『宇宙兄弟』がつなぐ夢
——『宇宙兄弟』でも選抜試験の様子が細かく描かれていますが、実際の試験との違いはありますか?
大鐘 本質的には同じだと思います。「グリーンカード」などアクシデントを人為的に起こす点など、漫画的に面白く強調している点もありますが、試験の狙いは正しく描かれていると思いますし、その時々に候補者が抱く思いも六太たちと同じではないかと思います。
描こうとしている本質は、実際の試験と一緒だな、と僕も感じました。良い宇宙飛行士になれる人は、他人から見ても共感できる人、愛される人であると言えるように思います。『宇宙兄弟』では、六太をはじめ、強く共感できるメンバーが試験を勝ち抜いています。そして共感できるということは、人間的な魅力がある、すなわち、人間力があるということでもあると思います。
——実際に候補者を取材したお二人から見て、ずばり、六太には宇宙飛行士としての資質が備わっているでしょうか?
大鐘 他人を思いやり、チームワークのために自らを犠牲にする姿は、まさに宇宙飛行士に求められる資質だと思います。その点で六太にはライトスタッフ(正しい資質)が備わっていると思います。ただ、サラリーマンだったときに、弟のためとはいえ、上司に頭突きをしたことがJAXA側にばれたら、落とされると思いますが(笑)。
今から20年後に採用され、活躍する宇宙飛行士、ということであれば、資質は備わっていると思います。今という時代の宇宙飛行士選抜試験であれば、六太のように上司に頭突きしてしまった経歴を持つような候補者は問答無用で不合格になってしまいますが、20年経てば、宇宙飛行士は、今よりも“個性”を重視するようになっていると思います。宇宙飛行がより当たり前のこととなっていく中で、その時代の変化と共に、“創造力”、すなわちユニークさに目が向けられるようになり、六太のような情熱的な人物は、新たな宇宙飛行士像として、求められているように思います。
——『宇宙兄弟』で、お二人が特に注目して読んでいるところを教えてください。
今、アメリカの宇宙開発は迷走しています。非常に現実的な目標だった月探査を、第一の目標として掲げることをやめてしまうなど、劇的な変化の真っただ中にあります。誰も確かな未来を思い描くことができない中で、緻密な取材に基づく『宇宙兄弟』が、未来の宇宙開発の姿を、どのように描いていくのか、一人の読者としてだけでなく、一人の記者として、とても注目しています。
大鐘 私たちは、最終試験から宇宙飛行士が誕生するまでを追いましたが、その後の厳しい訓練に密着することはできていません。それだけに実際に宇宙に行くまでの過酷な訓練がどのようなものなのかわかりませんので、今後六太がどのような訓練を経て宇宙飛行士になるのか、興味は尽きません。あとどうでもいい話を一つ。最終選抜まで残れなかったのですが、二次選抜に残った48人の中に、“やっさん”に瓜二つの受験者がいたのには驚かされました。その方は京都大学の学者の方ですが、小山さんはご存じだったのでしょうか。(※まったくの偶然だったようで、作者・小山宙哉氏、担当編集も驚いていました)。あまりにも似ていたため、候補者たちの間では今でもその方は“やっさん”というニックネームで呼ばれています(笑)。
——野口聡一さんの国際宇宙ステーション長期滞在や、小惑星探査機『はやぶさ』の地球帰還が話題になり、最近は宇宙開発への関心が高まっていますが、報道の立場としては、今後どのように宇宙開発に関わっていきたいですか?
人は何故宇宙を目指さなければならないのか、を突き詰めて考えていきたいと思っています。経済情勢が芳しくなく、「事業仕分け」に代表されるように、科学の分野でも“無駄を省く”という風潮が支配的な中で、日本だけでも年間、数千億円規模の予算を使う宇宙開発は、ともすれば、効果のほどが全くわからない、壮大な“無駄”と思えるかも知れません。そうした中、人は何故、宇宙を目指すのか、その中で、なぜ日本が、身銭を切ってまで、新たな挑戦を続けていかなければならないのか。アメリカやロシア、それに中国など、他の国の宇宙開発の勉強を通して、誰もが納得する答えを模索していきたいと思っています。
——最後に、お二人の「宇宙の夢」を教えてください。
大鐘 今回選ばれた3人が宇宙に行くまで密着できれば最高です。自分はあんな苦しい思いをしてまで宇宙に行きたいとは思いませんが、3人に「宇宙の夢」を託すことで自らの夢は叶うと信じています。
20年後、日本が独自の有人宇宙ロケットを開発し、日本人を当たり前のように宇宙に送り込んでいることですね。もしかしたらそのころには、宇宙旅行が当たり前になっているのかも知れません。それでも、日本製のロケットで、日本人が自由に宇宙に行っている様子は、ぜひ見たい光景です。しかしそのためには、今から、明確な目標を立てて宇宙開発を進めていかなければなりません。厳しい経済情勢の中でも、それが実現できるような方法を、世界の宇宙開発の取材を通して見出し、積極的に伝えていきたいです。
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