最終選考会の議事録をノーカット完全収録!

ちばてつや賞一般部門の最終選考はちばてつや先生をお迎えして行われます。
時間をかけて一作一作丁寧に読んでくださったちば先生のコメントを聞き、その上で作品の担当編集は、自分の担当作品をちば先生にアピールします。
そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問。活発な議論が交わされます。

 

『うらぼんへ』坪山かえる(栃木県・29歳)

●担当編集
この方は、漫画を描くのは2作目です。絵が描くことが本当にお好きで、描き込みが多くなってしまい、逆に読みづらくなっているのがもったいなかったなと。
●ちば先生
雰囲気のいいキャラが沢山出ていて、作者の世界観もとてもよかった。ちょっと古くなった畳とかドブの臭い、草の香りとかを感じて日本の情景が盛り込まれている。描かないっていうのはすごく怖いんですよ。だけど空白を上手く使って、まずは見やすくすることが大切だね。畳の線も畑の草一本一本も全部描いちゃっている。これは本当にもったいないなあ。
●モーニング・ツー編集長・田渕
主線が細いからテクスチャーに頼ってしまうのかもしれませんね。
●ちば先生
マジックでも鉛筆でもGペンでも、自分の描きたい世界に合っているなら本当は道具は何でもいいんですよね。だけどこの方には、ミリペンではなく、Gペンを勧めたい。ゴリッと太い線や細い線を使い分けるようになるといいね。
●モーニング編集長・島田
実は漫画を一番最初に描く時に、道具の選び方が重要で基本はきちっと押さえた方がいいのかも。線のニュアンスっていうのを初めから出すのは難しいからな。それとこの人の場合、読み辛いコマ組みになっている。編集者って一番初めからちゃんと読むけど、まずはサラッと目を通した上で打ち合わせした方がいいのかもな。
●ちば先生
例えば字がやっと読めるようになったこどもでも、どういう状況なのかが分かるように描く。余分なことは描かない。とても根気がある人だし、漫画が好きな気持ちはこの人の財産だから、それを意識していけば飛躍的に伸びるかもしれないね。
 

『写ってやろうか』森一駅(大阪府・22歳)

●担当編集
この方は今アシスタントをしていて、掲載歴も少しあります。
●ちば先生
読ませ方というか、漫画の「めくり」(左ページ最終コマのこと。次ページへ期待を持たせる内容を描くと効果的)を上手く使ったり達者な人だと思いますね。ただちょっと聞きたいんだけど、真琴はなぜカメラに名前をつけたり、携帯で写真を撮る洋一の横で吐いたりしたのかな。
●担当編集
カメラへのこだわりがあり、だからこそお手軽な携帯の写真に嫌悪感を抱いているキャラを作りたかったのだと思います。ただ、作者はカメラよりも自然物や森などへの思い入れが強いらしく、この題材ならばカメラも同じ位愛着を持って描いてくれればなと(笑)
●ちば先生
なるほど。確かにシミのついた木箱や森などすごく上手く描いている。そういう一種の表現力を持っている人ですね。ただ、あくまで僕自身の話だけど、やはりさっき言ったような読み手が推し量らなくてはいけない部分が多くて、何か腑に落ちず不安定なまま読んでしまうのはちょっとマイナスだったかな。写メを嫌がる中に色んなメッセージが込められているんだろうけど伝わりづらかった。とても惜しい!って感じだね。
 

『加速してFUTURE』ガタピシ豆太郎(千葉県・28歳)

●担当編集
中学校の元教師の方です。応募作は97ページとかなり長いのですが、キャラはのびのび描けているなと。
●ちば先生
確かにページは長いんだけど、そんなに無駄はない。生徒達、校長先生、学校の風景……ちょっと粗っぽい絵だけど、さりげない表情や風景から感じた雰囲気すごくよかった。ただ、読み切りならば、テーマをピシッと決めて、制作意図を1行か2行でまとめて、簡単なシナリオくらいは作って取り組んでもいいかも。それに対して関わりのない人間やエピソードは削り、シンプルにして、深く掘り下げて描いて欲しいですね。
●担当編集
そうなんです。ほとんど漫画を描いたことがない方なので、オチがつくまで描き続けた結果このページ数になってしまったようなんです(笑)。ただ、それでも3ヵ月程度しか掛かっていないらしく、驚きました。ご本人は絵に関して、読者に受け入れられるのかと不安を感じているのですが、いかがでしょうか。
●モーニング・ツー編集長・田渕
確かに、表情も豊かだしシャープさもあるけど親しみやすさが足りないのかも。
●ちば先生
いや、主人公は、素直ないわゆるニュートラルな主人公らしい顔ですよ。それに、所々凄みのある表情を描くね。キャラの幅は持っていると思います。
●モーニング編集長・島田
ちょっと伺いたいんですが、週刊誌では読者に目をとめてもらえるようキャラの目力が必要で、そのためには単純に目を大きくするとか、そういう工夫が必要だと思うのですが、ちば先生はデビューされてから自分の絵が固まるまで、目を意識したことはありますか?
●ちば先生
私は少女漫画を描いていたから、よく目を大きくと言われていて、あんまりやると自分が気持ち悪くなっちゃうから、そこまでできなかったけど、それでも出来る範囲で精一杯はやっていましたね。ただ、少女漫画にしても少年漫画にしても目を描くときは息を止めてましたね、そのキャラになりきるために。要するに目力を出そうとしているのではなく、こいつらしい目を描こうと思っている。希望に燃えているのか、くさってんのか、すねてるのかとか、そいつの心が出る訳だから、キャラクターの気持ちになって目を描く。だから目を描く時は息を止めるというか、息を詰める。けど、それは漫画家誰でもやってるんじゃないかなと思うんですけどね。
●モーニング編集長・島田
自然に息が止まってしまうものだろうと(驚)!
●ちば先生
う〜ん、普通、さらさらさら〜っとは描けないでしょう?
●モーニング編集長・島田
なるほど(驚)
●担当編集
この方に関して、実は漫画家で元教師だった人は少ないので、今後きちんとした「教師もの」が描けるのではと思っています。
●モーニング編集長・島田
確かに、応募作からは良い先生だったんだろうなということも伺えるし、リアリティのある作品ができるかもな。
 

『WORKING DEAD』青木U平(東京都・35歳)

●モーニング編集長・島田
本日、担当編集が来られないのですが、この方は「スーパージャンプ」で読み切りを描いていて、持ち込みでの応募だったそうです。
●ちば先生
出だしはインパクトがあり、つかみは上手いですね。けど「ゾンビもの」ならばもうちょっと怖くてもよかったかもしれませんね。
●事務局長・宮本
おそらく、ライトコメディを主に描いてらっしゃるから、怖さという部分の演出はあまり念頭になかったのかもしれませんね。
●ちば先生
キャラやコマ割りも上手いですね。サラッと描いて軽みがあるけど、それなりに面白く読ませる力がある。ただ、この内容ならば、ゾンビの不気味さや怖さ、臭いまでも感じさせるような演出にして、読者をハラハラさせたり感情を揺さぶるアプローチでも面白かったかな。
●モーニング編集長・島田
他の作品も読んだんですが、応募作同様の「軽み」があって、「モーニング」では自然読み手も一生懸命になるような作品が多いので、逆にこういうサラッと読める漫画もありかなと思いました。
●ちば先生
確かに、こういう方の立ち位置はあるかもしれませんね。
 

『七夕路線図』和田フミエ(茨城県・36歳)

●担当編集
女性誌でイラストを描いたり、ベネッセや竹書房で育児マンガを発表していたりと割とキャリアのある方です。編集長のツイッターがきっかけで、今回応募されたそうです。
●ちば先生
最初の印象では絵がギャグタッチでリアル感が欲しいなと思ったんだけど、女性の心理をすごく深く描いていますよね。読んでいて、彼女の選んだ結末にズキンと胸が痛みましたよ。苦悩や現実を捉えていて、いいドラマが描けている。余韻もズシッと重みがありますね。
●モーニング編集長・島田
私も改めて読むと、評価はできる。ただ、特にこれ位キャリアのある方には、今まで蓄積してきた自分なりの「大人の人生観」と、こういう男女の話に関しては「何で今この話なのか」という必然性みたいなものを求めたいんだよな。今この時代だからこういう話が出てきたのかとか、キャラクターの心の動きとか……つまりは「時代性」みたいなものを感じたいんだよ。人間観察眼はあると思う。けど、それと併せてその人独特の人生観とかを作品に入れ込んで欲しい。男女の在り方って、ある意味その時代がもっとも色濃く反映される。何と言うか、ああこういう女性を描く人が出てきたかみたいなものが欲しい。例えば柴門ふみさんとか安野モヨコさんとかがそうだよな。
●担当編集
なるほど。
●ちば先生
今回のお話に関しては、主人公の辛さを柔らかい絵で描いているからこそ伝わったんだと思いますよ。自分の武器である軽みのあるタッチを活かしていましたね。
 

『バイト』大谷秋人(東京都・25歳)

●担当編集
この方は漫画家になるため、大学を卒業後働いたりはせず、同人誌を出したり、絵を描いたりオブジェを作って個展を開いていたりと、精力的に活動されています。短い作品を描かれていたのですが、去年の夏から少し長めの話にチャレンジしはじめたそうです。もう既に次回作のネーム第一稿が出ているのですが、自分の方向性はまだ掴みきれていないけれど、すごく面白いものを持っているなと。応募作に関しては、よく見るとトイレのスイッチがすごく上についているとか細部へのこだわりもあり、とても可能性を感じています。
●ちば先生
今回のお話からは、「人間てこんな虚しいことをくり返している」とかそういうメッセージを感じて、禅問答や哲学的な内容だなと思いました。賛否がわかれるだろうけど、私は頭が疲れた時なんかはこういうの読みたいなあと素直に思いましたよ。
●担当編集
ページをめくらせるリズムが心地よく、読み辛さがないんですよね。最後、虚無的な展開の中で、「どうすんのこれから」というおじさんの問いかけに対して主人公が「小説の続きを読もうと思います」と答えている。個人的にはそのセリフがすごく前向きな感じがして印象深かったんですよね。この話は、ベルトコンベアーから流れてきたダイレクトメールをどんどん詰めるバイトという作者の実体験から着想を得ていて、思いつきとかではなく、現実社会との接点がちゃんとある人なんだなと感じました。かなり独特な画風なんですが、画力に関してはいかがでしょうか。
●ちば先生
画力というのはそのお話に合っているかどうかということだからね。リアルな世界ではない中で、人間の感情を表現するにはぴったり合っていましたよ。単純な絵だからこそ、すごくドキドキして読めた。
●事務局長・宮本
それと、いろんな要素が謎のままなのに、読後感がすごくいい。腑に落ちちゃうんですよね。
●ちば先生
ラストのセリフがとってもよかったんだろうね。クラゲを掴んでいる間は虚しいけれど本の続きを読めると思うと耐えられるとか希望を見出せたんだよね。
 

『くしくも同居人』ももえ秋子(大阪府・26歳)

●担当編集
この作品は、8ページと分量としてはかなり短いです。作者の方は2年くらい前から新人賞に何度か応募されていて、今まではお仕事が忙しく、なかなかまとまった時間がとれなかったのですが、これからは漫画に専念できるようです。今回の応募作の感想として「うわっ、(オチに)騙された」というのがあって、読み返せば伏線もしっかり張られていて、よく出来ているなあと感じました。
●ちば先生
こういうタイプの話は、そんなに長い分量で描く話ではないし、どうしても軽い感じにはなるんだよね。けど絵は、登場人物にしても、背景にしても、コマの割り方にしても、しっかりしたものをすでに持ってますよ。だからこの人が、どういう世界観を描いて人を驚かせたいのか、それとも感動させたいのか、それによって、変わってきますけどもね……少し思ったのは幽霊の男の人とか、アップになってるのにあんまり目に表情がない。リアルな絵なんだから、もうちょっと生きた目を描いてほしい。まあ、死んでる人なんだけど(笑)。ちょっと狙ってやってるんだろうけどもね。リアルにしすぎたら、怖いもんね。
●事務局長・宮本
この方は、どういう傾向のものを描かれてきたの?
●担当編集
こういう「一発オチもの」ではなかったです。新しいネームは、ホラー寄りの話で。必ずしもショートで、こういうオチのあるものだけでやっていきたいと考えているわけではないんです。好きなジャンルも色々あるので……その中でも不思議な話だとかSFが好きだったりするんですけど。作家ですと、山下和美さんが大好きなんだそうです。
●事務局長・宮本
そうなんだ。ちば先生がおっしゃっていたように、キャラクターが少し平板かなと思ったんだけど、絵柄とか変わる人なの?
●担当編集
これでも、初期に比べるとキャラクターが魅力的になってきたなあと思います。ただ、まだ十分ではないですが。これから集中的に描くことによって、キャラクターの魅力も増していけばと思います。
●モーニング・ツー編集長・田渕
前作は人物がただ姿勢よく立ってるだけってイメージだったけど、キャラクターに動きが出てきたよね。
●ちば先生
「来ちゃった」のところとかね。
●事務局長・宮本
1ページに8〜9コマくらい入れてて、それをあまり苦痛に感じさせないっていうのには感心しましたね。
●ちば先生
そうだね。コマが小さいわりには見やすいよね。
●モーニング・ツー編集長・田渕
でも、この話ならば、もう少しゆったり描いても大丈夫ですよね。12ページとか。
●ちば先生
うんうん。
●担当編集
数年前、初めてネームを出してきてくださったときに、無駄なコマも多かったので、コンパクトにまとめることも大事だよって言ったんですね。それを、覚えててくださって、今回、久しぶりに作品を描くにあたって物凄く削って短くまとめたものを出してくださったという……(笑)
●ちば先生
最後に、幽霊だって分かる場面では大ゴマを使ってるけどもね。ああいう大ゴマをもうちょっと使ってもいいですよね。それによって、読み手がホッとすることもある。でも基礎体力はとても持ってる人だと思うんで、自分の描きたいものを見つけて原稿に集中すれば、凄くいい作家に育つと思います。
●担当編集
ありがとうございます。
 

『猫神』青野寧々(愛媛県・17歳)

●事務局長・宮本
高校2年生のときにこの作品を描いていて、ついこの間、高校3年生になった方です。つけペンを初めて使いながら、1ヵ月で描き上げたそうです。とにかく描いている間楽しかった、と。すでに2作目も半分くらいペン入れしている状態らしいです。
●ちば先生
楽しみですねえ。こんなに若くて、こんなに画力もあって。
●事務局長・宮本
多少、絵が粗いというか筆が走っているところがあるんですが、初めてペンを持ってこの線が描けることは素直にすごいなと。
●ちば先生
画力は持っているから、もうちょっと丁寧に描いてほしいですね。あんまり丁寧を強いると、絵が死んじゃう人もいるんだよねえ……これでいいかなあ(悩)
●一同
(笑)
●ちば先生
怖さもちゃんと伝わってくるね。ただ、壷とか、大事なところはもうちょっとリアルにピシッと描くと効果的かもね。それとね、手を描くのが上手いんですよ。つまりは絵が達者なんですね。手の表情がとってもよく出てる。
●事務局長・宮本
絵が走っているところはあるんですけど、しっかり描くべきところはおさえているのかなと。例えば、猫がいなくなって帰ってきたとき、傷だらけになった猫を見て泣いている顔とか。結構、情感豊かな絵が描けるなあと思って。読みはじめた時は全体的に冷たい絵という印象だったのですが、こういう温かみのある絵も描けるというところに感心しました。ストーリーに関してはどう思われましたか?
●ちば先生
この人は、年齢関係なく、人間の醜さっていうところも描いてますよね。漫画家にしても芸事をやる人にしても、自分と同じ時期にスタートした人のことを凄く妬んだりとか呪ったりとか、そういう感情ってありますよね。人間って恐ろしい、怖いなあっていう表現をね、上手く描いているなあ。猫を箱詰めにして山奥に捨てに行った女性も苦しかったんだろうなあと思うんですよ。「ふんっ」って言ってるけどさ(笑)。そういう、人間のどうしようもない嫉妬深さっていうか……そんなことに時間割くくらいだったら、作品描けって言いたいんだけど(笑)。人間ってやっぱり、愚かだからそういうふうに走ってしまうバカな人っているわけですよ。そういう人間の末路をこわーく描いてる。
●モーニング編集長・島田
これくらいの年齢で、こういうドロドロしたこと描こうと思うと、目も覆うような話になる人が多いじゃない? ドロドロしたところを描きながらも、そうならないところに才能を感じる。怖いラストなんだけど、絶望的ではない。その辺のバランス感覚が、なかなかだよね。
●事務局長・宮本
応募作を描くにあたっては、父親から背中を押されたらしいんですよ。お父さんにネームを見てもらったみたいです。漫画っていうものを父親が読んできて、その文化を引き継いでる。とにかく今、どんどん描きたい!という情熱が感じられました。是非、新人のうちに作品をたくさん仕上げてほしいなと。
●ちば先生
なかなかいいセンスをしていると思いますよ。将来がとても楽しみですね。
 

『コウナイシャ性』尾崎健太郎(京都府・27歳)

●担当編集
下ネタ系持ってきて、すいません(笑)。「モーニング」よりは、「ヤングマガジン」に多そうな作品だなあと思ってたんですけども。実際に作者は数年前に「ヤングマガジン」で受賞しているそうです。
●ちば先生
私もね、この絵は見たことあるよ。
●担当編集
「ヤングマガジン」時代も描いていたのが「ヤンキーもの」ということでした。2年間ほどブランクはあるんですが、またそういうジャンルがやりたいと思って描いてきたんですね。このところ、元気な男の子の作品が割と少なくなってきているので、貴重だなと思ってまして。
●ちば先生
この人は、こういう若者の生態を描くのが好きなんだ?
●担当編集
若者を描くのが好きなんです。べつに下ネタを描くのが特別好きというわけではないみたいです。
●モーニング・ツー編集長・田渕
でも、そんなに下ネタかなあ(笑)?
●担当編集
うーん、一次二次となかなか手厳しい意見が多かったんですけれども……。でもやっぱりメリハリとか見せ方とか、わかりやすく描く技術は持っているな、と。
●ちば先生
うん、そうですね。
●担当編集
雑誌に載っけても、目を引く構図が描けているので、力はあるかなあという感じはします。
●ちば先生
最初に読んで、「モーニング」じゃないな「ヤングマガジン」向きだなとは思ったんですけどね(笑)。こういう若いときの苛立ちとか、どうしようもない自分の欲望のはけ口を探してウロウロするような、そういう世界をズバッと描けるんだったらいいかなあと思いましたね。自分の記憶とかをもとにして、極端に描いているんだろうから。
●事務局長・宮本
読後感は良かったですか?
●ちば先生
うーん、そうですねえ。いいってほどじゃないですけど……。女の子のキャラクターを上手く使ってるよね。
●モーニング編集長・島田
素朴な疑問なんだけど、今の高校生ってこういう感じなのかね? 俺、知らないんだけど。何となく、こういう高校生って今、めっきり減ったかなって思って。もし高校生を描くんであれば、「今」の高校生でなければ意味がないと思うのよ。
●事務局長・宮本
そういう意味で、これは少し古い感じがするということですか?
●モーニング・ツー編集長・田渕
けど電車の中にいる高校生とかがしゃべってる内容聞いたら、みんなこんな感じでしたよ。
●モーニング編集長・島田
そうなの? これ、みんなが「モーニング」っぽくないっていうのもよくわかるんだよ。でも、別にそれで「モーニング」の幅を広げてくれるならいいんだけど。やっぱり、今まで誰も描かなかった高校生を上手く描いたなっていうのが欲しいんだよね。「ビー・バップ・ハイスクール」とかさ、あの時代では衝撃的だったわけで。大人が読んで、「え、今の高校生ってこうなの!?」って衝撃的に感じさせる発見とかね、そういうものが描けるんであれば、「モーニング」でもOKですよ。
●担当編集者
そうですね。ヤンキーの中でもわかりやすい「ヤンキー」だと、「ヤングマガジン」になってしまうので。
●モーニング編集長・島田
上手くてもこのまま「モーニング」に載っけちゃうと、「懐かし漫画」になっちゃう可能性があるんだよね。
●担当編集
そうですね。それを目指している訳ではないんですが。
モーニング編集長・島田編集長
下ネタがあってもいいんだけどねえ。この人、もっともっと絵が上手くなりそうなんだけどね。
 

『浮草の御守』土屋雄民(神奈川県・25歳)

●担当編集
この方は、映像関係の勉強をされていた方で、上京後すぐに漫画を描き始め、「IKKI」で賞を受賞し、単行本も一冊出しています。「モーニング」で是非エンタメ作品を描きたいと思われています。
●ちば先生
このタイトルは、どういう意味なの?
●担当編集者
タイトルの「御守」は、「重り」という文字を「御守(おもり)」と漢字変換して「御守(おまもり)」とルビを振りました。浮いている女の子が「浮草」で、男の子は「御守」。つまりは「浮き草」と「重し」っていう意味なんです。それと、お互いを御守(おまもり)のように必要としているという意味もこめられています。
●ちば先生
なるほどね。
●担当編集
ラストではウキのお陰で、サトルは見晴らしのいい景色を見ることが出来るんです。だから、一方的にサトルがウキに振り回されているというわけではなくて、お互いに必要な存在なんだっていうことを伝えたかったんです。背景の入り方が、もうちょっと丁寧に描けたらよかったんですが。
●ちば先生
ちょっと絵がね、リアルすぎたかな。二人だけの世界で、女の子が浮いてるんだったらいいけどね。周りにいっぱい人がいて見上げたりしてるでしょ。そうすると、これちょっと入っていき辛いなって、その辺で私は違和感を感じてしまったんだね。担当者としては、どうですか?
●担当編集
確かに二人以外の住人の反応が気になっています。たとえば初めに、飛ばされた風船をウキが取るシーンがあるんですが、それを見ているお母さんが驚いていない。この女性の感じ方によって、読者のこの世界に対する捉え方が決まるだろうなと思っていたので、注意して描いてほしいと伝えたんですが……表情がちょっと、甘い気がします。
●事務局長・宮本
どんな顔をしてほしかったの?
●担当編集
驚いてほしかったんですね。ウキが浮いていることを見た周りの人たちが驚くことで、中盤から後半が事件性を持つ内容に変わっていったのではと。二人の掛け合いは滑稽ですが面白いんです。だからこそもったいないなと。
●ちば先生
「地に足をつけやがれ」「バカやろう」っていう流れ……これがねえ、よくある話でね(笑)。ちょっと私は、そういう意味では、これくらいの画力を持っている人だったら、女の子を風船のように飛ばせなくても話は作れたと思うし、その方が読者は腑に落ちるような作品になったんじゃないかなあと思った。ふわりと浮かぶ存在にしちゃったことが、惜しいなあって。こういう作品は、軽みのある絵にしてこそ描ける世界なのかもね。それと、別に背景が粗いとは思わなかったよ。木を描くのって凄く難しいんだけど、それも上手く描けてますしね。キャラクターの顔もいいですし。私は、この人の絵も、キャラクターも、背景も好きですよ。
●モーニング編集長・島田
ただやっぱり「モーニング」にわざわざ来たんだから、浮かばない=リアルな話を作って、しっかり描いてほしいよな。
●ちば先生
ある意味、ポエムみたいな作品なんですねえ。
 

『ドギー&マギー』つかだりつ(東京都・35歳)

●担当編集
この作品、頭のほうから終わりに向かうにしたがって、どんどんペンが走っていくし、絵が上手くなってくるんです。前の作品を描いてからブランクがあるので、後半で勘を取り戻していってるんですね。2作目らしいんですけど、それにしては凄く上手で驚いたんです。とにかく、音楽を描くシーンがすごくいいなと思いまして。「音楽」を描ける才能がある人って、ものすごく限られていると思うんです。宇野くんっていうキャラクターが造形も性格もすごくいいなと思いました。ちなみに宇野くんのモデルは、実在するミュージシャンらしいんです。ミュージシャンって、味のある個性的な顔立ちの人が多いと思うので、好きなミュージシャンの顔でキャラクターを作っていけばいいんじゃない? っていうような話を作者と話しています。主人公の女の子の顔がやや印象が弱いので、それをどうすればいいのかなあという点、それと、時間と労力の関係もあって少し背景が雑な部分があるのですが、しっかりと描き込むべきかという点で少し迷っています。
●ちば先生
この人は楽器をやってる人ですか?
●担当編集
そうですね。大学のときにコピーバンドをやってたとのことです。女の子で、ボーカルやってたみたいです。
●ちば先生
女の子なんだ! へええ。私はね、この人の擬音……オノマトペが、すごく上手だなあって。音楽やってたっていうから、耳がいいんだろうとは思うんですけど。音を文字にするっていうのは、とても難しいんですよね。一律同じようなものになってしまいがちなんです。でも、この人は独特で……上で電車が走っているのが聞こえる音と、下から電車が走っているのが聞こえる音の違いで、こういうふうに描き分けているのかなあとかね。鳥が「ピチピチピチピチ」って、夕方遠くに飛び立っていく音を描いているんだけど、普通、ピチピチっていう音は、朝聞こえる鳥の鳴き声だと思うけど、そういえば夕方に鳥が飛び去る音もまた、ぴちぴちっていうなあ、とかね。木琴の音もね、「コッカッココッ」って描いてあるじゃない? いい耳と、表現力を持っているなあと思って。それが、一番最初の印象です。で、キャラクターの顔も、この主人公の女の子、すごくさっぱりとして明るい顔で、男の子はのそおっとした顔で、いいと思いますよ。背景もあんまり描き込んでないんだけど、その方が読みやすいし、描きこむべきところはおさえているしね。
●担当編集
時間がなかったから、それゆえに、最小限のところはおさえていったっていう印象を受けますね。センスがすごく出てますよね。
●ちば先生
音が伝わってくる描き方が出来るから、この人はとても表現する力を持っているし、読ませる。キャラクターもいい。漫画っていうのは、演出力だとか、キャラクター力だとか、テーマとか、色々そろわないと、一つの作品としていいものが出来ないんだけど。この人は、それらをそろえている人だなあと思います。

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