最終選考会の議事録をノーカット完全収録!

ちばてつや賞一般部門の最終選考はちばてつや先生をお迎えして行われます。
時間をかけて一作一作丁寧に読んでくださったちば先生のコメントを聞き、その上で作品の担当編集は、自分の担当作品をちば先生にアピールします。
そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問。活発な議論が交わされます。

 

『黒い紋章』猫田ゆかり(愛知県・28歳)

●ちば先生
キャラクターもとても綺麗にうまく描いているし、背景なんかもうまいし、問題はほとんどないんですけど。惜しいなと思うのは、上層部の人のキャラクターが、ただスラッとしてて髪の毛が白いだけでしょう? 瑣末なことかもしれないけれど、漫画……特に読みきりの作品の場合は、読者は初めてそのキャラクターに出会うんですよ。だから、一目見て、「あ、この人はベテランのクセのある元刑事だったんだろうな」とか、そういうのがわかるようにしてほしいわけ。皆が皆、同じ型で作ったような人間に見えるんですよね。そこがちょっともったいなかったなあ。
●担当編集
そうですね。人間の表情自体が、ちょっと人形っぽいというか硬い感じもありますね。いい話を描いているんですけど、そのあたりの感情が出ている描写が、うまく表現しきれてはいないかもしれないですね。ちば先生に伺いたいんですが、人間の表情を描く上でのコツみたいなものはありますか?
●ちば先生
私がよく(自分が学校で教えている)学生に言うことは、シルエットでもわかるような人間を描きなさいということですね。要するに、背がたかーい人、ひくーい人、太った人、痩せた人とかね。着ているもの、髪型とか全然わからない影の状態で、シルエットだけでも見分けられるような人物……。この作品の主要人物の二人は、髪型がちょっと違うだけでシルエットはほとんど同じでしょう? どちらも、スラッとしててイケメンでね。怖い顔の人として描かれているんだけど、あんまり怖い顔に見えないんだよね。あと、お話にしても、人相の悪い、極端なことを言うとやくざと見間違えるくらい目つきの悪い奴がいて、そいつがいつの間にか自分の味方になっていった、っていう話にしたらもっと感動的だったと思う。
●モーニング編集長・島田
この作者だけじゃないですけど、現実の人間の顔を見て描いていない人が多い気がしますね。漫画をお手本にして描いた漫画みたいな。
●事務局長・宮本
わりと同じ調子で最後まで描いてますよね。アクセントのきいたコマがあまりないというか。一定の画力で描いているというか。
●ちば先生
そうですね、抑揚があまりないのかな。この話では、ここをみせたい! というものがなくて、こういうお話です、というものをずーっと描いてしまった感じがしますね。
●モーニング編集長・島田
新人賞って、わりとそういうタイプの人が多いんですよ。こういう絵柄で画面の人って、大抵、つまらないんですけど。だからこの作品をパッと見たとき、うまいけどつまらないんだろうなって思って読んだら、面白かったっていう(笑)。こういう絵のわりに、意外と話がちゃんとしてるわ、って。そういうとこでこの人、今回、少し得してるかもしれないですね(笑)
●事務局長・宮本
ちなみにこの方はボーイズラブとか好きなんですか?
●担当編集
いや、そうでもないですね。確かに絵柄は、『デスノート』の作者やその辺りの影響を受けていて、多分、かっこいい男の人を描きたいっていう願望はあるんでしょうけど。でも、本人自体は特に、BLが好きだとかそういうわけでもなくて、ただ、刑事の熱いドラマが好きな方なんですけど。あと、ここまで絵柄が平面な印象になってしまったのは、この方はネームからパソコンを使って描いているんですよ。それが少し影響しているのかもしれないです。絵柄とかの表現がもうちょっと多彩になってくると、さらにいいものを描けるんじゃないかな、という気はしているんですけどね。
 

『お父さんは○○』赤堀隆史(東京都・23歳)

●担当編集
23歳の男の子で、大学在学中からずっと漫画を描いています。この作品を描くまでは、真面目なストーリーの作品を作ろうとされていたのですがなかなか奮わず、今回はガラリと作風を変えてみたそうです。お父さんのキャラクターとこまっしゃくれた男の子の掛け合いというのが読んだら結構面白くて。それでちば賞に出して、この最終選考に至るという感じです。
●ちば先生
この作品、二本ありますが私は一本目がとても面白かった。ただ、二本目はあんまり…面白くなかったねえ。一本目のこの親子二人の問答が面白いよね。シリーズで読んでみたいと思わされるような、世捨て人みたいな男の考え方……「世の中にはお父さんみたいな人がたくさんいるんだ」って父親の台詞であるんだけど、もしかしたら本当にこういう人はいるんじゃないかなって(笑)。目に見えないところで、誰からも褒められず仕事を頑張っている人が世の中にたくさんいるんだよ、っていうところに結びついていくのかなって。そういう期待感がちょっとあったんだけど。社会風刺のような話を描いていってくれるといいね。実在するそういった人たちが読んで励みになるようなお話をね。
●担当編集
もっとここを伸ばしたらいいな、っていう部分はありますか?
●ちば先生
お母さんが出てくるでしょう。このお母さんを、もうちょっと見たかったかな。この人の言いたいことが、途中で切れてしまっているような印象を受けたんで。あと、二本目で子供がお父さんを叩いているシーン、あそこはあんまり好きじゃないなあ。
●一同
(笑)
●ちば先生
読者から見るとダメな親父なんだけど、子供は「本当にお父さんってすごいんだなあ」って誤魔化されてしまっているほうが読後感としては良かったかな。それでいて、お父さんはケツをかきながら、人間や社会の真理みたいなものを語っているという話にすると存在価値のある漫画になると思いますね。
●モーニング編集長・島田
本当に、今の世の中だったら、こういう親子がいっぱいいると思いません? 今の子供って、大人を大人と思ってないから。
●ちば先生
そういう意味ではリアルなのかもしれませんね。
●モーニング編集長・島田
逆に、普通にいそうな感じがしすぎてイマイチなのかな、と思いますね。やっぱり先生がおっしゃったみたいに、読者が「こうであって欲しい」と思うような、なかなかいそうでいない子供であるとかそういうのじゃないと、悪い意味でリアル過ぎるんだよなあ。まだどの漫画でも描かれたことはないんだけれども、確かにこういう親子はいるんだよな、っていうものを描いたらどうだろう。一種の世相ものだと思うから。世相ものっていうのは、その時代の誰も描いていないものを物凄く鋭く描かないといけないものだから。
 

『わたぐもの国』松島てゐ(島根県・26歳)

●担当編集
この作品は、応募2作目になります。なかなか詩的で文学性の高い作品だと、担当として思います。言葉の選び方にもセンスが光っていて、そういうところがこの作者の大きな売りなんじゃないかと。ただ、ラストの後味がそんなに良くないというか、救いのない締めくくり方になっているので、その点をちば先生がどう思われたのかが気になります。
●ちば先生
虐待の雰囲気っていうのは、リアルに伝わってくるし、この女の子の気持ちを考えたら、怖いだろうなあって。言葉を選び間違えたら、母親の表情が急に変わって服を破いたり、子供の目から見た怖さがこちらに伝わってくるんですよ。だけど、親が何故そういう親になってしまったのかという経緯にはまったく触れられてないし、現実だけがただ流れていて。主要な登場人物が二人いるんだけど、一人は養護施設に入って子供の心を取り戻すんだけど、もう一人はこの生活のままでしょう?
●担当編集
そうなんです。ずっと自宅にいるから、母親から逃れることができないまま人生が続いていくという……。
●ちば先生
救いのないまま話が終わってしまっているんですよね。
●担当編集
やはり、読後感は良くしたほうがいいんでしょうか?
●ちば先生
いや、読後感を良くするとかそういうんでもないんですよね。こういう現実があるんだよねっていうのを提議する作品であるならば、それでもいいの。だけどその場合にだって、親は別になりたくてそういう親になるわけじゃないんで、そこを描かないと。親も被害者なんですよ。きっと、親のその親、育ってきた家庭でこの母親がいじめにあっていたとかね。そういうことが原因でやむにやまれず自分も、自分の子供をいじめてしまう、というその原因をちょっとでもいいから描いていれば、また違ってくると思います。繰り返されてしまうこの世相の悲しさ、というようなところにも触れてほしかったね。
●担当編集
確かに、この作品ですと、お母さんをただの悪者にしてしまった感じがありますね。悪者、と言いますか、怖い一面だけにスポットをあてて描いてしまった感はあります。
●ちば先生
このお母さんも、娘時代にこういうことがあったんだろうなあっていうことを、におわせるだけでもいいから。そうすると、これはひとつの問題提起ですよね。こういったことは繰り返されてしまうんだなっていう。この女の子も、なんとかわたぐもの国に逃げようとしているけども、この子が母親になったらまたこれを繰り返してしまうんだろうな、って問題提起できると思うんです。怖いな、どうしてこういうことが起こるんだろうって。そこがちょっと惜しかったかな。
●担当編集
作者に伝えたいと思います。ありがとうございます。
 

『この素晴らしくない』仲川はる(北海道・33歳)

●担当編集
作者は33歳で、漫画を描き始めて6,7年になります。今回が5,6本目の作品になるそうです。ちば賞には、もう4回目の応募になりますが、最終選考まで残ったのは今回初めてです。前回のちば賞で2次選考で惜しくも落ちてしまったんですが、そのときに担当についたという経緯です。担当になりたいと思ったきっかけでもあるんですけど、人物の絵も内面もそうなんですが、この人独特のキャラクターが作れるなあというところに惹かれました。今作は、前作に比べて作者なりに新しいことにトライしているなというのが伝わってきたので、今回も応募してみました。
●ちば先生
先ほどの『わたぐもの国』とはちょっと違って、希望が見えるラストではあるんだけど、この二人が何故そんなふうに気持ちが変化したのかなっていうきっかけのエピソードがないんですよね。私が気がつかなかったのかもしれないけど。それがちょっと残念だったかな。
●担当編集
先生が講評に書いてくださっているように、構図やコマの運び方がまだ確かにぎこちないんですよね。
●ちば先生
いい絵ですよ。とても味のある絵を描いているし、キャラクターもとても味のある顔を描いています。だけど、ちょっとコマの割り方が読者を迷わせてしまうふうになっているね。私は、漫画というのは読者をなるべく迷わさないことが大切だと思うんです。(読者にとっては)初めて出会うキャラクターなんだから。
●担当編集
そうですね。
●ちば先生
この人が主人公なんだろうな、こういうお話なんだろうなって、迷わずにすーっと入ってもらうためには、どうしたらいいかなって、プロの漫画家は皆苦しむわけですよね。年齢や性別関係なく、字もまだ読めないような小さな子供が見ても、どの主人公が何をしようとしているんだってことがフッとわかるように描かなければいけないと思うんですよ。そういうところが伝わりやすいから、漫画というのは皆に親しまれて海外でも読まれてきたと思うんですね。わかりやすい、その世界にスッと入りやすい、しかもその中に感動があったり笑いがあったりするんですよ。それが、迷ったりさせてしまうと、もうそこに感動も笑いもなくなってしまうわけです。これはどういう意味かな、これはこの人とどういう関係かなって、読み砕かないといけないから。
●担当編集
なるほど、そうですね。
●ちば先生
たとえばこの作品ではみちこさんて人が出てくるんだけど、他にもよく似た顔の人が出てくるんだよね。じっくり見れば、髪形が違ってたりほくろがあったりするんで別人だってことがわかるんですけどね。でも、顔のタイプが非常によく似ているんで、読者は迷うわけですよ。あと、この台詞は誰が話してるのかな、どっちの台詞なのかな、って迷わせるコマがあるね。
●担当編集
はい。
●ちば先生
これに関して言えば、この作者だけじゃなくて、最近迷わせるものがすごく多いんですよね。今の時代はそういうのが格好いいのかな? 吹き出しに、“しっぽ”がないんですよ。誰が話しているのかわからないっていう漫画が最近、多いですね。流行ですか? 今回の応募作でも何本かがそういうものがあったんですけど。
●モーニング編集長・島田
かなり昔からそういう傾向はありますね。
●編集部員・A
どちらかというと女性の作家のほうがそういう描き方をされる方は多い気がします。吹き出しにしっぽがない作品が多いような印象はあります。
●ちば先生
でも、それでも誰が話しているのかスッとわかったらすごいよね。要するに、この台詞は絶対にコイツしかしゃべらないんだっていう描き方がされていれば、全然いいんだけど。どっちがしゃべっていてもおかしくないような台詞が羅列されていると、いちいち読者は立ち止まってしまってそのストーリーにスッと入っていけないんだよね。前のページを読み返したりして、物語に入っていけないことが多いんじゃないかなあ。そういう意味で、残念だなという作品が何本かありました。それがただの私の好みの話じゃなくて、編集の皆さんもそう思われるんであれば、そこは今後気をつけていったほうがいいのかもしれない。まあでも結局は、しっぽがなくても誰が話したかわかるように描けよ、って、そういう話になってくるんですけどね(笑)
●担当編集
そうですね(笑)。それができていればキャラクターができているってことになりますもんね。
●モーニング編集長・島田
そういう作品を描いている人って、しっぽがなくてもわかる人たちに読んでほしいんだよね。わかる人たちだけに読んでほしいんだよ。わかる人たち同士の間で、わかるでしょ?って、盛り上がりたいんだよ。でもそれをやっていくと、どんどん限られた読者だけの作品になっていってしまうからね。
●担当編集
漫画描こうっていうくらいの人たちなわけですから、相当な“漫画読み”というか、漫画上級者なわけですもんねえ。
●モーニング編集長・島田
でも、「モーニング」っていうのは漫画読みに向けての雑誌じゃなくて、そうじゃない人たちにも読んでもらいたい雑誌だから、漫画読みだけが喜ぶような作品ばかりだと困っちゃうけど。
●ちば先生
この作品の話に戻りますけど、一つ一つの絵を見ると、とてもたくさんの情報が入っていて、いい絵だし、夕日の場面とか、この人は非常に心にしみるような絵を描く人だなあと思って。
●担当編集
絵は本当に良くなりました。
●ちば先生
絵は良くなっているんだから、コマの割り方と演出に気を配って、ね。カメラは一台しかない、読者の目は一台しかない、その上で表現してほしい。どうしても動かしたいときは、上から俯瞰して位置関係を見せておいて逆を向かせるとか。あるいは、ドーンとアップを見せておいて、とか、そういうテクニックはあるんだけど。どうしても新人のうちはわからないから、それをやらないで、自分の思うがままにやってしまうんだろうけど。それはともかく、カメラをできるだけ動かさないようにするといいんじゃないかなと思いますね。
 

『ダディ』今純(東京都・31歳)

●事務局長・宮本
私が担当です。『裸の少年』という海パン一丁で外出する男の話で、2年前のちば賞で準入選を受賞した方です。画力が上がっている一方で、絵が硬くなっている点が気になっています。ただ、今回の応募作に関しては、初老の男性を描く上で合っているのかなと。星空のシーンなど、とにかく精魂込めて描いている印象でした。
●ちば先生
あの星空のページはすごかったですね。この作品は、中年の男性の悲哀をうまく短いページ数で描いていますね。出てってしまった家族を振り返り、付けまつげや首輪やコーヒーを買ってきて。けど、そういうことをする人だったら家族も戻ってきそうだよね(笑)
●モーニング編集長・島田
確かに(笑)。いや、けどここまで変だったらどうかな(笑)
●ちば先生
わざわざ用意してくれた、豆から挽いて淹れるこだわりのコーヒーくらい普通は一口くらい飲めるでしょ。なのに主人公は飲まない。そういうことに気が回らないくらい心にゆとりのない男の話ですよね。仕事に追われて家族のことを振り向けなかった人は沢山いる中で、とても身につまされる内容ですよ。中年の人が共感する部分もあり、そういう意味でもうまくまとまっている短編ですね。ただ、僕は、最後のページはいらなかったんじゃないかなと。主人公が遠吠えしているところで終わってもOKだったんじゃないかな。
●事務局長・宮本
オチをつけたかったんだと思います。
●ちば先生
その塩梅は確かに人それぞれだよね。不審者を見るような他人の目線を入れた方がいいと感じる人もいるでしょうね。
●事務局長・宮本
あの、主人公が付けまつげをしてから、とてもかわいらしい印象になったなと思ったのですが(笑)
●ちば先生
あの部分は、もっと付けまつげを大げさに描いてもいいんじゃないかなと思ったけど、どうかな。
●事務局長・宮本
作者が前作は子供っぽい話を描いてしまったなという意識があって、描写を控えめにしたのかもしれません。
●ちば先生
娘がひっぱたかれて主人公を憎々しげに睨みつけるアップの表情はうまいよね。
●モーニング編集長・島田
この人、間の取り方がうまいですよね。けど、そういうことやリズムの強弱っていうのは、一番天性のもので、もう、持っている人は持ってるし、ない人はまったくないんじゃないかな。同じアイディアでも、そういう演出如何で、面白く仕上げる人とまったくの駄作になってしまう人がいますもんね。
●ちば先生
漫画っていうのは、同じ筋書きでも5人に描かせれば5通りの演出になって、まったく別の作品になるんですよ。面白くできる人っていうのは、間の取り方と、コマの割り方、めくりの使い方、どこでアップで見せるか等々、というのが上手。例えば、「間」に関して言うと、まったくストーリーと関係ないのに、ポツンとつけまつげが落ちているコマがあったとする。そういうのがあると、なんてことのない話なのに、とても心に染みるものになる。編集長は天性のものって言ったけど、「いい間の作品」を見れば分かってくると思うよ。ストーリーに関係ないのになんでここに入れるのだろうか、ああこれが間なんだってね。
 

『通夜の花火』濱屋千裕(千葉県・22歳)

●編集部員・B
美大出身で好きな映画は『エイリアン』シリーズ。これからはパーソナルな物語だけではなくギャグにもチャレンジしたいとのこと。僕は、この作品を読んだら田舎の祖父母に会いたくなりました。人の生き死にって本当に切なくておかしいなあと。この作者の淡々としたタッチにぐっときました。
●ちば先生
人が亡くなったときの話を、うまく描いているね。どうってことないお通夜の晩、親戚達のどうってことない会話。そして、突然泣き出す人がいたり、かと思うと、その服いいねとか呑気な話がある。人が死んでいるのに、こういう話もしてしまうっていうのがリアルだった。お通夜ってみんなが始終しんみりしんみりしている訳ではない。中には久しぶりの再会を懐かしんだりしてね。そんな人間模様を描いている作品ですね。主人公・春香も最初は「おじいちゃん……!」という気持ちなのに、いつの間にか周囲の人を観察している。あと、弔辞を孫である彼女が読むことになるという設定も、親戚関係の煩わしさをきちんと描けているね。祖父は生前、春香を花火を観に帰っておいでと誘っているんだけど、それは果たされなかったのかな。ラストのシーンは、祖父を思いながら涙がこみ上げていて、さらに街の灯りが結露に反射していることで、花火に見立てている。すごくいい短編ですよ。この作品自体が春香の「弔辞」なんだよね。思い出が散りばめられていて、とてもおしゃれでいい作品だね。
●事務局長・宮本
こちらもフキダシにシッポがないですね。
●ちば先生
そうなんですよ。僕も、誰のセリフか分からない箇所が少しあったかな。あと、主人公の年齢設定なんだけど、中学生とかでもよかったかもね。そうすると、この話はもっとしんみりする。それと、ラストの花火はもっと大きく描いて欲しかった。おそらく作者はこの花火のシーンを描きたかったんだと思うんだよね。だからこそもっと思いきって、大きく描けるとより感動的になったかな。
 

『千客半来』中島トン子(東京都・26歳)

●編集部員・C
この作品は、キャラクターがかなりデフォルメがきいていて、それ以外の料理や背景のタッチはかなりリアルに描かれています。そのギャップの効果を含めてお話を伺えればと思います。
●ちば先生
ギャグのような仕上がりになっているんだけど、シリアスな話もあるんですよね。例えば、バカップルが登場する話は、全体としてはとてもいいストーリーなんだよね。だけど、キャラの絵を遊び過ぎちゃっているというのが私の感想かな。完全なギャグ漫画だったらいいけど、料理の絵もきっちり描けているし、もうちょっとリアルにした方が、この内容はうまく伝わってくると思いますよ。キャラクターと背景等のタッチを敢えて変えて描くことは、味になる場合と壊しちゃっている場合があるんだよね。
●編集部員・C
なるほど。今回の話はギャップがありすぎ……でしょうか(笑)
●ちば先生
う〜ん、狙い過ぎかなあ。あくまで私の感想ですけど。料理を作っているところでカップルがふざけ合うのは、興ざめするからこのタッチでかわいく描いてしまったんだろうけど、ちょっと難しかったかなあ。
 

『ソニヤ』成瀬貴也(東京都・25歳)

●担当編集
漫画を描きだしてから4作目の作品です。登場人物達がとても優しく、ひねくれていない感じが好印象かなと思います。
●ちば先生
主人公の女の子や、男の子も、キャラが明るく健やかで健康的ですね。
●担当編集
突飛な設定の連続なんですが、作者がやりたいことはぶれていないんですよね。まだ稚拙だけど、人間を描き出そうとしていることは評価できるんじゃないかと。
●ちば先生
とてもいい話でしたよ。ただ、主人公が大女に対して驚いているけれど、例えば、ソニヤの言葉もない表情を描いた一コマが入っている等の演出があった方がよかったかな。それくらいのリアクションがないと、読み手は「作り話」として読んでしまう。どんな奇抜な話でも読者が共感できるよう心を配らないとね。せっかく幻想的で、心温まる話なのに、作品の世界から読者が引いて読んでしまうことになりかねない。
●モーニング編集長・島田
ソニヤが対面する前に、大女が登場していて読者に見せちゃっているのが問題なのかもしれませんね。
●ちば先生
そっかそっか。それが逆だったのかな。この時代の風景もきちんと描こうとしているしキャラもとてもいい。ただ、こういう出会いの演出とかが雑になってしまっているから、共感しながら入っていきにくいんですよね。そうすると、描かれている場面に対して、驚きや感動を抱きにくくなってしまうのが残念だった。とても大切なことなんですが、もっと「読者の目」というのを意識して欲しい。誰のセリフなのか読みにくかったり、位置関係が分からなかったりと、初めて読む人がどう感じるのかを自分で想像してみる。作り手は、「作者の目」を持ちながらも、「読者の目」、つまり、自分が読者になって初読したときにどう感じるのかも意識するといいんですよね。だけど、この主人公が、ラストでしわしわになってしまった大女に水を飲ませてあげたりしていて、優しいお話を描ける人だと思うので、大事に育ててあげてくださいね。
 

『牛丼』黄金太郎(東京・33歳)

●編集部員・C
この方は韓国の人で、漫画家になる夢を叶えるために日本にやってきたという経歴を持つ男性です。
●ちば先生
じゃあ、日本語はぺらぺらなんですね?
●編集部員・C
ぺらぺら、まではいかないですが、かなり話せるようです。打ち合わせには支障がないレベルで話せますね。
●ちば先生
台詞なんかも自分で?
●編集部員・C
日本語が少しわかりづらいところなんかは新人賞に出す前に少し直させていただいて……。この作品を受け取って読んだ段階で、表現の部分に問題があるのでおそらく雑誌に載せることはできないだろう、とは思っていました。ただ、作者の能力的には、力を持っていると感じたのでちば賞に応募したんです。
●ちば先生
そうですね。この作者は、キャラクターの描き分け、コマの割り方、それからストーリーテイラーというか、物語の流れをうまく演出していく力というのはとてもある人だと思うし、これからいい作家になっていくんじゃないかと思います。
●編集部員・C
力強いものを描ける作家になると思います。今見せてもらっているネームも、かなりスケールの大きな話です。最近の新人賞の応募作って、地に足のついたというか、作者の半径数メートル以内という作品が多い印象なんです。しかし、この壮大なスケール感で話を考えられるというのは、作者の大きな武器になると思います。
●ちば先生
そうですね、力がある人だと思います。
 

『カンカラ親子』栗原陽平(東京都・27歳)

●担当編集
今はアシスタントに入ったりしながら作品を描いています。非常にまっすぐな方で、登場するキャラクターに似ている部分もあったりします(笑)。ただ、まっすぐ過ぎて、人間の奥行きや深さみたいな部分の描写力が足りないのかなと。愛おしいキャラを作れる方なので、ぜひその点含めご意見をお願い致します。
●ちば先生
とてもいいストーリーだよね。ただ、この方だけではなく他の方にも当てはまるんだけど、「描き込み」が多くて、作品の焦点がぼやけてしまうんだよね。新人のうちは締切も特になくて、時間がありあまっているから、不安で不安で描き込みが多くなってしまう。そうすると、読んでいる人は、どこを見ていいのか、的が絞れない。漫画は読むものじゃなく眺めるもの。さーっと眺めて引っ掛らずに読めるべきじゃないかな。大きな絵ならいいけど、そうではないシーンの絵が細かく描き込まれていると、読者を疲弊させてしまうよね。今回の作品で大事なキャラは、父親と三線を教えるおじちゃんでしょ。その二人に焦点をあてて、あとは、大げさに言うと、棒人間でもいい。この方は、他のキャラのシワまで丁寧に描いていて、みんなが主人公になっちゃっている。脇キャラの人生までもが気になるくらいクセのある顔をしていたりと、父親やおじちゃんを目立たせる上で、妨げになっているんだよね。
●担当編集
なるほど。
●ちば先生
それと、強いて言えば、父娘がもうスタートから仲が悪いけど、そうではなく、衝突する「変化」も描けるとよかったかな。今の設定だと、しょっちゅうケンカしているのに、何で今更?という疑問も抱いてしまう。例えば、父親が耐えて耐えつづけた上で娘とぶつかって爆発したという流れにすると、ドラマの起伏が描けたと思う。あともったいないなと思ったのは、普段から娘が父親の三線の音を聴いてしまっているところ。もしお店に行って初めて娘が父の三線を聴くという流れだったら、より感動が伝わるよね。おそらく作者はそういうことを描きたかったんだろうけど、ちょっと演出が足りてなかったかな。
 

『ASTRONAUTS』原田尚美(東京都・27歳)

●担当編集
以前描いた作品と比較して、応募作は、絵が格段にうまくなっていて、やわらかさも出ている印象があり、作者の成長する速度に可能性をとても感じています。確かに、わかりにくい部分はあるのですが、人の切なさや苦しさが、キャラの表情を見た時にストレートに伝わってくる点は、非常に素晴らしいなと思っています。
●ちば先生
完成度は一番高いですね。惜しむらくは、タイムトラベルの話だから、未来と現在を行き来しているんだけど、もう少しそこを上手に描けるとよかったかな。とても難しい演出なんだけど、そこが描けないとダメなんだよね。それと、未来で本人同士が触れ合ったら消えてしまうという説明はあったけど、一生懸命理解しないと読みにくかったり、一騎が未来で妹や両親とすれ違うシーンも読み取りづらかったりしたのはもったいなかったよね。
●担当編集
確かに、その場面をサラッと描いていて、情報不足な感じはあったと思います。
●ちば先生
妹の絵からは一騎と血のつながりのあるキャラだということは伝わってはくるんだけどね。それと、主人公・信也のラストの表情は非常によかった。けれど、彼がどういう劣等感を抱いているのか、例えばスポーツが全然ダメとか勉強ができないとか、カット1つでいいから入っていた方がよかったかな。彼がどんな幼少期を過ごしてきたから、こんな心が病んでしまった少年になってしまったのか情報が欲しい。そうすると、ずば抜けて優等生な一騎との比較も、より効果的だったよね。あと、もう一つ、現在の設定が2080年前後にしてあるけれど、いっそ2012年にしてしまってもよかったかもね。結構先の時代なのに、教室やブランコは今とあまり変わっていないとか、読者は違和感を抱いてしまう。例えば2080年でいくならば、今を生きている読み手が、本当に世界はこんな未来になっているんだろうなと思えるように、説得力をもってだまして欲しい。それと、もったいないなと思ったのが「間」の部分。タイムトラベルに突き落とすシーンのキャラの心理や、未来の信也が過去の信也に会う直前のドキドキ感をじっくり「間」を含めて丁寧に描ければ、もっともっと盛り上げることができた。そういうことをより意識して取り組んでいけば、とてもいい作家になれると思いますよ。

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