務局長・藤沢
お二人の意見を聞いていると、「決定打がない」という印象を受けますが。
東村アキコ
そうですね。タイトルの『HOTEL愛』ってのが、ちょっとね。もっと変な名前のホテルがいいんじゃないですか?
編集部一同
(爆笑)
モーニング編集長・島田
ストーリーにしてもホテルの名前にしても、まあ文句はないですけど、あまりにも「普通」なんですよね。「そうくるとは思わなかった!」というような意外な展開や要素が、一つは入っていないとダメなんじゃない?
モーニング・ツー編集長・田渕
この人は今回、全く別の作風の同人誌作品もエントリーしてましたね。
事務局員・岡山
この作品より垢抜けた線でざっくり描かれた作品でした。色々なタッチで描く器用さを持つ作家なのですが、そのせいで「勝負できる線」を絞り込めていないのでしょうか。
モーニング・ツー編集長・田渕
自分はそちらの作品を評価していたのですが、『HOTEL愛』と基本的なコマ割りのリズムはそれほど変わらないので、ナチュラルボーンというか、計算せず天然でコマを割っている人なんだろうな。
山田芳裕
この作者は、取材とかされてるんですか?
事務局員・岡山
取材と言えるかわかりませんが、プライベートでそういったホテルに寄った際に……資料用の写真を撮って集めているそうです。
山田芳裕
実際、ホテルの受付に、主人公のような小学生の女の子がいたのかな?
事務局員・岡山
いえ、そこはフィクションだと思います。
事務局長・藤沢
自分は古い人間なので(苦笑)、つい昔を思い出してしまいますが、「人形は顔が命」ってCMがありました。同じように先輩の編集者たちから「漫画も顔が命」だと教えられた。つまり「顔が個性をつくる」ということですが。しかし最近の描き手は、あえてそういうことをしないんだなと感じることが多いんです。
東村アキコ
そうなんですよね。
モーニング編集長・島田
モーニングの新人賞に応募してくる人に対して、昔から感じていたことなんですけど、プロ作家のフォロワーが意外と少ないんですよ。それこそ山田芳裕さんや東村アキコさん、最近だと、たとえばツジトモさんや小山宙哉さんの影響を受けて描いて送ってくる人が、ほとんどいない。自分には不思議で仕方ないんです。
東村アキコ
フォローすることを、「いけない」と感じているのかな?
モーニング編集長・島田
東村さんが、以前スーパージャンプで審査員をされていた時はいかがでしたか?
東村アキコ
さすがに、山田芳裕さんをフォローできている方はいませんでした。
編集部一同
(爆笑)
モーニング編集長・島田
山田さんやすぎむらしんいちさん(『老人賭博』連載中)をフォローできる作家なんて、なかなかいないだろうなあ。
東村アキコ
今の人は少し「ビビリ」の傾向があるから、「この作品って、あの作品に似てるよね」なんていうことを言われてしまうと、傷ついてしまうのかもしれないですね。
山田芳裕
ひゃひゃひゃ(笑)。ま、それはそれでいいんじゃないすか?
東村アキコ
誰かの真似をしないで描いた画って、「自分の脳の画」であって、頭の中で抽象化された画というか、なぜか同じような画になる傾向があるんですよ。たとえば真似しないで描いた人物の横顔って、ウチの仕事場では「横顔北海道」って呼んでるんですけど(笑)、地図上の北海道みたいな感じに見えるんです。平面的で特徴がないというか。なぜ北海道かよくわかりませんけど(笑)。だから私は絶対、真似した方がいいと思うんです。いろんな作家さんのいい部分をちょこちょこ真似して、それを「記号化」して使うというか。
モーニング編集長・島田
うーん、至言ですね。
東村アキコ
たとえば、コマによって同じキャラの顔が変わってしまうのは、「記号化」されていないからだと思うんですよね。だからやっぱり、好きな作家さんの真似って大切なことだと思います。
事務局長・藤沢
東村さんも、新人の頃に真似した作家さんとかいらっしゃるんでしょうか?
東村アキコ
私が原稿の横に置いて描いたのは安野モヨコ先生とか、松苗あけみ先生とか、少女漫画家の方の画が多かったです。今も原稿の横に置いてますけど(笑)。
編集部員・Y原
『きせかえユカちゃん』を描いた時期は、『マカロニほうれん荘』を横に置いて描いてらっしゃったんですよね?
東村アキコ
ええ。さすがにトレースまではしてませんけどね(笑)。

[漫画] 『本で知っている。』 トトキマコト (東京都・28歳)

山田芳裕
印象がちょっと薄いかな。
事務局員・関根(担当)
作者は二十代後半の女性で、いろいろ面白い経験をされているようです。いわゆる日本人的な価値観ではなく、世の中をあえて斜に見るユーモアがあり、物事を多面的に捉えられる人かなと。たとえば、今の日本女性の価値観は、ちょっと画一的すぎるんじゃないか、「結婚」を肯定するのはいいけど、なぜ結婚だけが人生だと一面的に思わなきゃいけないのか、どんなことでも客観的に見られる人なんじゃないかと思っています。
山田芳裕
そうなんすか。この作品を読む限り、そういう人とは思えなかったかも。
事務局員・関根
でもご本人は、高校生のときに抱いたりする、社会に対する疑問というのをちゃんと持っていて、それを大学生のキャラクターを通して表現していたのだと思います。作者自身、主人公の「さとりちゃん」に似ている部分もあって、とても面白い人です。お姉ちゃんがいらっしゃるそうで、こちらは「ゆとりちゃん」に似ているそうです。
東村アキコ
なんか、要するに『CanCam』を読んでいる女子と、『CUTiE』とか読んでいる女子を双子にして、という話ですよね。
編集部員・I上
関根さん、『CanCam』ってなんだか分かってる?
事務局員・関根
『CanCam』は、えーと、たくさん売れてる雑誌。ハハ。
編集部一同
(爆笑)
事務局員・関根
私が注目したのは、「さとりちゃん」のセリフがすごく面白くて、一つ一つがマイペースでユーモアがあって、これはキャラクターを作れる人に違いないと思いました。ただ、ひとつ気になっているのは、二次選考で「この作者は自分のことしか描けていない、他人をキャラクターとして客観的に描けなかったとしたら、将来性に疑問がある」と言われたのですが、なぜそういった部分が懸念されるのか? という点です。
事務局長・藤沢
なるほど。この作者の売りは、セリフが際立ってうまい、ネームが良いという点ですね。という作品なのですが、山田さん、改めてどうですか?
山田芳裕
うん、これはもう、大学生とかじゃなくて、「今」のことというか、自分の現実を描いた方が面白いんじゃないですかね? 今回の作品はなんで大学生にしたんでしょう? たとえばですけど、大人になった今の体験を描いてもいいわけだし。
事務局員・関根
なるほど。今のところ打ち合わせでは、現代日本人の結婚年齢がとても遅くなっていることに注目して、「結婚したい人」「結婚したくない人」で何か描けないか、というテーマで話しているのですが。
山田芳裕
うーん。どうなんですかねえ。
事務局長・藤沢
「今の自分を、もっと描いてみれば?」という提案ですね。東村さん、どう思われますか?
東村アキコ
セリフやキャラクターに面白味があって、他の作品と比べてもけっこう魅力を感じました。主人公を双子にして、片方がモテ女子で、片方がちょっとひねくれてる子でという設定で、ちゃんと面白そうになる感じですしね。ちょっと突っ込んで考えてみると、ご本人は28歳なんだけど中二病が残っている面もあって、このさとりちゃんのような、自分のことを客観的に見られなくて、周りの人からすると笑えてしまうというか、「薄ら寒い」とか思われるんでしょうが、それをあえて自覚的にやっているんじゃないか。そういう面白い人って現実ではなかなかお目にかかれないから、漫画で見たい、っていうのはすごくよく分かりましたね。なかなか面白いと思います。たとえば福満しげゆき(『僕の小規模な生活』)さんみたいな(笑)、あえて自意識過剰で、全然大したことなんかないことで、グジグジしたり、一般のモテ女と比べればカースト的にはそっちの方が上だと思うのですが(笑)、あえてそういう一般女を「何の面白みもない女」とバカにしてみたり。こういうのをわざとこじらせ続けて、「女版福満」など目指しても面白いんじゃないでしょうか。
モーニング・ツー編集長・田渕
どうなんですかね、仮にそういう人だったとして、こじらせっぱなしでいいのかな。男だとこじらせっぱなしでいいわけだけど(笑)
東村アキコ
えーと、そうですね。「ゆとり」と「さとり」という名前ひとつとっても、「さとり」は悟りというかモテ女子のほうで、お前が「ゆとり」だろ! というツッコミの構造も狙っているのかなと。そこもけっこう面白かったから、もしかすると客観的にやっているのかも知れませんね。
事務局長・藤沢
画はどうでしょう。変えた方がいいですか?
東村アキコ
まだそんなに固まっているわけでもなさそうだし、完全に変えてもいいんじゃないでしょうか。作家としてのセンスは、ツッコミどころも満載で、良いと思いました。

[漫画] 『凌霄花の皮を剥け』 山雲蝮 (東京都・25歳)

事務局員・篠原
これは持ち込みで来た作品ですね。
東村アキコ
私はこれ好きですね。ある意味一番いいと思いました。画もいいし。古屋兎丸さん(『ショートカッツ』ほか)系な感じで、キャラクターもできていると思います。明るいし、面白いし、トビラからして好きですね。「いいないいな」と思って読み始めて、グータラしているオジサンもいいし、若い美少年もいいけど、でもね、ストーリーはひどいなと思いました(笑)。キャラクターが最高にいいから、主役の二人が家でダラダラしてるだけでいいのに、ムリにストーリーを作らなきゃとか、起承転結をつけなくちゃと思わずにやってほしかった。ストーリーを作る能力はたぶんないと思うので(笑)、キャラクターでどんどん勝負してほしい。主役たちには萌えを感じたし、エロい感じもするので、この二人がお花見したり、七夕行ったりというふうに、キャラクターを回して話を作ればいいのに。ただ、途中で出てくる二頭身のキャラクターは手抜きなのか、作者の愛情がまったくないですよね。それも含めてあれこれおもしろかったです。
事務局長・藤沢
個人的には山上たつひこさんの『喜劇新思想体系』を思い出すような作品です。読み出した時には、「おっ!」とヨロコビましたが、たしかにこの二頭身キャラはね〜。山田さんはどんな感想ですか?
山田芳裕
いやーおもしろかったですよ。ただ、最初のテンションのまま、最後まで突っ走ってほしかったですけどね。たしかに二頭身のキャラクターはちょっとなー。
事務局員・篠原
そのキャラクターは、どこか別の編集部に持って行った時に、「キャラの描き分けをしないとねー」なんて言われて素直に描いちゃったらしいですよ。
モーニング・ツー編集長・田渕
私もこの作品は大好きですね。この人には、漫☆画太郎を目指してほしいです。東村さんがおっしゃったように、ストーリーはないが随所にサービス精神が満ち溢れているんですよね。1ページ目の1コマ目から笑えますよね。
山田芳裕
そうそう。「なんでこんなアングルなんだ?」ってね。
事務局長・藤沢
本日初めて、山田さんと東村さんの意見が一致した気がします。

[漫画] 『仔羊日誌』 小森羊仔 (福島県・22歳)

事務局長・藤沢
けっこう長い作品ですが、いかがでしょう東村さん?
東村アキコ
私の評価としては、画はすごく上手だなと感じたんですが、お話の方は、自分の半生を忠実に再現したような感じで、なかなか楽しめない……というか、卒業制作みたいな感じなのかな? と思いました。でも、自分自身のこと以外のフィクションを描いたら、すごく上手いのでは、とも思いましたね。
編集部員・K林(担当)
まさにそうなんです。ちばてつや先生が教えていらっしゃる文星芸術大学の学生さんで、この作品は卒業制作ということなんです。だから、面白さというよりは自分語りの作品となっているんですね。あえて卒業制作を応募したのは、MANGA OPENの規定が他の賞とはちょっと違っていて、「何でもアリ」だったからだということでした。
事務局長・藤沢
なるほど。ちょっと巡り合わせが悪かったのかな。
編集部員・K林
新人賞は、作品自体の面白さというよりも、作家性で見るところもあるので、画の上手さ、かわいさなどすごく評価しています。
モーニング・ツー編集長・田渕
これから卒業制作だけは禁止にしようか(笑)。
東村アキコ
卒業制作と知らなくて、ちょっと辛辣な評価をしちゃったかもしれません。卒業制作は、誰しも自分の半生を振り返るというか自分語りになると思いますから、そう考えると素晴らしいと思います(笑)
事務局長・藤沢
この作者の日常と全く違う世界の漫画、もっと街に出て描いたものをぜひ読みたい。そういった感じですかね、山田さん?
山田芳裕
そうですねえ。たぶんね、この人はすごく上手いと思うんです。画なんて俺よりよっぽど上手いから(笑)。そうなるとやっぱりネタ次第じゃあないですかねぇ。
事務局長・藤沢
新人賞作者自身のこと、心象風景を描いたものがどうしても多くなります。もっといろんなものにトライしてほしいということで、今後に強く期待です。

[漫画] 『俺達はまだ何も始まっていない』 米島篤志 (埼玉県・32歳)

事務局員・劔持(担当)
実際に会ってみたら前髪だけ青い人でした(笑)。彼は書店員さんで、どこかの出版社の営業の人にネームを見てもらって、「これなら新人賞に出してもいいだろう!」とゴーサインが出て、この作品を応募してきたそうです(笑)。稚拙なんだけど一生懸命描いているところに好感を持てたのと、TENGAを電子レンジで温めるところとか、小ネタも効いていて非常に面白いなと思ったんですが……。
事務局長・藤沢
東村さんのコメントがふるってますね。「何も始まってないなら漫画にしないでほしい」って(笑)。もちろん本人は一生懸命描いたんだと思うけど。どのへんに空疎な印象を持ったんですか?
東村アキコ
1ページ目を見たときに、この女の人を殺してくれるのかと思ったんですよ。主人公が藤子不二雄先生の『魔太郎がくる!!』の魔太郎にそっくりだったから、これは期待大だと思って。魔太郎好きだったもんで。ここまでほのぼのした作品が続いてたので、主人公がストーカーで病んでる雰囲気だったし、「この恨み晴らさでおくべきかー」みたいな感じでバイオレンスがきそうだと期待してたんです。で、殺すのかなーと思って読み進めていったら、全然「はあ?」みたいな。途中から「ちょっと待って」ってなって、「もしかして何も起きないってことはないよね」と思いながら読んでて、さすがにラストは主人公がこっぴどくフラれるか、もしかしたらハッピーエンドなのかなと思ったら、何も起きないまま最後のコマに「まだ何も始まっていない」とか描かれてて、ムッカーってなって「時間返してよ」ってなって。「こんだけ付き合わせてそれはねーだろ」と。で、怒ってキツいこと書いちゃったんですけど。まあ要はストーカーマンガだと思って読んだら全然違ったんですよね(笑)
事務局長・藤沢
「何も始まってない」という、逆説的な面白さはあるかもしれないけど、あまりに逃げ腰。核心から逃げちゃってるって感じですかね。じゃあ、あまり評価するポイントはないってことですか?
東村アキコ
そうですね、まったくないですね。魔太郎に似てるってことぐらいですね。
編集部一同
(笑)
事務局長・藤沢
山田さんは?
山田芳裕
場面転換がよくわからなかったんだよね。間が飛びすぎちゃってるというか。そのせいで、疲れたときに読むと先を読みたくなくなっちゃう。まあでも、なんか昔のヤンサン(=ヤングサンデー)に載ってたような漫画だよね。
モーニング編集長・島田
それってどういう評価なんですか?(笑)
山田芳裕
いや?
事務局長・藤沢
具体的に言ってほしいんですけど。
山田芳裕
うん、だから、わりとよくある流行りの漫画って感じだよな。別に暗くすることねえと思うんだよね。わりとダークな雰囲気を出そうと、すごくがんばってるんだけどさ。
東村アキコ
ダークな要素ないですよね。
山田芳裕
ダークなものに憧れてるだけなのかねえ。
事務局員・劔持
本人は落伍者を描きたいって言ってるんですけど。ちゃんと落伍させろってことでしょうか?
山田芳裕
うん。
事務局長・藤沢
新人で落伍者描きたい人ってはけっこう多いですよね。やっぱり若いうちって、挫折感とか劣等感が強かったりするからかなあ。この人は落伍してなさそうな気がするけど。
モーニング編集長・島田
作家になるには、芥川賞を取った『苦役列車』の西村賢太みたいに、逮捕されなきゃだめなのかな、2回くらい(苦笑)。
モーニング・ツー編集長・田渕
ヤンサンがやってた「童貞路線」って、今(ビッグコミック)スピリッツが引き受けてるじゃないですか。詳しくは省きますけど。二次選考でも、本人の内面から出たものではなくて、「童貞漫画」が流行ってるからその路線に乗ってるだけなんじゃないのみたいな話が出たんですよね。
山田芳裕
あー、そうかもね。
東村アキコ
キャラクターに命がないから話が転がりもしないし、なんもならんのですよ。漫画の中のこの男の人はこの女の人を心から欲してはないし、この女の人もこの男に好きって言われてキモイともイイとも思ってないわけで。これはキャラクターに命が吹き込まれてないってこと。だから落伍者風味に終わるっていうか。
モーニング編集長・島田
落伍者風味(笑)。名言が続々と出ますねー。
東村アキコ
人をけなすことならいくらでも(笑)。応募者の人たちには気の毒だけど、今日は投稿者時代の恨みを晴らそうかと。私もぼろくそ言われてきたんで。
編集部一同
(爆笑)
モーニング編集長・島田
こんなことで心が折れるようじゃダメだと(笑)。
事務局長・藤沢
じゃあ実際に落伍してから描けってことで締めますか。ゴメン。

[絵本] 『マザーズボーイ』 宮崎もも (宮城県・23歳)

事務局長・藤沢
次は絵本です。事前に説明しましたけど、この人はモーニング・ツーの連載作家なんですね。
編集部員・Y川(担当)
ツーでは「夏次系」の名前で『夕方までに帰るよ』という、主人公のお姉ちゃんが一人暮らしの部屋の中に段ボールハウスを作ってその中に引きこもっちゃうという、わりと空虚な若者みたいな話を描いています。今回、先生方の意見が聞けるのを楽しみにしていたんですが……お二人とも採点表にコメントが何も書いてないということで……。
編集部一同
(笑)
事務局長・藤沢
あら、二人とも寸評が書かれてないですね。部内選考での評価はけっこう高かったんですが……。
東村アキコ
私も個人的には好きですよ。普通に泣けましたし。
事務局長・藤沢
ちなみに何点ですか? 相対的に見て。
東村アキコ
さっき慌てて書いたんですけど、5ですかね。10点満点で。まあ評価してどうこうという感じでもないのでアレですけど。あえて言わなきゃいけなくて言うんだとしたら……私は漫画を人に薦める時とか自分で読む時とか、描く時もそうですけど、地元の宮崎の友達に薦められるかどうかってのを指標にしていて。なんでかっていうと、初期の頃、自分の漫画がとにかく地方で売れてなくて、都市部ではまあ動くんだけど、地方で売れなくて。東京と地方の文化の開きってすごくあるんですね。この絵本はそういう意味で、地元の友達には「これすごくいいよ」って薦めることができないかなと思いました。玄人好みな感じがするというか。私自身はすごく好きなんですけど。でもせめて絵本にするんだったら、この犬が人間なのか犬なのかくらいわかってもいいのかなって気もしましたね。でもキレイでした、画自体も。
モーニング編集長・島田
MANGA OPENって「なんでもアリ」の賞なんで、最近はさすがに減ったけど、フィギュアとか、あるいはなんかヘンテコなものも送られてくるわけでね。
東村アキコ
でも感動はすごくありました。最初の原稿用紙のくだりで、何度も書いて消してっていう演出で爆泣きみたいな。そういう細かい演出もよかったです。
事務局長・藤沢
山田さんはアックス(青林工藝舎)に向いてるんじゃないかとか言ってましたよね(笑)。
山田芳裕
うん、これってこの人の本来の画なんですか?
編集部・Y川
何種類かの画を描き分けることができて、その中のひとつです。とても器用な方で。
事務局長・藤沢
ツーの連載作とそんなに違わないでしょ。決して技巧派じゃないと思うけど。
モーニング編集長・島田
でもツーの連載を読む限りじゃ、この人がその人だとは絶対に思わないでしょ。まあこんな画で漫画描いてたら大変だって気もするけど(笑)。
山田芳裕
この絵本はかなりかっこいい方向性だよね、どっちかっていったら。俺にはどうしても笑いを求める感覚があって……。
事務局長・藤沢
体裁は普通の漫画とはちょっと違うけど、漫画から飛び出している、はみだしているって印象はないってことですか?
山田芳裕
そうですねえ。(ツーの連載漫画を見て)あ、ちゃんとしてるじゃないすか。なんでこの絵本を描いたの?
編集部・Y川
何も言わずに突然送ってきたので……。電話で聞いたら、「ただみんなの感想が聞きたかったから」って言われました。
事務局長・藤沢
愉快犯ってことですか(笑)
モーニング編集長・島田
いやいや、MANGA OPENって、たしかに「なんでもアリ」って賞なんですけど、さすがにモーニングで連載している作家さんがフツーに漫画を送ってくるってのはナシだと思うんですよ。
東村アキコ
たとえば私がろくろで茶碗作って送るってのはアリなんですか?
モーニング編集長・島田
まさにそういうことですね。彼女は絵本を作ってみたかったんでしょ。だから違う作家として送ってきたってことだよね。
山田芳裕
絵本のほうがやりたかったってことなの?
モーニング編集長・島田
いや、絵本作家としても立ってみたかったってことなんですよ。
編集部・Y川
ご本人は、自分の可能性を試してみたかったと言ってました。
東村アキコ
私、ツーの連載作品好きなんで、すごくびっくりしました。
モーニング編集長・島田
絵本としては、テーマと技巧とストーリーとが一致してるといいますか、目指してる世界観をすごくよく出せていると思います。極論すれば、これで賞をとったら実際に絵本を出版してもいいわけですからね。
山田芳裕
でもなんちゅうか、ヘタウマなんだけど、いくらヘタクソに字書いても、ホントはうまいのがバレてるんだよね。そこがちょっと嫌みなんだよ。そこはバラさないでほしいよなあ。

[漫画] 『その子の笑顔が世界を救う』 肥谷圭介 (埼玉県・30歳)

事務局長・藤沢
部内選考ではこの作品が一位でした。東村さんもこれが一番点数が高いんですね。
東村アキコ
そうですね。
編集部員・Y口(担当)
ヤングアニマルで読み切りデビューしている人なんですが、「エロくて可愛い女の子描いて」なんて言われるのがイヤで、モーニングに持ち込んだそうです。学生時代にいじめられた経験があって、今でもヤンキー見ると無性に腹が立つとそうなんですが、そのエネルギーを漫画にぶつけて、弱者が強者に立ち向かう話を描いていきたいと言ってます。いじめられっ子がヤンキーを倒すみたいな。
山田芳裕
ヤンキーを倒すってのは、痛快でいいっスね。
事務局長・藤沢
まあたしかにアニマルには合わなさそうな作風ですよね。
編集部員・Y口
エロより、人間ドラマを描いていきたいってことです。
東村アキコ
キャラクターがすごく生き生きとしてるのがとても良いなって。女の子が可愛いし、脇キャラのおばあちゃんも目なんか真っ黒で、「こういう人、田舎にいる」って感じがする。女の子がまっすぐに図々しいこと言うんですけど、それもこの子らしい行動に見えちゃうし。画柄もいろんな作家さんから良い影響を受けて自分のものにしてる。一見すると悪いところは見つからないですよね。「◯◯風味」に終わらないオリジナリティがある。この人の漫画をガッツリ読んでみたいなと思います。
山田芳裕
東村さんのおっしゃるとおりですよね、作品としては良いと思いやす。ただ、さっき出たヤンキーを倒すって話がこの作品の中でも見たかったよね。悪役描くのが割と下手なんかなという感じがしやすねえ。主人公を馬鹿にしてる奴らがちょっと薄味なんで、もうちょい強烈になるとそれこそ連載になるんじゃないすかね。
事務局・藤沢
続きが読みたいなって感じ?
山田芳裕
それこそ、このヤンキー次第っすよね。ここに描かれてるのは典型的なヤンキー過ぎて、そこがちょっとね。
事務局・藤沢
まあ新人賞の応募作としてはかなり評価は高いかな。完成度もスゴく高くて、もちろん大賞候補なんだけど、将来性についてはどうですか?。
モーニング編集長・島田
技術的には全く問題ない。このまま雑誌に載せてもいい作品だと思います。だけどストーリーやテーマはよくも悪くもあまりにストレートじゃないですか。そこに不満を感じます。プロとしてデビューすることを前提にした時、今まであった作品と違う部分、今まで誰も描いたことのないアイデアなり設定なりが必要だと思うんです。この人はこういう素直な普通の作品を作ってると、なかなか難しいと思います。ちょっと商売っ気がないよね。これだけ技術と才能があるんだから。
事務局長・藤沢
飛躍するためのアドバイスをぜひ。
山田芳裕
アドバイスすか……もっと、主人公に感情移入させるしかないでしょうね。この作品、主人公がなんか良くある典型的なニートなんですけど、別にニートだからって皆同じようなヤツばっかだとは限らないんで……えー……たとえば……スポーティなニートとか。
一同
!!!!!!!(爆笑)
モーニング編集長・島田
たしかにスポーティなニートの漫画は読んでみたい(笑)。東村さんの言うとおり、この人は影響を受けるのがスゴく上手というか、やっぱそういう人は伸びシロはがあるのかなと思いますよね。

[漫画] 『OTTO』 西尾知 (大阪府・20歳)

編集部員・K藤(担当)
神戸芸術工科大学で講評させてもらった時に、この人の作品を見て担当に付きました。話は分かりにくいけど画力がスゴいなと。大塚英志さん(評論家・作家・同大教授)から指導を受けている学生さんです。課題が忙しいみたいで、まだちゃんと打ち合わせができていないんでポテンシャルのほどは分からないんですけど。今回はSFですが、SFだけを描きたいというわけではないみたいです。
山田芳裕
え? そうなの? てっきりSF派だと思ったけど。
事務局長・藤沢
俺もこの人の作品を何本か見たんだけど、日常にすこしシュールな要素が入っていて、個人的には面白かったですけどね。東村さんはどうでした?
東村アキコ
画がスゴく上手な割にはキャラの顔が印象に残らなかったです。みんなどこかで見たことのある顔ばっかりというか。話は……私はよくわからなかったです。キャラクターに魅力を感じられなくて、私は評価できなかったですね。主人公も女の子も博士もモブっぽいというか。
山田芳裕
この人は短い作品っていうより、一冊分とかそれくらいのスケールで考えるのがいいんじゃないかなという気はしますけどね。長いプロットがあって、初めて何かできる感じだと思うんで。
編集部員・K藤(担当)
一応8ページのショートも描いてるんですよね。見せてもらったら別段何も起こらない話でしたけど。
山田芳裕
8ページものができれば、かなりスゴいことですけどね。それができたら長いものも描けるようになるよ。
東村アキコ
画の部分でいうと、この人は興味の焦点が影なんですよね。人物じゃなくて影に力が向いてる。たしかに影の感じはむちゃくちゃカッコいいんですけど。
山田
影は描きたくなるんだよね(笑)。描いてると何となくつけたくなるんだよね。それはなんかわかりやす(笑)。やっぱり最初に言ってたキャラクターの部分だよね。
モーニング編集長・島田
イタリアとかフランスの漫画みたい。やっぱりみんなモブ的で、主人公顔がいないんだよな。俺は話もなんだかよく分からなかったし。
山田芳裕
話の方は敷いた伏線を回収しようとしてて、まあ良いと思いますけどねえ。
事務局長・藤沢
今後はキャラクターに力を入れて描いてほしいという感じかな。
モーニング編集長・島田
せっかくこういうグローバルな時代なんだし、フランスやイタリアなどの市場を意識して、このままの作風で発表を目指すのもアリだとは思うけどね。キャラクターを描けといっても向き不向きがあるし。もちろん、なんとか一人だけでも、抜群な主人公を何とか捻り出せれば、日本でもデビューできるかもしれませんが。
編集部員・Y原
そういえば、某少年誌出身の作家さんがBDを出したって話を聞いたなあ。

[漫画] 『限りなく灰色に近い白日』 木戸朋生 (北海道・22歳)

東村アキコ
この作品、なんでここに残っているんですか? 最終選考までこれが残るのがわからないんですけど。
事務局員・奥村
ウチの新人賞にはこれで3回目の応募になりますが、冒頭で東村さんがおっしゃっていた、「自分探し禁止」というタブーをまさに犯してしまって、なんだか気まずいんですが……これまでの2作品も作者の自己投影が大きく、今回のネームを見せてもらったとき、「オナニー禁止」という話をしたのですが、「どうしてもこのネタで描きたい」という熱意があったので、それを尊重したいと思いました。東村さんの評価は低いようですが、僕が彼を評価するのは、話作りにおいて工夫している点です。この作品も一見、夢オチのような感じですが、夢が現実を変えたというところが面白いと思うんです。主人公は映画館で3回別な夢を見ているんですね。夢の中の現実感覚とは違う時間の流れだったり、現実の世界では押さえ込んでいる意識が夢に出てきて、結果として現実の行動を変えてしまうといった部分を描こうとした試みは評価しています。
事務局長・藤沢
自分の担当作品が二次選考で落ちてしまったことに納得がいかない部員もけっこういましたが、この作品は複数支持があったのでここまで残ってきました。それと、以前の応募作からの飛躍があったという点も評価したいところです。
東村アキコ
とにかくストーリーが思い出せないんですよねー。何か言わなきゃと思うんですけど出てこない(笑)。
事務局長・藤沢
えー、盛り上がらないんで次に行きます(苦笑)。

[漫画] 『Sunny Sunny Ann!』 山本美希 (茨城県・24歳)

東村アキコ
コピーで拝見した時は、少し長いかなと感じたのですが、こうやって、特大の生原稿を製本した状態で応募されたんですね。いやもう、長いなんて全然感じないですね。採点も、7から9に上げさせていただきたいです。
編集部員・K本
日本の文化の共通項として、あるものが収斂されてゆくと、おのずと型が生まれてくるというような美学の特徴があると思いますが、作品のタッチや原稿のサイズなどをトータルで考えたとき、あらゆる点で型破りで他を圧倒する才能だなと感じました。物語に関しては、一つのシーンにも、キャラクターの仕草にも表情にも、あらゆる部分にドラマが溢れていて、読んでいてとにかく心が突き動かされる構成になっていると思います。その上、読者にページを繰らせるスピードがしっかり計算されている点も素晴らしく、今回の応募作の中で最も優れた作品だと感じました。
東村アキコ
読ませていただいて、めっちゃ泣きました……。
山田芳裕
うん、いろんな描写がいいんだけど、主人公のわき毛も良いね。いまどきわき毛はすごく新鮮で、自然な感じがしましたね。
編集部一同
(爆笑)
事務局長・藤沢
いわゆる普通の漫画の画とは違うのですが、そのあたりはまったく気になりませんでしたか?
山田芳裕
オレは全然気になんないですけど。ただ……日本人が描いているのに、なんだかヨーロッパのマンガみたいな雰囲気ですね。これをお金出して買うかっていったら、海外のを買っちゃうかもしれない(笑)。日本人の作家が描いているのだから、いい感じの「日本」を描いてもらいたかったですね。
事務局長・藤沢
なるほど。BDとか、ヨーロッパのテイストじゃなくて、もっと日本的なオリジナルでやったほうがいいと。
山田芳裕
いやぁ〜、この人なら、できると思いますよ!
事務局長・藤沢
無国籍な雰囲気の漫画が多いのも、MANGA OPENの特徴ですけど、「日本でいいじゃん!」って感じはしますね。東村さんは一気に2ポイントアップということですが、具体的な評価をお願いします。
東村アキコ
やはりこの「本」というかたちがすごく良くて、とにかく感動しましたね。さっき、めくるスピードというお話が出たと思うんですけど、生原稿でも電子書籍でもなく、「本で漫画を読むのっていいな」と、本気で感じられた作品だったと思います。読みながら、この漫画の世界に完全にトリップできましたね。本の体裁で投稿しようなんて、作者の方はよっぽどこだわりやさんなんだなー。製本という大変な作業をこなして送ってくるわけですから、本当にすごい。圧倒されました。
編集部員・Y原
これ、宮崎の友達には見せられます?
東村アキコ
それ、今考えてました。たぶんギリいけると思うんですよね。だってこれ、洋画みたいな雰囲気じゃないですか。車を燃やして仕返しをしたりするシーンとか、見ごたえのあるシーンもありますし。「一般人」にも受け入れられるのでは、と思いますね。昔『アンジュール』(ガブリエル・バンサン著)という犬の本が流行りましたが、あれ、宮崎の人も買ってましたからね。あれがいけるなら、これもギリいけるって思います(笑)。そもそも、テーマがシンプルで、すごく分かりやすく作られている漫画ですよね。こういう雰囲気がある漫画って、なにか意味深な、わかったようなわかんないような終わりかたすること多いじゃないですか。でも、この物語の主人公は、最後に「家でなく、外で流浪の民として生きるのが私らしいのよ」と、しっかりとしたメッセージを残していますから。
山田芳裕
この主人公、税金はどうしてるんですかね? ちゃんと払ってるのかな。
モーニング編集長・島田
税金!?
編集部一同
(爆笑)
山田芳裕
いやぁ〜、こういう自由な生活ってあこがれるじゃないですか。でも税金は払わなくちゃいけないよ。
事務局長・藤沢
こまかい指摘ですね。
モーニング・ツー編集長・田渕
こういう世界だと「怖い人たちにみかじめ料を払う」って感じじゃないですかね(笑)?
東村アキコ
物語最後の方の、「ディナーに招いてよ」っていうくだりとか、すごく泣けるんですよね。あのシーンはきましたね。ガーッと!
モーニング編集長・島田
この人、何やってる人なの?
モーニング・ツー編集長・田渕
筑波大学の芸術系学部で、ビジュアルデザインとかをやっていた人みたいです。
東村アキコ
あ、私落ちたところだ……。すごく行きたかったところですー。
編集部一同
(爆笑)
モーニング・ツー編集長・田渕
日比野克彦賞の入賞歴があって、有楽町の国際フォーラムで展示とかもされてたらしいです。今は学校を卒業してアーティストとして活動されてるみたいですね。
モーニング編集長・島田
へえ、アーティストか。漫画家志望なの?
編集部員・K本
そのへんは、これから一緒に話していきたいですね。まだメールでやりとりをしている段階なので。
モーニング・ツー編集長・田渕
まあ、これほど才能のある人が、純粋な漫画志望でなく、アートの世界から出てくるのは悔しい気もしますよね(笑)。
山田芳裕
この人って、漫画を描きたいわけじゃないんっすか?
東村アキコ
アート界からこっちに降りてきた、みたいな感じはいやですよね。
編集部一同
(爆笑)
モーニング編集長・島田
足を洗わせなきゃいけないんじゃないか……? アート界から(笑)。
事務局長・藤沢
たしかに、フットボールで勝負するのか野球で勝負するのか、今後はっきりしてもらわんといかんですね、漫画誌としては。
東村アキコ
たとえばオノ・ナツメさんがイタリアを舞台にした物語や時代劇など、幅広い漫画を描けるように、この人もいろいろな作風の漫画が描けるのではと、期待しています。

[漫画] 『四季のうた』 景行唯 (滋賀県・22歳)

編集部員・I上(担当)
一見、すごい同人誌っぽい画だと感じて、『ジャンプ』や『ガンガン』に投稿してそうな感じがしたんですが、そういうことではなかったです。私の評価としては、学校の課題をそのままこなしたような固い感じがしました。でも、画にはすごく魅力があって、真似して描きたくなる画だと思います。まだまだ伸びシロがあると感じたので、ぜひ会って話してみたいと思い、担当を希望しました。今回もう一本応募していますが、そちらは侍の敵討ちの話ですね。
事務局長・藤沢
落とした方を見てもらうべきだったかな? 念のため、選考委員のお二人にこの場で見てもらいましょうか?
東村アキコ
(もう一本の作品を見て)すごくいいんじゃないでしょうか? どちらもそんなに評価は変わらないですけど。明るくてほんわかしてて。雑誌にこういう描き手がいると、特定のファンがつくんじゃないかと思います。
事務局長・藤沢
あれ? ちょっと、評価投げやりですか?(笑)
東村アキコ
いやいや(笑)。ただ、どちらの作品もちょっとオタク臭いんですよ。
山田芳裕
全く同じ意見だな。
編集部員・I上
でも、同人活動はしてなくて、好きな漫画家さんは手塚治虫さんだそうです。
東村アキコ
みんなそう言うんですよ!(笑) 漫画家志望の人は。そう言っといた方が自分の大物感が増すと思って(笑)。絶対にねー、他に好きな漫画があると思うんですけど……。
事務局長・藤沢
山田さんの評価の「春夏秋冬の嫌な部分も欲しい」というのは面白い意見だと思いますけど、リアリティが無いということでしょうか?
山田芳裕
うーん……でもね、さっき東村さんが言ったように、ほんわかしてる所がいいんじゃない? 下手にいじらない方がいいのかもしれません。
事務局長・藤沢
じゃあ、好きに描いてもらって成長を待つという……。
編集部員・I上
作者に、他の作品も見せてもらったんですけど、どれも弱い人たちががんばる心温まるストーリーで、なかなか黒い部分が見えてこなかったですし、本人と話してもそんな感じはしなかったですね。

MANGA OPEN事務局員プロフィール

(五十音順/多分に筆者の捏造にて候)

岡山
「チョリ〜スッ! 今日も一日がんばルンバッス!!」。ふわっとフリルのついた春色ワンピで身を包み、毎朝元気120%で出社する「ゆるカワ」編集者。「最近さ〜○○を××しちゃってさ〜、決死のダイエットで激ヤセしたのはいいんだけど、ハラの皮がゆるゆるになっちゃって……」な「ゆるカワ」編集者でもあったりすルンルンバッス!! しかし、2010年の春に勃発した「WO(岡山×奥村)紛争」の影響で、ルンルンしてられないのは事務局総員の悩みのタネ。先日も、歓迎会の場所選びで「だんぜんジュク(新宿)ナリ!」「い〜や、ギロッポン(六本木)だべっちゃ!」と小競り合い、「あわや失禁!」な事態に陥っていた。ことほどさように、元気ルンルン勇気モレモレな紅一点は、一本バツーンとスジの入ったメルヘンやファンタジーを愛すルンバッ! ※「WO(岡山×奥村)紛争」だぶるおーふんそう 編集部全員が読む一斉送信メール上で、OPEN授賞式後の飲み会の場所を「新宿か渋谷」(岡山)「六本木か麻布」(奥村)で争い、部員全員をあきれさせた事件。編集長の介入でいったんは沈静化したものの、飲み会の選定のたびに紛糾し、毎回「すわ失禁!」な事態に陥っている。
奥村
一年間におよぶ断酒のおかげで、体脂肪は10%。うっすらとピンクがかって見える赤身の筋肉が、みっちりと張り巡らされて、全身のフォルムはミケランジェロの彫像のよう。そんな自己愛☆ルナティック男子の日課は、社員の出入りが少ない洗面所でのボディ★チェック! 脂肪の量、肌のハリ、はては、胸部に2つほどついた「ぽてっとした歓喜の突起」の色まで確認する念の入りようだ。後ろ手に縛って愛でてしまいたい「被ボーイズラブ編集者」の名をほしいままにする彼の好きな言葉は「俺」! というか好きな物は「俺」!! 上記・岡山との「WO紛争」は、「俺」以外のものに一切興味がない自己愛が生んだ部分もあるのではと事務局長・藤沢は分析している。しかし、自身が好きだと感じた作品には、惜しみなく愛情を注ぐ。だって、そもそもその作品を好きだと感じた「俺」のことを「俺」はこの世でもっとも好きなんだもん☆
笠井
天然の老け顔で仕事をサボっているように見えても右手の親指は常に絶賛高速稼働営業中。「池袋でオススメの店ない? もちろんアッチの店のことやで!」。モーニング随一の老け顔を誇る万年定年間近風編集者は情報収集を欠かさない。拡張されたアナルと傷だらけの前立腺はデキる男のパスポート(夜間限定)。「僕はっ、僕はアナタの犬ですぅっ!!!!」。自分の耳までイカレちまいそうな絶叫と燃える毛根のタンパク質の臭いと鞭で叩かれる焼けるような痛みだけが彼の生きてる実感だ。夜に満足する男は昼冴える。「はっはっはっはっは。いいじゃないですか、はっはっはっはっは」。日中の彼は虚無な笑いで全てをやさしく包み吸い込む様はさながら人間ブラックホール。「大丈夫でしょ、大丈夫でしょ」。今日も打ち合わせスペースでは優しい言葉。漫画志望者諸兄のお悩み相談にもぴったりだ。なんだか最近ちっとも毒を吐けてなくてなんてアナタ、ぜひぜひ弊部笠井をご指名くださいませ。表もあれば裏もありますが、人前では表しか見せません。よろしくねo(^--^;)
劔持
「もういい加減捨てられる!」という強い危機感のもと、稼ぎのいい彼女の顔色をうかがいながら同棲生活を続けているヒモ編集者。指輪を渡せば、あとウン十年は生きのびられるという「超ヒモ理論」によって、先日、大黒屋で高級指輪を購入。いざ、渡さん! というその日、担当しているコラムの取材に出かけたヒモ。手作りサウナに入って、彼女に渡す指輪を自慢していたヒモ。「後ろ!後ろ!」の声が聞こえる典型的な場面に気づかないヒモ。案の定、指輪は板敷きのスキマに落下! 大黒屋の指輪はいまだ板の隙間に眠っているという……。そんな、いかにも気のよさそうなヒモ男の必殺技は、「すれ違い呪詛ラリアット」。気に入らない編集部員とすれ違う際に、聞こえるか聞こえないかの声量で、「あー腹立つ」といった呪詛の言葉を浴びせるのだ。事務局・笠井も「あー殺したい」とヤラれたことがある。根はヒモだけに、粘り強く漫画作りに携わる姿をよく見かける。
篠原
愛する彼女が朝出社する直前に、顔中をベロベロ舐め回し、「時間がないからこのまま会社に行ってくれ! オマエの顔でオレの唾液が乾いていく様子を想像しながら、オレは寝るわ」とのたまう強度の2H(変態編集者)。当然ふられ、その彼女が結婚することを人づてに聞いて、〈結婚おめでとう! 何度も顔は洗っているものの、かつてオレが唾液まみれにしたオマエの顔を、別の男が舐めている場面を想像しながら、オレは寝るわ〉というメールを送り、受信拒否されたという。そんな偏執狂的なセンスは、漫画づくりにも最大限発揮されていて、あくまで独自な、担当者の好みが赤裸々に反映されたヒット作が、いつか出来そうな気がするような気がしたこともいつかあった気がする。
上甲
約5頭身のヌイグルミ風ボディで、女子部員たちには「キャワイイキャワイイ! ニャンニャンニャン!」とチヤホヤされているが、銀行員メガネを外した、その眼は凶気を秘めている。「おい、上甲!」というコピーを入れた駅貼りポスターをバラまきたいくらいの悪相である。事務局が懇意にしている占い師の見立てでは「仮面の相」。裏表が激しい多重人格相だという。家庭内でも、妻の前では貞淑な夫を演じているものの、酒を喰らうと一気に豹変する……。先だっての年の瀬のことじゃった。悪相は妻の実家に滞在し、義父と差し向かいで「雨後の月」(広島銘酒)を酌み交わしておった。ちょうど一升瓶が空になった頃、強い雨が……。雷に照らし出された悪相はやおら立ち上がり、白いハチマキに2本の懐中電灯を差し込んだそうな。そして、集落を駆け回り……そんな多重な人格でバラエティ豊かに新人を発掘するという……。
関根
両親の出会いは「合同ハイキング」(合ハイ)という'70〜'80年代のチューサン階級が生んだ時代の鬼っ子。「エナジ」という名前は、物理学者の父が「energy=活力、精力」あふれる男のコになってほしいと命名したという。その名の通り、週に5日は深夜の独り焼き肉(四人前)をペロリと平らげるワンパクぶり。ある連載作品の内容紹介では、「次号、○○○ついに死亡!」と作者も担当者も知らない結末を考え出す豪腕ぶりも見せ、さすがにenergyありすぎなんじゃないのかと危険視されている。'10年の6月に他部署から異動して以来、そのありあまった精力で、最大の敵である編集部員サドガジマ・シャレオツ・メガネの寝首を虎視眈々と狙っている。凶気を秘めた大脳新皮質で、高次元で特異な作品の真価を見抜く。
事務局長・藤沢
インド王族の家に王子として生まれ、禅宗を開き、ダルマのモデルとしても有名な、高僧・菩薩達磨にソックリな風貌の異形編集者。若者の「〜じゃないデスかー!」や「いま、一瞬いいッスか?」のような言葉遣いを憎むあまり、眉間の皺はますます深く、黒目はどんどん縮小しているため、成功前のダルマそっくりな風貌へと深化している。信州松本の清冽な湧き水に包まれて育ったわりには、ぼやきやすく、ねたみやすく、そねみやすい下劣な人格の持ち主である。「人生は与太」がモットーで、与太話を飛ばしながら酒を飲み、飲み屋で偶然出会った与太者にからまれながら、残り少ない人生をヨタヨタと寄り道しながら歩む。人生の敗者として、おもしろきことなき世の中を斜に眺めてきた弱者の視線は、勝ち組編集者の目には決して届かない、ディープ&ワイルドな領域を拾い上げる。
宮本
夫婦仲が毎夜「剣が峰」というアオヒゲ編集部員Tによると、シアワセすぎる夫婦仲を維持している類いマレなる事務局員。ただ、目下の悩みは冷たいビールを飲み過ぎた後の「漏らし癖」。妻と眠る寝室で、毎晩毎晩あまりに漏らすものだから、「たまに漏らさない日があると、『ちょっと、あーた! どこか他の女のところで漏らしてきたんじゃないでしょうね!!』と怒られるんだよねー、テヘ」といったノロケにはオゾケが走る。趣味のテニスで動ける体力を維持するため、毎夜のジョギングは欠かさないそうだが、週に一度は家に戻る前に漏らしてしまう。まったく活躍しない括約筋の持ち主だ。ただ、「モーニング・ツー」の校了担当としての漏れのないチェックには定評があり、モレモレな新人の才能に関しても漏れなく見抜く。