第1回賞をとった人の運命は大きく変わりますから

「モーニング」2010年32号から全4回にわたり掲載され大好評を博した特別記事『ちばてつやが語る「ちばてつや賞」』が、リクエストの声にお応えして、当サイトでまとめて読めるようになりました!

また、ちば先生の仕事場の様子や、名作を生み出した数々の道具などの写真も、Webならではのカラーで再構成しました。まさに漫画家志望の方には必見の、漫画ファンにとっても充実の内容となっています。どうぞお楽しみ下さい!

いい芽に気付かないことがいつも怖い

ちばてつや先生1

      
今回のちばてつや賞の最終選考会はかなり長丁場でしたね。
ちば先生
候補作の数も多かったしハイレベルでした。最後まで迷いましたね。
      
以前にも最終選考に残ったことがある作者の場合、先生が当時の応募作のことを覚えていて、その成長ぶりにも言及しながら選考していらっしゃったことに驚きました。作品を選ぶだけではなくて、「マンガ家」を選んでもいるのだな、と。
ちば先生
賞をとったことでその人の運命は大きく変わりますからね。僕が一番怖いのは、せっかくいい“芽”をふきかけているのに、それに気づかないことです。今までにも「ちょっと枝の見ためが悪いな」とバッサリ斬り落としたところに、新しい芽がふいたりしていたかもしれない。
      
30年選考委員をされていても、才能に気づかないことの怖さを持ち続けているということでしょうか。
ちば先生
一作一作怖いですよ。私も新人時代に編集者がたまたまある1コマでくすっと笑ってくれたことで自信を持てた。その人の特性みたいなものを見つけてほめてくれる人がいなければ、自信をなくしたままになってしまうかもしれない。
      
選考会では、全ての作品について、必ず一ついいところを挙げていらっしゃいました。
ちば先生
私が言うことで、「この作品のいいところはこれですよね」というのをモーニングの編集部員みんなで共有できるので。

漫画は素晴らしい媒体

      
ちば先生は選考の際、作品を読むのに非常に時間をかけていらっしゃるそうですが。
ちば先生
私は読むのが遅くてねえ。新人の作品だと、キャラクターになじみがないし、それぞれ絵とか演出に癖があるからどういうリズムの作品かがわからない。だから一度ざっと読んで全体をつかんでおいてから、もう一度読み直すようにしています。
      
ちば賞の歴代受賞作を見ていると、ジャンルも作風も本当にいろいろですよね。ちば先生は、マンガの多様性を大事にされている気がします。
ちば先生
マンガはなんでもありですから。
      
ある作者のことを「キャラクターの強さで大ヒットを飛ばしたりはしないけれど、いつまでも誰かの心に残る短編を描く作家になれる」と評していらっしゃいました。作家にもいろんなタイプがいていい、と。
ちば先生
そうですね、そういう作家っているんですよ。同世代だとつげ義春さんとかね。誰かの心にひっかかるようなものを描く人。ストーリーはないんだけど心を詩みたいに表現したり、哲学を語ったり、音楽を見せたり。マンガでなら全部できる。すばらしい媒体だと私は思います。

どんなにつらい話でも最後に救いが欲しい

ちばてつや先生2

仕事に行き詰まったときは、スイングをして気分転換? プレーするのも観戦するのも大好きな野球は、リフレッシュにとても効果的なのだとか

      
最近の応募作を見ていて感じる傾向のようなものはありますか。
ちば先生
ちょっとね、人生を嘆き悲しむような……読んでいて心が冷たくなるような作品が多いんですよ。現実世界でもいじめとか虐待とか、もうニュースにもならないくらいたくさん起こっているでしょう。マンガを描くような人は非常に繊細なところがあるから、世相を敏感に感じて、それがマンガに出てきちゃうのかもしれないね。
だから、ぬくもりがある作品を読むとほっとする。ほっとするってことは、それだけぬくもりがある作品が少ないということなんだけど……それがまた悲しくてね。あくまでも一読者としての私の希望なんだけど、どんなにつらい話でも最後に救いがほしいなと思うの。
      
先生の描かれる作品には、いつも救いがありますね。
ちば先生
うん、私のはね。昔はマンガって勉強で疲れたときとか、親とか先生に怒られてがっくりしたときに救いを求めて読むようなものだった。そういうときにつらい話はね……。私は人生って捨てたもんじゃない、と希望がわくようなものを描きたいなと思ってきた。
でもそれは、私の作り方だから。選考の時には「世の中いいこと は何もないよ」という救いのない終わり方で何かを感じさせる作品があってもいいと思っています。自分の「好み」では選びたくないですからね。

第2回ゆっくりでもいい描き上げることが大事

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プロフィール

ちばてつや

1939年東京都生まれ。56年にプロマンガ家としてデビュー。以後、『ちかいの魔球』(61年)、『あしたのジョー』(68年)、『のたり松太郎』(73年)、『おれは鉄平』(73年)、『あした天気になあれ』(81年)など、多数のヒット作を手がける。05年より文星芸術大学にてマンガ専攻教授を務めるなど、積極的に後進の育成も行う。09年にはマンガ界の発展に大きく寄与したとして、講談社漫画賞の講談社創業100周年記念特別賞を受賞。社団法人漫画家協会常任理事。

ちばてつやヒストリー

『あしたのジョー』

あしたのジョー表紙

1968年から73年に「週刊少年マガジン」にて連載され、大人気を博したボクシングマンガ。原作は高森朝雄(梶原一騎)。
東京・山谷のドヤ街に現れた少年、矢吹丈(ジョー)。
元・ボクサーの丹下段平に才能を見出されたジョーは、力石徹との出会いを経て、ボクシングにのめり込んでいく──。
ジョーの宿命のライバル・力石が作中で死亡した際には、その反響の大きさを受けて、実際に力石の葬儀が行われるなど、社会現象をも巻き起こした。
二度にわたるテレビアニメ化をはじめ、さまざまなメディア展開がなされている。現在も衰えることのない人気を誇り、山下智久(NEWS)主演で実写映画化もなされた。

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