平野啓一郎の「3冊のマンガ」

『ヒミズ』古谷実

『ヒミズ』古谷実

平野 古谷さんに関しては、小説の“文体”にあたる、漫画の“画体”とでもいうべきものが非常に好きなんです。フィクションならではの、日常では口にしにくいミもフタもないことも語られていて、しかも内容が絵と相乗効果をあげていますから。ポカンとしている、何かを考えているなんて表情も、ほんとに素晴らしいですよね。

『ヒミズ』古谷実
講談社ヤンマガKC全4巻発売中

『プロレススーパースター列伝』原作・梶原一騎/作画・原田久仁信

『プロレススーパースター列伝』原作・梶原一騎/作画・原田久仁信

平野 これを挙げたのは、一昨日たまたま『レスラー』という映画を観たからです。というのも最近、熱さと馬鹿馬鹿しさの共存が許されていた80年代の文化にあらためて注目しているんです。個人的な80年代リバイバルの一環ということで。ファッションも、90年代をなかったことにして、能天気ではあれ、勢いのある新しいものが生まれていた80年代からやり直そうという流れが今はありますよね。90年代は、80年代のそうした馬鹿馬鹿しいインパクトとは正反対に、色々なことがシリアスになってしまったし、停滞感も強かった。『レスラー』で主演のミッキー・ロークが言うんです。「80年代のガンズやモトリーは最高だったけど、ニルヴァーナが出てきて全てがつまらなくなった」って(笑)。僕自身、もちろん当時は「ニルヴァーナかっこいい!」と思ってましたけど、ただ、今あらためて80年代にマイケル・ジャクソンたちが歌った「ウィー・アー・ザ・ワールド」のミュージッククリップとか観てたら、やはりこれがアメリカのポップスの全盛期だったなとつくづく思うんですね。それに、この『プロレススーパースター列伝』は、同年代と話をすると「読んでたよねえ」と意外に盛り上がることが多いんですよ。

『プロレススーパースター列伝』原作・梶原一騎/作画・原田久仁信
講談社漫画文庫全11巻(品切重版未定)

『ドラゴンボール』鳥山明

『ドラゴンボール』鳥山明

平野 やっぱり、すごいマンガだと思いますね。ギリギリまで情報量を減らした簡潔な描線に、とんでもない説得力を感じます。これもやはり“画体”が洗練されているのだと思いますが。海外に出かけて人と話をしていると、『ドラゴンボール』が世界でどれだけ人気があるのかをあらためて痛感するんですが、それも当然でしょう。これこそ、「スーパーフラット」というか、ある意味、僕からは一番遠い世界なので、余計にすごいなと思いますね。

『DRAGON BALL』鳥山明
集英社ジャンプコミックス全42巻発売中

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平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)

1975年愛知県生まれ。京都大学法学部卒。1998年「日蝕」でデビュー、同作が第120回芥川賞を受賞。著書に『一月物語』『文明の憂鬱』『葬送』『高瀬川』『滴り落ちる時計たちの波紋』『顔のない裸体たち』『ウェブ人間論』(梅田望夫との共著)『あなたが、いなかった、あなた』『モノローグ』『ディアローグ』『決壊』(芸術選奨新人賞受賞)『小説の読み方 感想が語れる着眼点』などがある。

平野啓一郎最新刊『ドーン』講談社/1,890円(税込)

2033年、人類で初めて火星に降り立った宇宙飛行士・佐野明日人。しかし、宇宙船「DAWN」の中ではある事件が起きていた。世界的英雄となった明日人を巻き込む人類史を揺るがす秘密とは?