CHAPTER4:仕事論

やまさき十三さんのシナリオとの真剣勝負

『弘兼憲史短編集4 朝の陽光の中で』文庫版188~189ページ。デビュー作『風薫る』より

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──初期には、多くの原作者ともコンビを組んでいらっしゃいます。その経験は、その後の仕事に活きたのでしょうか?

弘兼 それぞれタッチの違うシナリオを漫画にする作業は、どこを調整しなければ絵にならないかが人によって違うので大変でした。その作家のクセと、自分の構成のクセを合わせる作業はなかなか苦しいものです。でも最終的には、原作が付いていても自分のカラーを主張して描きましたけどね。

特にやまさき十三さんは、映画の現場で助監督をされていたこともあって、コンビを組ませていただいた『夢工場』では、どの箇所も完璧に絵にできるすばらしいシナリオを書いてくださいました。その時は、いかにこちらがそのすごい脚本に応えて、十三さんを少しでも感心させるようなアングルや演出を入れられるかという毎回の勝負が楽しかったですね。シナリオにはなかった傘を小道具として出して、傘が歩道橋からフワッと浮かんで飛んでいったら、その陰から抱き合っている男女が出てくる──なんてシーンを描いてみたりもしました。

猪瀬直樹さんと『ラストニュース』で組ませていただいた時には、男女の絡みのシーンになると猪瀬さんは「ここは弘兼さんのほうがうまいので任せます」と書いて、そのページは白紙にしてくれていました。「よし、それじゃあこのシーンは俺に任せてください」というノリで、猪瀬さんと会話をするように作品を作ったのがおもしろかったですよ。

作品は「10年」で区切りを付ける

──これだけ長期にわたって安定的に第一線で活躍されている理由は、どういうところにあると思われますか?

弘兼 『ハロー張りネズミ』、『人間交差点』、『課長 島耕作』、『加冶隆介の議』といったいわゆる代表作は、軌道に乗せたら10年を目安に自分から連載を終わらせました。それが、作家としての新陳代謝を良くすることになったのかもしれません。おかげでマンネリに陥らずに済んだところがあります。

『張りネズミ』では、オカルトも時代劇も何でもありという、描き手として自由にやれる快感を初めて味わい、『人間交差点』では、毎回主人公が交代するから人物の顔をかなり描き分けられるようになりました。それによって、あとに描いた『島耕作』や『加治隆介』では、多様なバリエーションを持った人物をリアルに、しかも自由自在に描けたとも言えますね。

「モーニング」編集部の依頼を受けて部長編の連載を開始して以降の『島耕作』シリーズと、それからこちらも連載15年を超えた『黄昏流星群』に関してだけは、10年で終わらせるという区切りは付けていません。この2つについては、これまでもこれからも一緒に年齢を重ねていくファンと「成熟化」「高齢化」というテーマを突き詰めていこう、という別の目的が生まれましたからね。だから、ライフワークとして行き着くところまで行ってやろうじゃないか、というような気で連載を続けているんですよ。

「モーニング」2010年33号108~109ページ

「モーニング」2010年33号108~109ページ