CHAPTER3:コマ割りについて

最も重要なのは「奇数ページの最後のコマ」の処理

『課長 島耕作』新装版5巻120~121ページ

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──こちらの見開き(※右図参照)は、「もどかしさ」が余韻たっぷりに表現されているところがすばらしいと思います。どのように演出を構成されたのでしょうか?

弘兼 ここはお互いを思い合いながら別れてしまった場面で、映画の演出で言えばもうサイレントだろう、と考えました。

漫画のコマの処理の中で最も重要なのは、見開き2ページのうちの左下、つまり次のページをめくる寸前の最後のコマです。「……お、どうなるんだろう?」と読者に思わせるコマなんです。ですから、ここでもサイレントの手法を使いながら、左下の最後のコマに向けて緊張感を集約させていきました。

まず、「市場の前」という本来は雑踏や喧騒の音のある場所であえて音を消すことで、無音であるという効果を高めますよね。そして、雨は静かに降っている。島耕作が電話をかけると、電話の音ぐらいは聞こえてくるかもしれません。それでおずおずと電話に出て、ラストの「島さん!!」になる。

こういう無音のあとのセリフは心に残りやすい効果があるんです。『加治隆介の議』でも選挙運動中にトマトをぶつけられるシーンは無音ですけど、そうすることによってそのあとの「大人になるとあれぐらいのつらいことはいっぱいあるんだ 大したことじゃない」というセリフの味わいも深まってくるんですね。これ、自分ではとても好きなセリフなんですよ。

『加治隆介の議』文庫版1巻300ページ『加治隆介の議』文庫版1巻296~297ページ

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省略と場面転換が、漫画にリズムを生む

──では、連載各回の最後のコマや、場面転換のコマについてはどのように処理をされているのでしょうか?

弘兼 各回の構成案を練る時には、頭の中で映像をバーッと流すようにして筋を考えるのですけど、最後のコマでオチ(決めのセリフ)を作っておいてからコマ割りを組み立てると、どのシーンを省略させるべきかをハッキリさせやすいですね。漫画のリズムは、「何を描かないのか」の省略と、場面の転換によって生まれるものですから。

最後のコマは、『島耕作』シリーズなら、不意に衝撃的なことを言われた島の「え?」という顔で次回に興味を持たせる「ヒキ」を作るとか、あるいは『黄昏流星群』のラブストーリーが終わる回なら、2人で田園風景の中を歩いているシーンをロングで見せて「ジ・エンド」という雰囲気を出す、なんてことがほとんどですね。どちらにしても、最後のコマはできれば5秒ぐらい見て余韻を感じてもらいたいので、より印象づけるよう大ゴマで描くことが多いです。

場面転換については、東京タワーとかエンパイア・ステート・ビルとか、誰にでもわかる風景を大ゴマで描くことで、「あ、今、この場所に移動したんだな」と確実にわからせるようにしています。

場所ではなくて時間の移動を見せるには、風景だけではなく、わりとコマをゆったりめに使って、たとえば灰皿に吸殻が増えているとか、皿のおでんがなくなっているとか、カウンターに突っ伏している人間とか、そういった小道具をうまく使って示したら、「上司を説得するのに朝方までかかってしまった」なんて感じがよく伝わるものになります。

『課長 島耕作』新装版17巻60ページ『課長 島耕作』新装版17巻58~59ページ

『課長 島耕作』新装版17巻58~59ページ、60ページ[Amazon.co.jpへ

他には、会議や宴席がずっと続いているような、場面が変わらないシーンを描く時は、アングルを変化させることで読者を退屈にさせないようにしなければなりません。顔の大小や角度を変えるばかりではなくて、時には背景の上にセリフをかぶせたり、あるいは白黒を反転させて「目の前が真っ白になった」という表現を入れてみたり……。

漫画では、映画のように圧倒的なBGMの力で泣かせる演出はできません。漫画のコマの中で、小さい空間での会話で読者を感動させるって、かなりの技術が必要なんですよね。