かわぐちかいじ・さだやす圭両先生をお迎えして行われる最終選考。選考会でプロの視点から各作品を評価していただいた上で、各賞の授賞が最終決定されます。また、最終選考に残った作品にはすべて担当が付いているので、各作品の担当も意見を述べたり、両先生へ質問したり、活発な議論の場となります。

[原作] 『ぱるたい Happy Revolution』 さかもとたけし (千葉県・33歳)

原作のため、作品のテーマに関わる具体的な文言は「××××」の伏せ字としてあります。

さだやす圭
結論を先に言うと“意外と”面白かったんですね。ただ、今どき××××というテーマが物語にできるのかなと疑問に思いました。リアリティの有無はおいといても、結構セリフ回しが手馴れた人だからスムースに読めましたね。コメディとしては面白かったです。後半の『スパイ大作戦』みたいな仕掛けもなかなか良かったし、面白く読ませるテクニックは持っている。ただ、これを漫画化してうまくいくのかは正直わからないなあ。つまり「諸手を挙げて面白かった」というよりは“意外と”面白かった。
かわぐちかいじ
前回大賞をとった『僕はビートルズ』が、原作というよりはプロットと呼んだほうがいいものでしたが、今度のこれは初めてのちゃんとした原作だなと思いました。ディテールが的確で、××××の雰囲気がすごくリアルに伝わってくる。ただ、なぜ今このテーマを書かなきゃいけないのかはわからないんだよね。これまでにない話を書こうとしているのは良いと思うんだけど。
事務局長・島田
確かに××××をテーマにした漫画って少ないですよね。
かわぐちかいじ
ギャグにするのか、リアルにしていくのか。切り口がいろいろあるなかで、ギャグとしてはこれはうまい。だけど、最後のシーンまでギャグにしていいのか?とは思いましたね。「これだけ大きい看板掲げといて、これ?」っていう。その“チャチさ”が少し引っかかったんですよ。まあでも、ギャグとして考えると、一応は成立しているかな。
さだやす圭
コメディだからこのラストなんだろうね。
かわぐちかいじ
××××の世界をリアルに描くんじゃなくて、「ごっこ」の世界を描こうとしたなら成立していると思う。女の子描くのがうまい若い方に漫画化してもらえると結構面白そう。
事務局長・島田
選考会の時はTAGROさんが描いたらヒットするんじゃないかっていう意見がありました。
編集部員・T渕
鉄板ですよ、TAGROさんが描けば。
さだやす圭
この人はシナリオライターなんですか?
編集部員・T渕
そうですね。この『ぱるたい』で城戸賞を受賞しています。城戸賞をとっても映像化はされないだろうと思ってモーニングに応募してきたそうです。アニメの脚本もスポットでやっているので、地力はある人だと思います。
かわぐちかいじ
この作品は実写化を想定して書いたものなの?
編集部員・T渕
いや、アニメ化を想定して描いたようです。『けいおん!』みたいなノリでやるとピッタリはまりそうで、アウトプットが見えやすい作品ですね。作者自身、こういう団体に顔を出したことがあるらしいです。「何かできないだろうか」と覗きに行ってみると、意外と仲良しサークルノリだったので「すぐ辞めました」ってことみたいでしたが。
かわぐちかいじ
だから結構リアルなんだ。場の雰囲気をうまくつかんでいるよね。

[漫画] 『動脈男と静脈女』 コーポ五十嵐 (福島県・24歳)

事務局長・島田
では次、『動脈男と静脈女』。かわぐち先生いかがでしょう?
かわぐちかいじ
ストーリーの展開とか、コマ割り、漫画の技術、キャラクターの個性といった基本的な技術は一定のレベルに達している。破綻がないし、それなりに最後まで読めるんだけど、欲を言えば、小説を書くっていうことへの作者のイメージや、小説って何?っていうところまで切り込む場面が欲しかったな。でないと、小説家の世界を設定として借りただけになってしまうから。レベルを超えているんだけどそれ以上ではない。それと、絵が少し古い感じがする。今まで見たことがない、新しいところが見たかった。
選考会の様子さだやす圭
推理の場面があったり、話のテンポも良かったりして飽きないし、人物の配置のバランスも取れていてうまい。非常に達者だな、と思いましたね。これでもう一つ何かが入ればもっと面白いんだけど。でも30ページというページ数を考えればこれが限度かなとも思った。
事務局員・田岡
この方、漫画はもっと短いものを継続的に描いてはいたんですが、この規模できちんとしたものを仕上げたのはこれが初めてです。その割にはまとまったものになってはいるんですが、仰る通り深みが足りない部分はあるので、今後はそこを伸ばしていきたいですね。
かわぐちかいじ
『動脈男と静脈女』っていうタイトルとか設定はうまいと思うんだよね。キャラクターをもっとそれに絡めるとか、その部分にこだわっても良かったんじゃない? 何が動脈で何が静脈なのか、そこを説明するだけで、面白みが出たんじゃないかな。
事務局長・島田
かわぐちさんが仰ってたけど、オーソドックスというか、新しい絵とは言えないですね。
モーニング編集長・古川
たぶん、自分が小さい時に読んだもの、好きだったものが未だに絵柄に強く影響しているんだと思う。それが少年誌より下のものだったんじゃないか? 表現方法とかリアクションは上手なんだけど、そこから脱し切れていない。
事務局長・島田
でもそれって欠点だとは限らなくて、誰でも読みやすくて親しみやすい絵とも言えるんじゃない? だとすると、それとバランスを取るために、ものすごくすっ飛んだ何かの要素が入ってないと、全体としては子どもっぽいという感じになってしまうと思うんですよね。テーマのすごさとか、狂気が入っているとか。
編集部員・T渕
こういう手法が好きだから、逆に成長しないとも言えるんじゃないですか。
事務局長・島田
だけど、最近の応募作に多いけれども、大人っぽい絵というか、漫画読み向けみたいな絵を見てると、わかりにくいと感じることがあるんだよ。でもこの人の絵って圧倒的にわかりやすい。たとえばキャラクター同士の見分けがつかない、なんてこと絶対にない。それはすごく優れた点だと思いますよ。
モーニング編集長・古川
だけど、泣く時はこうで、みたいな感じで表現がパターン化されているというのは……。ギャグとしてやるならもちろんいいんだけどね。正面から来られると、ちょっときつい。
事務局長・島田
だからこそ逆に、この絵にそぐわないテーマが必要なんだと思う。知らない人にものを教えるのに長けている絵ではあるでしょ? そのギャップをうまくテーマとして設定できれば、大いに可能性があるのでは。

[漫画] 『愛のデメトリオ』 ザザロン亞南 (愛媛県・27歳)

事務局長・島田
では次、『愛のデメトリオ』。さだやす先生いかがでしょう?
さだやす圭
大作だね。絵も達者だし、伝説っぽくて面白い。特に、途中で竜のエサを人間が探すところにはちょっとゾクゾクした。でも、なんとなく主人公に一貫性がないような気がしたな。あと、何回も読んだんだけど、部分部分でわからないところがあった。最初の独白が誰のものなのか、とか。最後いつの間にか描かれた兄弟の葛藤みたいなのも唐突でね。面白そうになるんだけど、とにかくそれが読み手に伝わってないような気がして仕方ない。もったいないなと思いましたね。それと、龍がもうちょっとかっこいいといいなと思うんだけど(笑)。
かわぐちかいじ
俺はすごく高い評価をつけた。預言詩があって預言の通りに物語が進む、その雰囲気がシェイクスピアの『マクベス』っぽくて。もちろん『マクベス』そのものじゃないんだけど、あ、面白いな、と。最初読んだ時には、兄貴と弟の権力にまつわるせめぎ合いという方向にはあえてもっていかず、物語を予定調和にしているんだと思った。でも、もう一回読み返してみると、予定調和を描くんじゃなくて、権力や王に対する愛憎を持った人間はこういうふうに滅びていくっていう物語をきちんと描こうとしているんだと気づいた。それに、この竜には、弟の兄貴に対する愛憎を託しているんだよね。竜の大きさは弟が持ってる、兄貴に対する思いの大きさを感じさせる。弟のほうは兄貴に対する恨みつらみだとか愛憎をあからさまには表現しないで、悪事を働くくらいなんだけど、その裏に当人も見たくないような気持ちがあったはず。その気持ちはこんなにでかいんだよっていう。竜の格好自体はそんなに良くないんだけど、その大きさはいいなと思います。
編集部員・Y川
これは私が担当しています。お芝居みたいな話ですねって言ったら、最近『椿姫』とかを読んでいたらしく、それで芝居がかった昔の話を描いてみたくなったそうです。
かわぐちかいじ
新人賞に応募とかはしてたの?
編集部員・Y川
そういうことはしていなくて、ご自分のホームページでずっとイラストを描いていて。男の人の描き方にすごく雰囲気や色気があるので、これだけの長さでも読みやすいなと思いました。
事務局長・島田
ジャンルとしてはすごく新しいとは言えないよね。この話は面白くていい部分もあるけれど。この人はこの世界観で描いていきたいわけでしょ?
編集部員・Y川
いや、今まで描いてたものがたまたまこうだっただけであって、現代の時代設定でやってみては、という提案に対しても全然反応はネガティブじゃなくて。それについて変なこだわりなどは全然ないんですけど。
事務局長・島田
でも、この人は女の人より男の人を描きたいんじゃないの? そういうジャンルは競争が激しいから、よほどしっかりしたテーマだったり、今までにないものを考えなければいけないと思うよ。

[漫画] 『バイボー』 作画・花田剛 (東京都・32歳)/原作・木多大介 (東京都・30歳)

事務局長・島田
では次は、『バイボー』。かわぐち先生いかがでしょうか?
かわぐちかいじ
最初読んだ時、「なんじゃこりゃ!?」と思ったんだよ。こういった作品は、自分の世界を理解してくれる人しか相手にしていないんじゃないかと思って、これは俺にはダメだな、と。しかし、もう一回読み直してみたら面白かったんだよね(笑)。読み返して、まず目に留まったのはセリフ。今まであまり見たことのない言葉のセンスで、これを面白いなと思いだすと、この絵でいいなというふうにひっくり返ったんだよ。リアルで理屈が立っている世界を設定してしまうとこの絵は生きないんだけど、この二人がそこを意識してコンビを組んでいるのかわからないんだけど、そこがうまくいってるなと。ギャグの面白さが生きる世界を描いている。
事務局長・島田
さだやす先生いかがでしょう?
さだやす圭
珍しく点無しで書かせてもらいました。「点(天)無し?」(笑)。
事務局長・島田
0点とは違うんですか?
さだやす圭
0点じゃなくって。これ原作付きって書いてあって、すごいなぁーと。二人であーだこーだ言いながらやったのかなーってね。たまに気の利いたことをポコっと描いてきてたりして、面白そうで、面白そうなんだけど、よくわからなくて(笑)、酒飲みながら作ったんかなぁーと思ったりもしたけど。
編集部員・T渕
この原作の方は芸人さんなんですよね。
事務局員・奥村
この方たちは僕が担当なのですが、今T渕さんがおっしゃったように原作担当の方は芸人さんなのですが、お二人とも本業はイラストレーターさんで、同じ事務所にいます。原作担当の方は、お笑いでもシナリオを担当しています。僕がこの作品を面白いなと思ったのは、今かわぐちさんがおっしゃったように、クローズドな世界、外界から隔離された世界を設定して、その中でのみ通用するルールをあえて使って面白がらせてくれるところです。現在ネームを何本かやっていて、たとえば動物園だったり、商店街だったりするんですが、独立した世界を舞台にして物語を作っています。外から来る人もいるにはいるけれども、中には別のルールがあるという空間で、いかに面白がらせるかを考えています。今回のお話のテーマは「お金のない世界でどう幸せに生きるか」ということではありますが、「ペイ!」というセリフだったり、お金以外での評価のされ方だったりで、言葉では言わずに絵で見せるというところに才能があると思っています。デビュー後は、ぱっと見の「わかる人だけわかる」という間口をもう少し広げたいとは思いますが。
かわぐちかいじ
うん、もうちょっと取り付く島があるといいよね。
モーニング編集長・古川
わかんないんだけどさ、面白かったヤツいるの? (手が挙がる)……あっそう、いるんだ。
事務局員・奥村
編集部評価は高かったんですよ!
事務局長・島田
俺はかなり面白かったですよ。こういうタイプの話は毎回毎回応募されるんですけど、それらは脈略のないイメージの積み重ねでしかなくて、面白いギャグが何の計算も無しに散発的に入っているだけなんですけど、この話は、さっき奥村が言った話を聞いてまったくその通りだなと思ったんですけど、言いたいことがきちんとあって、世界観も話の構成もメタファーになっていて、まさにコントだよね。閉鎖的なルールの中で誰が評価を勝ち得るかというのは非常にわかりやすい。それで一番ベースになっているのが「嫉妬」でしょ。すごくわかりやすい話だと思う。この作品は確かに取り付く島が無いっちゃないんだけど、多少はある。ネームのキレも、好き嫌いはあると思うけど俺は抜群だと思いますよ。
選考会の様子事務局員・奥村
原作無しだと、このタイプの作品は厳しいものがあるのかもしれませんね。
事務局長・島田
「原作付きです」と送ってきてくれる人がいるんだけど、多くは「仲の良い二人が組みました」というだけのものが多い。だけど彼らは二人で組んでいる意味があると思う。ただ、これを今わかる人が10人に一人だとして、広げていければそれに越したことはないけど、この方法論でやると、その比率はずっと変わらないんじゃないかなとも思う(笑)。
かわぐちかいじ
言葉の持っていき方は面白いよね。「ざっくりとした感じではありますが……」とかね。そう思ってみると、結構面白い言い回しをまぶしてあるというか、隠しているんだよね。一回そこにつかまるとオセロみたいにひっくり返される可能性がある。
事務局長・島田
気になるのは、絵と話がマッチしすぎているように思うんだよね。このタイプの絵にこの話っていうのが続くと、既視感を起こしてしまうような心配もある。たとえばBL系の絵との組み合わせもありなのではないかな。
モーニング編集長・古川
将来的にはどうする気なの?
事務局員・奥村
取り付く島を付ければ変わるのかどうかを、この何作かでやってもらい、そうでなければ別の路線も考える必要はあると思います。
かわぐちかいじ
さっき言っていた「商店街」っていう限られた空間というのはありかもしれないね。
事務局員・奥村
ただ、今の方向性でやるに当たって、わかりにくいのを薄くすればいいかというと、そういうことではないとも思っています。
モーニング編集長・古川
だけどこの作品は、どこがわかりやすくてどこがわかりにくいかがわからないんだよ(笑)。
事務局長・島田
この作品が『ガロ』に載ったとしたら埋もれてしまわない?
事務局員・奥村
だから、「こんなような作風」と括られてしまうような方法で臨むのは、彼らの世界を狭めてしまって惜しいと思うんですよね。
モーニング編集長・古川
やろうとしていることは言葉にすればわかるけど、じゃあそれが伝わるかというと、そこはまだまだ稚拙な感じはするな。原作担当の人の先輩がやっている舞台は、同じように狭い世界を扱っていて、コアファン狙いに見えて、けど一般にも受けているわけだから、方法論が似ていると技量の差は出てしまうね。だから俺のように「面白くない」と思う人に対して、どうアプローチするのか。「才能がある」と思う担当編集が「こうすれば売れると思います」という道筋がなかったら、このままになってしまう気がする。ヴィジョンがないとダメだよ、編集に。

[漫画] 『タマキ』 米田達郎 (東京都・32歳)

かわぐちかいじ
絵の感じは好きだなとは思いました。風でカーテンがひるがえっているあたりの描写は、それなりの雰囲気が伝わってくる。ただ、劇性が感じられないんですよね。淡々と女の子が死んで、漫才をやるために相方を連れてくるという話を、叙述的に描いていって、事件の中にあるドロドロした部分を感じ取ってほしいと作者は思っているんだろうけど、それを踏まえても物足りない。まあページが短すぎるということもあるかもしれないけど……。この女の子たちが漫才の何を面白がってるのか感じさせてくれないといけないと思う。コンビの相方が死んで、それでも挫けないで「またやっていこう!」という、相方の意志を継いでいくんだという女の子の強さが感じられない。もったいない気がしたな。
さだやす圭
応募作によくある、わかりにくい漫画の典型でしたね。女の子が3人出てくるんだけど、誰が誰やらサッパリわからなくてね。最後の眼鏡かけた子が相方になるんだってのが、5〜6回読んでやっとわかったくらい。漫画ってそこまで一生懸命に読まなきゃならんのかって疲れてしまってね。かわぐちさんもおっしゃってたけど、風がね、夏のカーテンの風が、いいなって思いました。そこは印象的でしたね。ネームも面白いんだけど、やっぱりわかりにくい。後半で相方を見つけ出すんだけど、日常生活の延長でトントントンって感じで進んでいくんですよね。もっとドラマを作らないとわかりにくいと思います。読んでてホンマくたびれました。
モーニング編集長・古川
これは担当者は誰?
事務局員・笠井
僕が何度か会って話をさせてもらってます。今回の応募作では、かわぐちさんとさだやすさんもおっしゃっていた、風でひるがえるカーテンの描写を本人は描きたかったそうです。
さだやす圭
なんだそりゃ!
モーニング編集長・古川
描きたかったのって、それだけ……?
事務局長・島田
この作品から、登場人物が漫才を好きって気持ちが全然伝わってこないのが残念。主人公は友だちが死んで、なんでこんなに平気でいられるんだよという気持ちになってしまう。
事務局員・笠井
平気というか、友だちの死を乗り越えて頑張ってるんです。
さだやす圭
でも、立ち直ってるかということも伝わってこないんだよね。淡々としすぎていてね。
モーニング編集長・古川
漫画を描く時に、イメージを提示する方法というのがあって、イメージの原型を作って読み手に想像してもらうっていう面白さがあるんだよね。ただこの作品は、初めに考えたプロットで終わってると思う。普通漫画って、ここからどういうストーリーにするか、どういうキャラクターにして、どんないきさつで人が死んでというようなネームを作っていくんだけど、この作品は中途半端なプロットでしかなくて、ドキッとするようなイメージで勝負できるようなものにはなっていない。風とカーテンが描きたかったら、もっとイメージを膨らまして、こんな人物たちに、あれこれこんなことがあって、夏の風でカーテンが印象的にひるがえって、というふうに作らなければならない。まだ、漫画になってないと思った、この作品は。
事務局員・笠井
この作者は不思議な描き方をするんです。まず、印象的なシーンをどんどん描いていって、描き終えたら、シーンをつないでいって話にするそうです。
さだやす圭
そんな描き方してるんだ。
事務局長・島田
この人がカーテン描きたいってのはわかったけど、それが面白い漫画になるとは思えないなぁ。売れるということをもう少し意識してもいいんじゃないかと思うな。
事務局員・笠井
も〜、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか。
さだやす圭
これ、打ち合わせして描いたもの?
事務局員・笠井
いえ。郵送で送られてきた作品です。
さだやす圭
打ち合わせをして描いたのでなければ、文句言わなくてもいいじゃない。
かわぐちかいじ
そう、ジンセイには風を描いてみたい時だってあるさ。ただ描いてみたいと思う時もあるんだよ(笑)。
編集部員・I上
この作者は風以外に何を描きたかったんですか?
事務局員・笠井
今回はとにかく風を描きたかったんです!
事務局長・島田
風を描くためだけに人を殺すなよ(怒)。
かわぐちかいじ
作品の中に出てくる3人の女の子の顔を描き分けたほうがいい。おそらく主人公の顔を決めずに描き始めているんじゃないだろうか。たとえば、主人公が冷たい人だとすると、冷たい人の顔っていうものを描かなくてはいけない。落ち込んでも立ち直ることができる意志の強い人だとしたら、意志の強そうな顔に描かなければならないわけです。そういうことをやってキャラクターを作っていくのが漫画だと思います。
モーニング編集長・古川
この作者は、こういう絵柄にしたくてやっているの? それともこれしか描けないのか。デッサンが狂っている部分があると思うけど。
事務局員・笠井
あえてやってます。もっとしっかり描けますよ。
かわぐちかいじ
上手い下手はおいといて応募作の中では最も「絵を描きたい」という気持ちが伝わってくる感じがした。でも、それだけじゃ漫画にはならないという典型的な例にもなってますね。漫画はキャラクターを通して読んでいくものだから、人の顔も記号化して作るだけではダメなんですよ。顔つきを、意志の強いとか優しいとか、顔にこだわって描いていけば、この程度の絵では終われないと思う。強い、優しいとはどういうことかを、キチンと人物の顔に伝えながら描いていってほしいです。
事務局長・島田
それにしてもやっぱりテーマは「お笑い」なんだね。少年誌でもお笑いコンビの話がヒットするし。
編集部員・T渕
昔でいうバンドみたいに、今の若い人の憧れの対象なんじゃないですかね。

[漫画] 『嘘つきのひと』 兵庫しんじ (兵庫県・31歳)

事務局長・島田
では次、『嘘つきのひと』。さだやす先生、かわぐち先生いかがでしょうか?
さだやす圭
これはなかなか面白いと思いました。ただ、ロケットがあまりに立派すぎて、それが逆にバランスを崩しているなぁとも思いました。そうでなければ山奥でこっそりやるとか。そこが引っかかりました。「ボク」「ワタシ」「オレ」という使い分けもなかなかうまく効いているなぁと思ったし、読んだ後に元気になるというのも良かった。応募作なんで全部を求めるのは厳しいので、それを考えると完成度は高かったと思いますね。
かわぐちかいじ
最初、通して読んだ時にはこれが一番評価が高かったんですよ。その後でもう一回読み直したらいまいち物足りなかった。原因は、わかりづらさですね。自分を表現する上で「ボク」「ワタシ」を使い分けるというのはテーマとしてはわかるんだけど、「そんなこと本当にある?」と思った時に設定の甘さが逆に目立ってしまって、評価が下がってしまったんですよね。ボクがダメな時にワタシが良くって、ということはあり得ないんじゃないかなと思ってしまったんだよね。最後にロケットが飛んでいくシーンなどは絵としてはいいんだけど、もっと設定を詰めるべきだったんじゃないかな。たとえば居酒屋のシーンなどもわかりにくかったりするんだけど、じゃあ物語をすっきりさせたらどうかというと、逆に「ボク」と「ワタシ」というところが嘘くさくなってしまう。
事務局長・島田
これは編集部内評価は一番高かったんだよね? 担当誰?
事務局員・奥村
僕が担当で、T渕さんにも一緒に見ていただいています。2次選考でも話しましたが、この人は詰め込みすぎな傾向があって、宇宙人の役割だったり、ボク/ワタシの使い分けによる演出効果というものを自分の中で消化しきれていない部分があると思います。
事務局長・島田
設定でいえば、一人の人格で「ボク」と「ワタシ」という分化の仕方がそんなにもはっきりとされるのかというところだよね。
編集部員・T渕
結局一つのテーマを掘り下げることをせずに、宇宙人と二重人格というものを足してしまった。本当は10掘り下げなければいけないところを6でやめて、アイディアの数でカバーしようという感じだったんです、最初のネームは。何回か修正しましたが、まだその部分が解決されていないので、編集部内評価が1位だったというのはちょっと意外で、もう少し厳しくしてもいいかなと正直なところ思ってます。
かわぐちかいじ
同僚との話が延々あるじゃない……。
選考会の様子編集部員・T渕
最初はもっとわかりにくかったですねー(笑)。きちんと消化しきれてないですね。
事務局長・島田
しかし、社会人経験がきちんとあって、地に足の着いたものの捉え方をすると思ったよ。
かわぐちかいじ
今回の作品の中では、絵が一番魅力的だったね。この作品自体は稚拙なところもあるけど、うまくなりそうな予感がする。
事務局長・島田
話の内容、主人公たちが話していることが、大人の読者が読むに耐えうる人間観や世界観を持っていて、新人賞にしては珍しいなと思っていて、俺は「ボク」「ワタシ」という設定は、日本人特有の使い分けのメタファーになっていて、素直に読めましたね。サラリーマンの立場の微妙さも、作者の体から出ている感じがするんだよね。
事務局員・奥村
たとえば、「あなたは要らないよ」と言われてしまう社会のリアリティは、肌感覚として持っている気はしますね。
かわぐちかいじ
「日本人はなんてわかりにくいんだろう」だったり、「能面みたいだ」と言われることだったりに代表される本音の出しにくさというのは、作者の本心にある部分で、それを出さないと作品としては意味がないよね。
モーニング編集長・古川
若いヤツらは主人公の気持ちっていうのはわかるんじゃないの? 仮面をかぶってなんとかやり過ごすといった部分だったりは。
編集部員・I上
眼鏡をかけて変わるというのは突飛だなぁとは思いましたが……。
事務局長・島田
「ワタシ」と「ボク」の使い分けっていうのは人間の中で程度があって、使い分けるタイプと分けないタイプがいるとは思うんだけど、世間一般の人ってそれをかなり使い分けている気がするんですよ。編集者はあまり分けない商売なので共感しないと思うんだけど、一般にはかなり共感してもらえると思うんですよね。
かわぐちかいじ
「ボク」ってのは本音でしょ? 「ワタシ」ってのは、社交的な技術でしょ? そこをもっと整理すればいいのにと思うんだよね。デザインの能力に人格の違いを持たせてしまうからわかりにくいんであって、社会に適合するための能力と職務的な能力をごっちゃにしてしまっているから読者が混乱するんだよね。「ボク」が本音だとすると、「オレ」はどんな役割を担うの? これは宇宙人がやっていることだけど、主人公も「オレ」という存在がいるかもしれないって混乱するわけだから……。
編集部員・T渕
全部が自分だということなんじゃないですか?
事務局長・島田
いや、ベースにある自分がいて、その場その場で自分を人格を変えて切り売りしているっていうことなんじゃないの?
事務局員・奥村
「ワタシ」っていう人格を作らないと社会で生きていけないという話ですよね?
さだやす圭
突っ込むとどんどんわかりづらい話になるのかもしれないね。さらっと読むべきかもね(笑)。
モーニング編集長・古川
メッセージだったり、絵だったり、可能性だったり、総合評価で見るとこの作品が俺も一番だと思うんです。でも、いろいろと粗が目立つということで考えてしまうけど、やっぱり最後のシーンの気持ちよさだったりで評価は悪くないですね。
事務局長・島田
一見地味だけど、味のある絵ですよね。

[漫画] 『今日のキョムちゃん』 ギュムゲバ (東京都・26歳)

事務局長・島田
では、最後。さだやす先生、いかがでしょうか?
さだやす圭
かわいいシーンは結構あるよね。赤ん坊とか幼稚園児を見てニヤっとするというか、そんな感じがあった。でも、これは面白いと思えるかどうか分かれる作品だと思う。
事務局長・島田
ありがとうございます。それでは、かわぐち先生、いかがでしょうか?
かわぐちかいじ
う〜ん、わけわからないのが何本かあるよね。あぁこれは面白いなというのもあるけど、何を面白がらせようとしているのかわからないのが結構ある。最初のほうにある、このキノコのやつとかわかる?
事務局長・島田
担当は……T原か。どうなの?
かわぐちかいじ
説明してもらってもいいかな。
編集部員・T原
2次選考後に担当になったので、深いところまでは理解しきれていない部分もありますが、このネタは単純に、ついばまれちゃっただけというか……。
かわぐちかいじ
いや、それはわかるんだけど、最後に泥かなんかをのっけて補強しようとするじゃない。その後の最後のコマがわからないんだよね。落ちそうになってるところ。
編集部員・T原
これは、落ちてるのを上げてるというか……。
編集部員・T渕
これ、頭にのせたら痒かったって話じゃないんですか?
一同
え〜!! 違うと思いますよ。
編集部員・T原
ずり下がっていたのを止めて、それが延々と続くというネタなんですよ。
編集部員・T渕
あ〜、上げ続けるって話なんだ。
編集部員・T原
そうですね。
かわぐちかいじ
露天風呂のネタは?
編集部員・T原
察するに、二人が入ってるところに勢い込んで入ってきて、お湯を出しすぎて二人にムカッとされて、ひとり寂しく浮いているみたいな……。
さだやす圭
確かに、よく見ると微妙な表情が出ているね。
モーニング編集長・古川
それにしても、4コマを説明するってすごいよな(笑)。
編集部員・T原
ちなみに、この漫画は元々ブログで1日1本必ずアップされていたものです。
編集部員・T渕
この人は、なんでMANGA OPENに応募してくれたの?
編集部員・T原
ウェブでもOKな新人賞はあまりないから、見てもらえるかなと思ったみたいです。
さだやす圭
これを評価した人はどのへんが良かったの?
編集部員・T渕
私は評価したんですが、携帯とかで配信したら面白いかなと思いました。
編集部員・I上
そうですね。1日1本みたいなペースで来るとちょうど良いペースだと思いました。キャラもかわいかったですし。
編集部員・T渕
毎日来るけど、3日に1回くらいまったくわからないネタがきて、友だちに「これわかる?」って聞いてコミュニケーションを図れるみたいなイメージが湧きました。
さだやす圭
確かに、ほのぼのとはするよね。
編集部員・T渕
わからないならわかりないなりに、それはそれで価値があるというか。
事務局長・島田
こういうギャグ漫画の場合、必ずわからないネタがあるのは理解できるけど、引っかかるのは、キャラクターやデザイン、ネタに既視感がある気がする。
編集部員・T原
デザインは無個性に作っているので、赤ちゃんみたいなルックスになっています。
事務局長・島田
世の中の多くのものは、個性的にしようとして結局無個性になっている場合が多いと思う。だから、この作品もどこかで見たような気がするのかなぁ。
編集部員・T原
無個性でキャラも固定してないけど、動きでかわいく見せようとしている部分を、僕は評価します。

MANGA OPEN事務局員プロフィール

島田
「ったくバカかコイツは!」とメールをチェックしながらキレるのを、出社後の習慣にしている「モーニング・ツー」編集長。性格的に好き嫌いがハッキリしており、厳しすぎる指摘で選考会議を凍りつかせている。肉とビールとスイカとミカンとラーメンとチャーハンが大好き!
奥村
「シャツのボタンは必ず3つ外します!」が信条の艶男(アデオス)。趣味はゴルフだが、スコアメイクより道具に走る“書斎系ゴルファー”。選考会議では積極的に発言し、一種のムードメーカー的な存在、を(本人は)目指していると周囲から思われている。
笠井
入社後丸8年、週刊誌に在籍し、今期からモーニング編集部へ異動した“新人”。先日、彼女に求婚したものの「Mの人との××(ちょめちょめ)はつまらないっ!」とダメ出しをされ、失意のドン底にいる「はぐれ漫画編集純情派」(キャバクラに行くと藤田まことに似ていると必ず言われる)。
竹本
右手にMドナルドのハンバーガー、左手にフライドポテトをつかみ、油で唇をテラテラさせながら、「オレ痩せなきゃな〜」とつぶやく筋肉デブ。先日、年下妻と結婚を決め、希望と憂鬱の“あざなえる縄”のごとき日々を送る。選考会議では大きな声でハキハキ発言する体育会系。
篠原
細い目をして、いわゆる大阪のオバちゃんのように、ずーっと自分のことを話している自分好き。酒の席では、ずーっと自分の体験による、身も蓋もない下ネタを話している恥知らず。選考会議でも批評なのか自分の話なのか、わからない話が多いが、たまに鋭い指摘も。
田岡
正面から見た青魚のような顔で、たどたどしい関西弁を操る入社2年目。「めっちゃワヤですやんケ、ホンマ!」などと自分的にはオモシロ関西人を演じているようだが、彼の語りは総じてツマラナイ。応募原稿への誠実な対応のみが長所。