最終選考会の議事録をノーカット完全収録!

ちばてつや賞一般部門の最終選考はちばてつや先生をお迎えして行われます。
時間をかけて一作一作丁寧に読んでくださったちば先生のコメントを聞き、その上で作品の担当編集は、自分の担当作品をちば先生にアピールします。
そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問。活発な議論が交わされます。

 

『動物園のオムライス』いノうエさトル(愛知県・44歳)

●担当編集
十数年前に、ちば賞のヤング部門で賞をとったことがある方です。ヤングマガジンに読み切りが二度ほど載ったのですが、その後、10年ほど漫画からは離れていました。2年ほど前に絵本の仕事をする機会があり、その時に意外にも楽しく絵が描けたことから、また漫画を描いてみようと再起し、今回の投稿作が復帰作になります。この作品は、地元の動物園の中にある飲食店を営んでいるおじいさんが出演していたテレビ番組を観た時に「おもしろいな」と思い、実際に取材にも行っているそうです。そして、「こういう環境に子どもがいたら、どういう成長を遂げるだろう?」という思いを抱いたところから発想がどんどん広がって、この作品を描いたとのことでした。久々ということもあり、絵が粗い所が多く、ちょっとデフォルメした絵なので、多少読みにくいと感じる方もいるかもしれませんが……。
●ちば先生
すごく読みやすいんだけど、確かに絵柄はデフォルメが過ぎるので、大人と子どもの区別がつきにくい所があるんだよね。お父さんは、髭を生やして、タバコを吸ったりなんかしていてわかりやすいんだけど。学校の先生なんかは、セリフを見ないと、この人が先生なのか生徒なのかがわからない。非常にわかりやすい漫画だったと思うし、メッセージも明快なので、その辺の描き分けができるともっと良かったかな。
●担当編集
その他の長所としては、間の取り方がうまく、ゆったりとしたテンポで読めました。大人の描き方にも味のある演出ができていたと思います。
●事務局長・宮本
ストーリーに関してはいかがですか。
●ちば先生
いいんですけど、ウサギの死が出てきた部分など、必要なかったんじゃないかなと思えるシーンもあった。ゾウの話、あるいはキリンの出産の話などに絞ったほうが、動物と人間の「生と死」に対するとらえ方の違い、みたいなものがもっと伝わったんじゃないかな。
 

『ダチョウの王国』青野寧々(愛媛県・18歳)

●事務局長・宮本
私が担当です。ちょうど一年前のちば賞で入賞された方です(第61回ちばてつや賞にて『猫神』で入選)。
●ちば先生
ええ、覚えてますよ。
●事務局長・宮本
ありがとうございます。今作の主人公のお父さんは、作者自身の父親がモデルだそうです。
●ちば先生
この作品は、非常に日常の生活を上手く描いていますよね。ただ、そんなありふれた日常の中に、ダチョウがいるっていうことは、とんでもないことなんだよね。読んでいて、どうしてもそっちに気がいってしまうんだよね(笑)。感動とか笑いを味わいたいんだけど、ダチョウの衝撃で、それが全部ふっとばされてしまった感じがして。たとえば、ダチョウを幼稚園へ連れて行って、「ひもを引っ張るとおとなしくなるから」っていうシーンがあったけれど、そういう部分はすごくリアルに描けているんだよね。そういったダチョウの習性を描くだけで、短編って十分だと思うんだよね。だけど、他の要素もいろいろ詰め込みすぎて、短いページ数でちょっと欲張りすぎたかなあ。あと、気になったのが、お父さんのキャラクターなんだけど。お父さんがあまりにも突飛すぎて、「これは作り話だ」って、私は思ってしまったんだよね。この作者は、もうちょっと静かな話で味が出せる人だと思うんですよ。
●事務局長・宮本
これから作品の幅を増やしていこうという中で、僕は、作者の成長の一つの過程としてこういう作品があってもいいのかな、と思っているんですが。
●ちば先生
そうだね。今、自分の作風を探している最中なんだと思うんだけど。私がこの作者に伝えたいことは、とんでもないキャラクターだとかストーリーだとかを考えなくても、身近な話をちょっとひねって演出するだけで、怖かったり笑ってしまったり、人間っていいなあと思ったり感動させることができるんだよ、っていうこと。この作者は、もうちょっと日常の中にドラマを見つけるということを意識したほうがいいかな。前作(『猫神』)でとても静かな演出であれだけの怖さを演出できた人なんだから、そうできると思うんですよね。ただ、エンタテインメントって、人を驚かせたり「こんな話はどうだ」って読者をおもしろがらせたいっていう、そういう気持ちが大事だからね。これからも、作者自身が楽しんで描いていってほしいな。
 

『コンプレックス・エイジ』佐久間結衣(東京都・26歳)

●担当編集
以前「MANGA OPEN」に応募してきた方で、その際に私が担当になりました。その応募作は、絵は非常に綺麗ではあったのですが、話の中身があまりない漫画でした。登場人物も、セリフや所作がちょっと嘘くさく、あまり人間らしくなくて……。なので、「次回はちゃんと人間を描いてみましょう」と言ったところ、出来たのが今回の作品でした。
●ちば先生
この作品に出てくる主人公のようなゴスロリファッションの人は、街中に結構いますよね。登場人物がいつまでも少女でいたいのに、そうじゃなくなっていることに、鏡を見て気づくときの哀しさとかわびしさといった感情を上手く表現して描けていたね。これは、取材して描いているの?
●担当編集
はい。実際に原宿などに行って、そういうお店をまわったりもしました。
●ちば先生
そうですか。それは良く原稿に表れていましたよ。ただ、じつはね、私は1回目に読んだとき、この作品の良さっていうのがパッとわからなかったの。漫画っていうのは、一読が大事なんだよ。だけどね、もう一度読み返したときに、非常に細かいところまで一コマ一コマ工夫して、コマ割りや(ページの)めくりにもきちんと意識して描いていることが見えてきて……。読めば読むほど、その良さが出てくる作品でしたね。ただ、惜しかったのは、主人公がお化粧した絵が、あんまり少女っぽくないんだよね。読者が引いちゃうくらい、会社員として働いているときの主人公と、ゴスロリのときの主人公の顔を化粧によって全然変えちゃう演出をしたほうが良かったのかな。「えっ、これ一緒の人なの!?」ってなるくらい。
●担当編集
確かに……。
●ちば先生
そうするともっと、素顔で鏡の前に立った自分が、「ああ、もう少女じゃない」というゾワッとする感じがより一層、出せたんじゃないかな。なかなかレベルの高い、ずいぶん描き慣れている作品だと思いましたよ。
●担当編集
ありがとうございました。
 

『苦海』ナガタ(東京都・33歳)

●担当編集
コミティアで知り合った方で、今はアシスタントとバイトをしつつ漫画を描かれています。ネームの時よりも人物の描き分けができていなかったのと、今はもうない「吉原」という世界を一生懸命調べているけれど、自分のものにしきれずに描いてしまった印象は否めないと思っています。ただ、逆に課題が浮き彫りになったので、その点はよかったなと感じています。
●ちば先生
コマの割り方や表情など、とても描き慣れているね。それと、郭(くるわ)の世界観もよく調べている。こういう若い方に馴染みがない世界に挑戦したということで逆に期待して読んだんだけど、ちょっと欲張りすぎたかな。
●担当編集
よく勉強しているんで、知識として、「おっ」と自分が思う部分を削がずに進めていったら、描きたい部分以外のポイントがちょっと目立ってしまったかなと。そこが「お勉強しました感」につながってしまったのかなとは思いました。
●ちば先生
それとね、何度か読んだけど、キャラの顔が似ている上に、源氏名と本当の名前も沢山出てきて、どの子が主人公なのかが非常にわかりにくかった。現代劇ならば茶髪やメガネなどで描き分けることができるけど、この時代みんな黒髪だから大変だとは思う。けど、漫画は一目で「主人公」「脇役」とか認識できるようにしないと、読者が迷ってしまうんだよね。それと、キャラの名前。「春さん」というキャラが登場するけど、男性に春さんなんてつけちゃダメだよ〜。
●一同
(笑)
●ちば先生
三吉(さんきち)とか吉蔵(きちぞう)とか、いかにも「男」っていう名前をつけなきゃ。ボクはキャラに関しては、シルエットでもわかるように、とよく言うよ。画力もあるし表情もとてもうまく描けているから、ちゃんと顔を描き分けて読者を混乱させない心配りをすれば、もっとスムーズに作品の世界に入り込めるような感動できるお話ができたはず。それと、郭の女性がみんな「悲劇の主人公」という顔をしている。確かにこういう世界で幸せな女性なんていないかもしれないけど、それでも、一生懸命生きていこうとしている人や、希望を見つけてる人とかも描けたんじゃないかな。
●モーニング編集長・島田
けど、この人、絵そのものはめちゃうまいよな。体とか手、すっげえよ。
●ちば先生
絵を描くのは上手だから、もったいなかったね。さらに言うと、そのキャラが魚屋なら、魚臭いとか貧乏のにおいがする衣装とか髷が崩れているとか生活感をもっと意識するといいね。そうすると、よりメッセージも伝えられると思う。
●担当編集
ちなみに、「演出にタメがない」というコメントがありましたが……。
●ちば先生
作品内にあった郭に売られる別れのシーンで、役に立てて私は幸せ、というようなセリフのあとにすぐ泣いている。せっかく演技をさせるなら、笑っているけれどだんだんと表情が変わっていくとかもできたと思う。タメっていうのは難しいんだけど、それを意識すればもっと印象的なシーンも作れたと思うよ。
 

『画家が死んだ』ノザキ(千葉県・26歳)

●担当編集
油絵を描いて生活している方なのですが、漫画家としてプロになりたいということで、編集部に持ち込みに来て、私が担当になりました。そのときの作品が今回の応募作で、ほぼ修正などはしていません。
●ちば先生
この方の絵がとても好きですね。ギスギス描きすぎず、空白をいかして非常に見やすく好みです。温もりのある絵ですね。最近の応募作は、重くて恨みがましかったり人を呪ったり憎んだりするようなお話が多い中、ラストの展開なども含めホッとするような温かみがあった。とても読んでいて楽しかったですよ。この作品はきっと「読ませる漫画」ではなく「感じさせる漫画」で、そういう意味では充分感じさせる漫画になっていると思ったよ。ただ、作品として批評しなければいけないとなると、ちょっと意味が取りづらいところがあったのが残念。モデルが死のうとした理由や、画家が死んだことにより生きることを決意するきっかけとか、何度も読んだけどわからなかった。感じて欲しいという部分なのかもしれないけど、そういうコマが、今回は必要だったのかもしれないなあ。
●担当編集
きっかけ等については敢えて明確に描いてはいなくて、ただ、疑問点がありすぎるというご指摘はもっともだと思います。
●ちば先生
作品の雰囲気からすると、しっかり描く必要はないとは思うけどね。ただ、画家は何で死んだのかとか、もう少しわかるとよりよかったかもね。今、引きこもった人間っているでしょ。人に会いたくないとか、天気のいいときは何でこんなにまぶしいんだよと腹がたつとか……そんな気持ちもわかるんだけどね。何か原因がある。その原因を明らかにしなくても、におわせて欲しい。「わかってよ」じゃなくて「わかるわかる」にして欲しい。せっかくいい絵だしいい雰囲気の話だし、セリフ回しももうまいでしょ。例えば、秋雨の中で赤い橋で白い着物というとこ、色がふわっとにじみ出てくるようないいセリフだよね。詩を読んでいるような心地よさがある。だからこそ、わからない部分があるのはもったいなかったかな。
 

『エゴイスと林檎の村と。』手石老(東京都・28歳)

●担当編集
アシスタントをしながら漫画を描かれていて、今回が初めての応募です。絵が堅かったり、肝心のアクションシーンが魅力的に描けていないなど至らない点ありますが、ぜひちば先生のご意見伺えればと思います。
●ちば先生
私の第一印象はね、この方はファンタジーゲームの世界観が好きで、今回の応募作を描いたのかなと。
●担当編集
ゲームが好きというより、夢のある話が好きということから、ファンタジックな物語を描いたのだと思います。
●ちば先生
なるほどね。何でそう感じたかというと、非常に計算されている作品でしょ。こういう主人公がいて、こういう村があって、こういう規律があって、不思議な林檎があってと……組み立てて組み立てて作った気がするの。ほとばしりではなく、頭で作っている。そういうやり方もあるけど、短編という短い枠の中で全部をおさめようとして、ちょっと人間がいきいきしていないんだよね。作者が意図的にキャラを動かしていて、もう少し勢いや熱気とかほどばしりで描くといいなと思ったよ。そうするとキャラクターも生き生きしてくるんじゃないかな。頭の中で組み立てるやり方というのは連載漫画だったらいいけど読み切りで描くとなると、やっぱり要素が多すぎる。それとね、ちょっと不自然な点もいくつかあった。例えば、村祭りに旅人が来たら、自警団の団長なんかは警戒するところをすんなり歓迎しちゃっている。あと、櫓(やぐら)なんかも登場すると、私は七十何年も生きているから、これはきっと伏線なんだろうなと読めてしまう。
●一同
(笑)
●ちば先生
けどそういう細かいつまずきで、作品世界に気持ちが入っていかないんだよね。肝心のアクションも沢山描いているはずなのに、印象に残るような「アクションシーン」になっている部分は確かに少ないかもね。すごくおもしろい話だし、林檎を食べると傷がたちまち治るとかおとぎ話みたいでともすると陳腐になってしまうところをとてもリアルな絵で表現しているから映像で見てみたいと思わせる。そんな力はあるとは思ったけどね、全体的に作者の都合の良い世界の中でキャラが動いている印象はあったかな。
●事務局長・宮本
人物を描くときに「お人形さん」にならないよう心掛けていることはありますか。
●ちば先生
う〜ん、あまり意識とかはしていないけど、こういう子はいるよなとか、よくいる子だけどちょっと変わっているんだよなとか想像しながら描きますね。読み切りを描いたことは少ないし、少ないページ数で読者を感動させたりしなくてはいけないから、とても難しいと思う。私なんか描くとなると80枚くらいになっちゃう。
●一同
(笑)
●ちば先生
けど、そういう感動などを読者に抱いてもらうには、どういう人間がふさわしいかなと考えますが……よく言うのは「欲張りなさんな」ということ。お寿司ならお寿司で1カンか2カン食べたい。読み切りは、そばもラーメンもトンカツも出されると、何を味わっていいかわからなくなるんだよね。そうじゃなくて、感動させたいのか、人間てだめだなとガッカリさせたいのか、狙いを絞って描いて欲しい。そしてそれを描くために最小限の人物を登場させるようにして欲しい。この方はキャラに限らずとても丁寧に描いている。一人一人のキャラもしっかり描いている。けど、それぞれの歩んできた人生っていうのがあるし、読者はどの人物の何に注目したらいいのか混乱してしまうんだよね。
 

『3.1415…』美輪多緒(愛知県・24歳)

●担当編集
輪廻転生をテーマにした作品です。どうしてこの話を描こうと思ったのか、ということを訊ねたら、最近親戚の方が亡くなられたそうなんですね。その方をお葬式で荼毘に付して、その身体が煙になり、雲になり、雨になって植物を育て、それを自分で口にする、そうしたサイクルを実感したことが、この作品を描くきっかけだったんだそうです。読んだ時に、宗教的な話なのに教条的ではないというか、嫌味のない優しい語り口で、読後感のいい形にまとめているなと思いました。
●ちば先生
もっと話を絞れたかな、と思うんだよね。初対面の人に「この人、前に会ったことあるな」って感じたり、来たことのない場所に「前に来たことある」って感じたりして、前世の存在を考える、というのは、みんな体験したことがありますよね。それはいいんだけど、この女の子とおばあちゃんの死を、もう少しシンプルに描けなかったかなと思うんですよ。登場人物が優しくて、すごくほっとする話でもあるんだけど、熊を撃ったり、鮭が腹の中から出てきたり、生々しい描写も出てくる。温かい話を描くために、シリアスな部分を描くことも必要なんだけど、その辺のバランスがちょっと取れていなくて、この人が言いたいことが読者にうまく伝わる話にできなかったんじゃないかな。もっと言うと、おばあちゃんが死んでしまう話と、女の子が交通事故で死んでしまう話も、分けて描いたほうが良かったと思うよ。
●事務局長・宮本
おばあさんが死んで、輪廻転生を感じる、というところまではわかるんですけど、その先にまた、自分の大切な女性の人が死んでしまうというところは蛇足だったということでしょうか。
●ちば先生
いや、話を二つに分けてほしかったと思うんだよね。おばあちゃんが死ぬ、というだけでもすごく大変なドラマだから。
●担当編集
エピソードを盛り込んだ結果、話全体の構造がちょっと見えにくくなってしまっている、ということでしょうか。
●ちば先生
そうだね。この作品は54ページあるんだけど、30ページくらいにまとめたほうが、この人が言いたかった、人間に前世や来世があるかもしれない、といったことの不思議さというものは読者に伝えられたと思うよ。
 

『ちょいとみやげを』栞あじさい(神奈川県・26歳)

●ちば先生
「てみやげ」というテーマで楽しい話をたくさんちりばめていて、大変おもしろく読めました。キャラもタッチも作品内容に合っていて感心したんだけど、今までにたくさん漫画を描いてこられた方なんですか。
●担当編集
前々回のちば賞に、初めて描いた漫画を投稿した方です。1次選考で落選してしまったのですが、その時に「何かおもしろいものを盛り込まないと」と感じて、思いついたのが「てみやげ」というテーマだったそうです。それをめぐって、楽しい人たちがたくさん出てくる漫画を描きたいと思った、というのが作者の言です。なので、この作品が人生で2本目の漫画ということになります。
●ちば先生
まだ2本目なんだ。
●担当編集
この作品については、まず、作者が考える理想の家族像、愛、幸せといったものを、漫画にしたいというのが根本にあって、だけど、ただそれだけだと読んでもらえないだろうから、「てみやげ」というテーマを持ち込んだのだそうです。作者の定義によれば、てみやげというのは愛や想いが形になったものなんですね。愛情をもって誰かのためにてみやげを選ぶ、という行為や、てみやげをもらった人が愛情を感じる……この作品では、そういったことを描きたいそうです。まだ漫画を描いた経験が少ないので、フキダシの大きさに対して文字が多すぎたり、原稿を縮小した時に絵柄が潰れてしまったり、主人公の初登場シーンがすごく小さかったりと、欠点はあります。また、「てみやげを通じた愛」という作品のテーマについても、登場人物がいい人すぎるきらいがあるというか、善意のバリエーションが少ないんですよ。泣きながらガマンする愛もあるし、誰かをあえて怒らなければならない愛もある。もっと違った形の愛を描くことができれば、登場人物をより深く掘り下げることができると思います。この世界観や、描こうとしているテーマについてはとても賛同できるので、そうした点に気を付ければ、もっとおもしろい作品が作れると思うのですが。
●ちば先生
縮小されたら読みにくいかも、と言われれると、確かにそうだなあと思った。だけど、原稿と同じサイズで読むと、背景の細かい棚のひとつひとつに至るまで、本当にきっちり描いていて……。それに、風景に温もりがあって懐かしいんだよね。何気ない電線のよれ方なんかも、見ていて気持ちがいいんですよ。だいたい描き込みすぎると、目が疲れてしまうんだけど、これはとても心地良くて、一コマ一コマ楽しめた。私はてみやげの中の「みすず飴」が好きなんだけど(笑)、ああ、これ最近食べてないな、ほしいなあ、なんて思っちゃったりして。何度見ても楽しい絵だし、いつか「あの時代の観光地はこんな感じだったんだよ」という資料になるんじゃないか、というくらいだと思った。
●担当編集
てみやげというものには郷愁があって、思い入れを持っている人も多いと思うので、いろんなてみやげが出てくると、ちば先生が「みすず飴」を懐かしがられたように、「これ知ってる」とか、「これ食べてみたい」といった感情が読者の中に湧くんじゃないかと思うんですよね。
●ちば先生
熊の彫り物とか、こけしとか、そんなてみやげはどこのご家庭にも必ずあるじゃないですか。そういうものがいっぱい、捨てられないでたまっているというラストの表現も、懐かしくておもしろかったなあ。
 

『食い物の食い物』すいせい(東京都・20歳)

●担当編集
作者は20歳の韓国の方で、日本に来てまだ1年くらいです。いまは漫画学校に通っていて、これが3度目のちば賞への応募になります。ちなみに前回の『解(かい)+巧(たくみ)』という作品は、2次選考落ちという結果でした。最後に不思議な謎が残るような、SFやホラーなどが好きで、絵でしか表現できないもの、漫画の中でしか表現できない“驚き”みたいなものを描きたい、という方です。いままでは20ページくらいのあまりハッキリした事件の起きない、短めのお話を描いてこられたのですが、この作品できちんと物語を完結させられるようになった、という感じです。私はとにかくすごく魅了してくれる絵を描く方だな、と思っています。
●ちば先生
セリフなんかはちゃんと自分で、日本語で書いているのかな?
●担当編集
はい。私が少し直すくらいですね。プロットも日本語で書いています。日本語は、すごく頑張って勉強しているみたいです。
●ちば先生
ゾッとする、猟奇的な話だよね。この人の目標は、きっと読者をゾッとさせる、ゾクッとさせることだろうから、その意味では成功してる。非常にわかりやすくて、演出も上手い。
●担当編集
コマの割り方や演出は、すごく上手だと思います。お話自体は、それほど変わっているとは思わなかったのですが……。
●ちば先生
漫画で大事なのは、演出だと思うんですよ。もちろん、絵も大事だけどね。韓国って、映画やドラマ、映像での演出がすごく上手いですよね。でも、コマの割り方、間の取り方は、日本独特のものなのか、韓国の方にはすごく難しいみたいです。でもこの人は、それがちゃんとできていて、演出も上手なタイプ。楽しみだなーと思います。ただ、もうちょっと“タメ”はほしかったかな。わかりづらくなってはいけないんだけど、描くのをもうちょっと我慢したらいいのに、私ならあそこは3コマも描かないな、と思うところはありました。それと最後、リキがアクセサリを持って訪ねて来る場面。あれもちょっとわかりづらいところがあった。けどあの場面に関しては、気がつくと、すごくゾッとしていた。だからこそリキの正体が一体何なのか、もう少し読者が納得できる答えが見たかったな……。
●編集部員・A
リキが一体何者か、作者とは話さなかったの?
●担当編集
いや、魚の怨霊のようなものかと思ったんですが……。それがわかるようなエピソードは、結局入れられませんでしたね。
●モーニング編集長・島田
魚の怨霊って聞くと、ちょっと意外性がないかな。
●ちば先生
魚の怨霊だったら、例えば食べる物を魚でないものに変えるとか、それを伝えるための工夫はいろいろできたんじゃないのかな。この人の目標、怖いものを描きたい、というのは充分できていると思うけど、やっぱりただ怖がらせるだけじゃなくて、読者を納得させられるところも、ちゃんとほしかったね。
 

『この大空の翔び方』松谷寛大(静岡県・19歳)

●担当編集
昨年末に、初めて描いたという原稿を持ち込みで受けました。キャラクターに好感が持てましたし、印象的な場面もあったのですが、50ページと長かったので、始めはその作品を手直しして、今回のちば賞に出そうとしていたんです。ただ打ち合わせをするなかで、できるだけ主人公に現在進行形で動いてほしい、などとこちらがいろいろリクエストをしていたら、「では、新しく話を作り直します!」と。
●ちば先生
じゃあ、これはほとんど描き直したの?
●担当編集
はい。結局、全部描き直しました。
●ちば先生
でも、話の骨子は一緒なのかな?
●担当編集
そうですね。キャラクターも一緒です。でも、登場人物を絞ったり、色々と手は入れています。前の作品では、父親が死んだところから話が始まっていて、『画家が死んだ』と似た形の作品でした。父が遺した者や、父を知る人と話をして、ルタが父の真意を知るという。ちば先生が選評で、テーマがぼやけてしまったね、と指摘されていた最後のセリフは、実は作者も最後まで迷っていたところです。わかりづらいところはあると思いますが、時間が少ないなかで本当に頑張って原稿を描き上げてくれましたし、1作目よりも格段によくなっていると思います。これがまだ2作目ですし、私はとても期待している新人さんです。
●モーニング編集長・島田
学生? 19歳? 若いね!
●担当編集
はい。先日、20歳になったそうです。でも、いま大学は休学中です。漫画を描くのに専念したいからと……。
●編集部員・B
不器用だね(笑)
●一同
(笑)
●ちば先生
とてもいい話だな、と思います。科学者が、自分は世界を滅ぼす手助けをしてしまうのではないか、という疑問を抱きながら研究をしている。ましてや、自分が長いこと研究していたものが、実際に兵器になってしまったり……。そういう思いをしている科学者は、世の中にはたくさんいると思う。それをテーマにしている話ですよね。ルタは、父親が兵器の開発に協力をしたというので、すごく悩んでいる。それによって、たくさんの人が死んでしまうかもしれないと。でも、父親が開発した兵器が実際に使われてしまったのかどうかが、ちょっとわかりづらかった。それは、この話のテーマに関わる大事な部分だけに、残念だったな。でもね、父親が遺した研究を、自分は人間のために生かすんだ、というラストは、とてもホッとさせるよね。ちょっと曖昧なところはあったけど、でもいいかなーと(笑)
●一同
(笑)
●ちば先生
もうちょっとわかりやすくできたら、もっとよかったんだけどね。ラスト、出世がどうこうという話が出てくるけれど、そんなのはどうでもよくって。ルタが、父親の後を追いかけて科学に携わってきて、そしてそれを後悔しなくて本当によかった! というラストにするためには、欲張って出世云々というエピソードを入れないほうが、わかりやすかったのにな、と思います。
●事務局長・宮本
絵柄についてはどう思われましたか?
●ちば先生
絵は、とっても明るくて、好感が持てるキャラクターを描けているなと思います。お父さんのやつれ方にしても、自分の地位に執着する長官のオヤジにしても、よく描けているし。走り描きをしているな、とは思いますけどね。一コマ一コマ、力を入れて、感情を込めては、描いてはいない。時間に追われて描いている線だな、と。けれど、それにしては上手く描けているよね。

    トップページへ戻る

    第64回ちば賞はただいま募集中!