CHAPTER2:ストーリーについて

先を決めすぎず、偶然を呼び寄せる

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『カバチタレ!』文庫版第3巻134〜135ページより[Amazon.co.jpへ

──ストーリーを構成するうえで、とくに心がけていることは何でしょうか?

田島 単行本での読後感を考えて、最近では各シリーズの最終話を単行本で言う1巻分、または2巻分の巻末に合わせていますが、各シリーズの一話一話のストーリーについては、けっこう行き当たりばったりで進めることにしています。もちろん、どういうテーマで何の法律をあつかうのかについては、シリーズをはじめる前にかなり綿密に決めてはおきます。物語が展開して、最後の最後になった時点で現実には存在しない法律を持ち出すわけにはいかないですから。ただ、はじまってしまえば、次の週のことは原作者であるぼく自身にもわかっていないような状態でやっていくわけです。

作品の性質上、普通にやっていても法律の理屈をこねくりまわし、その理屈に従ってストーリーが展開していくという構成になりがちでしょう? それなのに、さらにシリーズのはじめから、物語の展開や結末についてまで「この人物たちは、こうなって、こうなるんだ」なんてガッチリと決めてしまっていたら、作者側の意図が出すぎたご都合主義的な展開になってしまう。しかもそれがどこかで読者に伝わってしまって、不自然さや違和感を感じさせるものになりかねない。そうなると読者を興ざめさせる失敗作になってしまいます。だから、1話ずつ、いかにその話を盛りあげるのかだけに集中して、あとの展開には偶然の入り込む余地を残すようにしています。

ただし、シリーズのラスト2話か3話くらいになると、2話分、3話分をまとめて構成します。そのぐらいの時期になると、もう、物語がどう展開するのかという点での意外性を入れる必要はないですよね。だから、そのシリーズで伝えたかったものは何なのかに焦点をしぼって、話をゆっくりと閉じていくことにしています。
そして、話を閉じる段階では「こういう物語がありましたが、これは果たして幸せなことだったのか、不幸なことだったのか、その答えは読者の皆様にお任せします」といったラストにすることがよくあります。
現実の社会では、ある出来事について、それが良いことなのか悪いことなのか、幸せなことなのか不幸せなことなのか、を決めることは簡単なことではないと思うのです。ある人にとっては幸せでも、別の人がみれば不幸せなのかもしれません。
『カバチ』シリーズが、いわゆる社会派漫画に属する作品で、作者としてもリアリティにこだわる以上、物語のラストも現実の社会での出来事と同じように、その評価は人それぞれのものにしたいと思っています。また、そうでなければ読者に対して現実味というものを提示できないだろう、とも思っています。

東風 それぞれのシリーズの中盤までというのは、盛りあげる場面や見せ方のむずかしいところで手が止まることもあるのですが、ラストはスッと手が動きますね。それまで描いてきた依頼者などのキャラクターについてのイメージもハッキリとかたちになっていますから、自然に描いていける。そこでは、それまでの疲れや作業上のストレスが、描くことによって吹き飛ぶという体験をすることもあるんですよ。

専門家の心情を読者に伝えるために

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『特上カバチ!! ―カバチタレ!2―』第1巻96ページ、100ページより[Amazon.co.jpへ

──法律を題材としてあつかっているからこそ工夫されているところは、どのような点なのでしょうか?

田島 たとえば、田村が悪徳弁護士に対して、直接依頼者に頼まれてもいないのに挑んでいく場面がありました。あそこでは、「ぼくは何であの弁護士にこだわっているんだろう」と何回か田村自身に自問自答をさせたうえで、「法律に携わる者として、法律家の肩書をエサにするヤツは絶対に許せません!」と心情を読者にぶつけています。あのあたりでは、法律家ならではの倫理観や感情を一般読者に伝えるために、「問い」を提示したうえで「答え」としての心情を伝えたんです。

こういった職業倫理やその業界ならではの感情というのは、どの仕事でもあると思います。ただ、そういった倫理観や感情は同じ業界の人間でないと共感できなかったりすると思うんです。だから、法律家としての常識や感情をただ描くだけではキャラクターの心情は読者に伝わらないと思うんですよ。それで、駆けだしの法律家である田村のクチを借りて「なぜ、ぼくは怒っているんだろう?」と問わせることで、読者に「もしもあなたが法律家だったらどうですか?」と立ちどまって心情を想像してもらう、そしてできればその真意に気づいてもらうという箇所を何回か作って、読みながら田村の怒りを自分のもののように感じてもらうようにしてるんですね。法律に携わる者にとってはあたりまえの価値観や感情でも、それを当然のごとくスッと描いてしまうと、とたんに一般読者にしてみればワケのわからない作品になってしまうんです。だから、読者とキャラクターをつなげる橋渡しには常に留意しています。