最終選考会の議事録をノーカット完全収録!

ちばてつや賞一般部門の最終選考はちばてつや先生をお迎えして行われます。
時間をかけて一作一作丁寧に読んでくださったちば先生のコメントを聞き、その上で作品の担当編集は、自分の担当作品をちば先生にアピールします。
そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問。活発な議論が交わされます。

 

『しおかぜ』桐村海丸(東京都・24歳)

選考会でのちばてつや先生

●ちば先生
これは、絵が好きですね~、私は。キャラクターたちに、なんともいえない色気がある。それと日本の風土の良さも伝わってくるね。画材はペン……ではないですよね?
●担当編集
筆ペンの細いほうで描かれています。
●ちば先生
そうですか~。もうね、すごく良いセンスしているなと。この方、24歳とお若いんですね。
●担当編集
作者は美大で洋画を専攻していた方なのですが、卒業制作で描いたクジラの絵がすごく良くて、こちらからその「クジラ」を漫画で描いてみてほしいとリクエストしました。ネーム含めて1ヵ月もかからずに描き上がりました。今はもう次の作品に取り組んでもらっていて、下書きのようなネームをいくつかあげてもらっています。
●ちば先生
ペンが速いんですね。
●担当編集
そうなんです。それと、この方は記憶力がかなり良いのか、応募作も写真や資料が手元にない状態でこのような作画ができるんです。資料は要りますか、と確認したのですが、なくても大丈夫と答えられて……。おそらく普通の人と見ているものが違うんじゃないかなと。
●ちば先生
自分の世界を持ってるんだね。絵が本当に色っぽいよね。それとおじいさんや親方、茶屋のおばちゃんなど脇役の顔もいいね。ささっと描いているけど生活感が出ているよね。だからこそこの連中の生活ぶりをもっと見てみたいなと思ったよ。
●担当編集
それは編集サイドで、今回はそういう脇役に関してはスポットをあてずに進めようと相談したんですよ。
●ちば先生
今回の話の流れではそのほうが良いと思う。それにしてもサブキャラも本当に良い顔している。
●担当編集
ありがとうございます! 実は、枠線含めてすべてフリーハンドで描かれていて、トーンもアミテン一種類しか使用していないんです。
●ちば先生
そうだよね。結構ゴチャっと描き込んでるけど、全然うるさくないんだよね。一点だけ、私の読みが浅かったからかもだけど初読ではわからない箇所があったんですよ。主人公の回想シーンで、包丁が出てくるんだけど煙管(キセル)と形が似ているから、そこはもうちょっとわかりやすく描いたほうが良かったかな。気になったのはそれくらいで、あとはとても良かった。ラストの見開きもとてもおおらかで情感がありましたし、江戸時代というか、昔の日本は良いな~と感じたし、何より日本人にしか描けない作品だね。
 

『ほう子ちゃん』新崎三幸(栃木県・25歳)

●担当編集
この方はちば先生が講師を務めてらっしゃる文星芸術大学出身の方です。
●ちば先生
これ、私が教えていたときには読んだことなかったんだけど……困ったね(笑) 絵は抜群にうまい子だったんだよね。短編はちょこちょこ描いてたんだけど、こういう長編のストーリーものは初めてなんじゃないかなあ。けどちょっと長かったかな。それとね、この作品の良さっていうのは初読ではちょっとわかりづらかった。漫画っていうのは、1回目に読んだときが勝負なんだよね。2回繰り返して読んだり3回読んだりっていうのはちょっと違う。おそらく目線がさちこという人物から見た「ほう子ちゃん」だったからかな。
●担当編集
小さい頃、宮城に住んでいたおばあちゃんを訪ねて話を聞くことがすごく好きだった作者の思い出をもとにこの作品は出来たそうです。作品内で「雨ニモ負ケズ…」というネームが出てくるんですが、宮沢賢治はじめ、ノスタルジックな世界を描きたかったそうです。先ほど、ちば先生がおっしゃっていた「視点が変わる」ことにより若干読みにくさを感じるお話ですが、作者としては自分の今の物語を創る実力を考えこの方法にしたそうです。主人公のほう子ちゃんになりきって、ほう子ちゃん主体で全てを描くのは難しかったので、観察者の立場から、ほう子ちゃんみたいな人間を描いたのです。これによってさちこが幼いときに見ていた「ほう子ちゃん」の行動について、大人になったときにはじめて理解して泣く、という時間差の共感という演出ができたと思います。ご指摘の点は作者も十分に理解はしていますが、今ある技術でできるかぎりまとめられたのではないでしょうか。
●ちば先生
そうなんですよね。何度か読むと色々な演出に気づくんです。例えばほう子ちゃんが母親を亡くした直後笑いながら歩いているシーンがあって、夕方だから影がのびているんだけど、それがお母さんのシルエットになっているんですよね。けど最初読んだときはパッとわからなかった。そういうところがもうちょっとうまく、すっと伝えられる演出をしたらもっとすごく良いものになっただろうと思う。
●担当編集
今自分が持っているものをどうやって伝えるのかという訓練をまだそれほどしてないと思うのですけど、僕ら編集がそれをうまく伝えていけば良いかなと。伝えたいものがあるということがそもそもすごく大事な要素だと思うので、そこは評価したいと思います。
●ちば先生
一コマ一コマ、とても絵に詩情があるよね。空気感というか季節感というか……良いものは持ってる子だと思います。うまく育ててくださいね(笑)
 

『冬美町の夏』トトキマコト(東京都・28歳)

選考会でのちばてつや先生

●ちば先生
これも良かったね。ただ「動機」という点だけひっかかった。男の子が親を亡くした季節・冬を憎む気持ちから、夏を強く求めるんだけど、ちょっとつながらなかったかな。もちろん小野田くんにとっては深い悲しみなんだろうけど、この子が夏を恋しがる気持ちがもっと強くほしかったね。
●担当編集
作者は漫画を描かれて2年ほどなんですが、ずっとキャラクターものをメインに描かれてきました。賞もとってらっしゃるのですが、今回、初めて本格的なストーリーものに挑戦されました。最初は全面的にSFの設定で取り組まれていたそうですが、途中で応募作のような形に切り替えたため、小野田くんが夏を求める動機の弱さにつながってしまったのかもしれません。
●ちば先生
なるほどね。けど、怪しげなトンネルを抜けると、いきなり夏の世界が広がっているとか、演出力がある人だなと思ったよ。
●担当編集
ありがとうございます。今まではどちらかというと世界を斜めに切りとった批評的作風だったんですが、応募作のようなタイプの話もこれからどんどんチャレンジしていきたいとのことです。
●モーニング編集長・島田
前回のMANGA OPENで『本で知っている。』っていう双子の話を描かれた方だよね? あれからどれくらいでこの話はできたの?
●担当編集
半年くらいですね。
●モーニング編集長・島田
OPENより飛躍的にうまくなっているよな。シンプルな絵だけど、のびしろがありそうな感じがする。キャラの顔が良いですよね。
●ちば先生
そうなんですよ。それと色んなポーズが決まっているんですよね。本当に自然にそういう仕草するだろうなと思わせてくれる。キャラの立ち姿とかにもぶれがなく、主人公の女の子の後ろ姿もとても自然ですよね。押し入れを覗き込むポーズも自然で無理がない。
●担当編集
この作品からは、写真をだいぶ撮影して作画されているんです。
●ちば先生
たとえ写真を撮っていても、もともとうまいんでしょうね。目でしょっちゅうデッサンしているような感じがする。見ているだけで良いな~と思わせてくれる絵ですね。町なんかも良く描けている。演出がもっと上達すれば、もっと人に感動を与えられるし、良い話だなという余韻も持ってもらえると思うよ。
●担当編集
ありがとうございます。今後もより一層良い作品が創れるよう頑張ります。
 

『デコイの友達』杉崎貴史(東京都・31歳)

●ちば先生
詩情もあるし、なかなか良い話だと思いますね。でも、何を言おうとしていたのかが、なかなか伝わりづらかったね。
●担当編集
この方は、正義が一方的に勝つというのは必ずしも正しくないのではないか、ということをよく言ってます。猟師は食べていくため、鳥は生き延びるためそれぞれに立場があります。どちらの心にも少しずつトゲを残しながら、お互いに少しずつ理解する。そういう物語を描きたいという気持ちがあるようです。
●ちば先生
すごくわかりやすいお話だと思います。でも、何も鳥を撃たなくても良いんじゃないかな。最後に土地を耕し始めるようなところで終わってもよかったんじゃないのかな? 涙を流して鳥を撃ったことを後悔しているのなら、そういう生き方も選べるんじゃないかと思う。作者は、「やっぱり人間ってだめなんだな」ってところを描きたかったんだと思うけど。そのせいで、読後感がちょっと悪く感じてしまったかな。それに、人間の悲しさや本能を描こうとしても、リアルに考えてみると菜食主義者もいるわけだし、この猟師は鉄砲とおとりを使って楽しているようにも見える。
●担当編集
もっと額に汗して、苦労すべきですか?
●ちば先生
あんなに悲しむくらいだったらね。リアルに考えるとね。でも、これはそんな話ではないんだけれども(笑) でも、読む人を理解させるためにはリアルさも必要なんだよね。ラスト2ページの描き方をもっと考えられたら、もっと上手く伝わったのではないかと思います。自分の描きたいことを上手く伝えられるようになれると良いね。期待しています。
 

『イイですね、ソレ。』朋(東京都・34歳)

●ちば先生
子供にはよくありますよね、親がすごく誇らしかったり、時には友達から「えーそんな仕事してんの」って言われて気持ちが揺らいだり……そういう心の変遷がうまく描かれていたね。それと剥製師のことも「ああ、こうやって針金使ってこうやるんだなあ」とかきちんと描いているのは良かった。ただ動物がもう少しかわいいと良かったね(笑) あと主人公が友達を連れて家に帰ってきたシーンは、ドキッとするような良い絵だったね。
●担当編集
作者の方は大学を卒業してから独学で漫画を描き始めたという方で。以前は女性コミック誌中心に応募していたそうですが、今回は視野を広げるつもりでモーニングに応募されたそうです。
●ちば先生
女性ですか?
●担当編集
はい、女性の方です。コマ割りとか見づらいところもありますし、ちょっと説明しすぎなところも多々あったかなあと思うんですが、でも単純に読後感の良い作品だったなと。主人公の女の子も生き生き描かれていますし。最近そういう作品って、描けそうで描けない、また、描く人もあんまりいないと思うので貴重だなと。先生にぜひ伺いたいのですが、女の子の印象はいかがでしたか?
●ちば先生
女の子のキャラクターは、可愛く描けていると思うよ。お金持ちの女の子も、友達のお母さんの怖さっていうかいやらしさっていうか、それもきちんと描けているんじゃないかな。
●担当編集
実際に作者の知り合いに剥製師の方がいて、その方からヒントを得て描かれたそうなんです。猟師が多かった時代は、自分の獲物を飾りたいということで需要はかなりあったみたいなんですけど、今は猟師自体が減っているので、剥製師も減ってきているようなのですが……。ただ、そういった題材を選んだ点が僕はおもしろく感じましたし、大人な作家さんなので、先ほど先生が言われていたようなお母さんの反応とかもリアルに描けたんだと思います。
●ちば先生
最後はとっても気持ちが良い終わり方ですね。この箱は、金持ちの女の子・順子が作った箱なの? それがちょっとわかりづらかったかな。
●担当編集
動物はあんまりかわいくなかったですか?
●ちば先生
よく見たらそんなことなかったね(笑) よく描けていると思いますよ。まあだけど、女の子たちのキャラクターもかわいいし、きっと作者は通行人も、OLとかサラリーマン、いろんな種類の人間が描けそうだし、可能性がある人だと思います。
 

『とあるおやじと女の冒険』中瀬麻衣(大阪府・27歳)

選考会でのちばてつや先生

●ちば先生
とてもおもしろい53歳と35歳のカップルだけど、リアリティが感じられなかったかな。53歳のオヤジが目の前に女の子がいるのに、「あれ? オレ、今、女の子としゃべってるんだっけ?」と思うのは、ちょっと不自然(笑) 初めて会った男女だから、緊張してるだろうし、「こんな良い女が……」っていう想定外のシチュエーションで、とんでもないことを言ってしまったり、そこにこそ人間の本音が出るはずだけど、うまく伝え切れなかったね。それと、女の子の廃虚巡りの趣味について、「この話をすると、すぐに相手から嫌われてしまう」と言うのも、不自然に感じてしまったんだよね。だって、とっても魅力的な趣味じゃないですか。しかも、これだけ可愛い子だったら、多少変な趣味でも、男ならちょっと付き合ってみたいなとか、もっとあなたのこと知りたいなって思うはずだし。物語全体を通して、リアルな「人間らしさ」が感じられなかったかなあ。ところで、この男は相当ひどい生活を送ってますよね……穴だらけの靴下でお見合いするとか。女性だったら、絶対こんな人の側にいたくないでしょう?
●編集部員A
嫌ですねえ(笑)
●ちば先生
でしょう? タバコ臭いし、お風呂も入ってないだろうし、部屋だって、めちゃめちゃ汚いし……でも、ただひとつ、人間的にはすごく良いやつなんですよね。この男は、母親に苦しめられてきたけど、生活のすべてを吸い取られても耐え続けてきたんだよね。だからこそ、そのお母さんが一度も出てこないっていうのが残念。相当強烈な母親のはずなのに、会話の中で、説明的にしか出てこない。男っていうのは、母親を「このババア」と思っていても、どうしても憎み切れない。そういった男の悲哀は、多少は感じるんだけどなあ。それと、恋人になるかどうかはわからないけど、「趣味が合う友達ができた」っていう、何か未来への可能性を予感させるラスト、これは良いですね。
●担当編集
この作品は、中年男性のキャラクターを描きたいという作者の想いから始まったんです。ただ20代の女性である作者には、中年の冴えない男性の心理が、つかみきれなかったんだと思います。彼女なりに想像しながら綴ったとは思うんですが、人間を描ききれなかった。技術的にも未熟な部分はあるのですが、昭和20年代とか30年代を彷彿とさせるノスタルジックな町並みの雰囲気を巧みに描き起こしている。加えて、熱意も人一倍あるので、これからに期待しています。
●ちば先生
鳩の町とか隅田川沿いっていう場所は、私が住んでいた場所のすぐ近くだったので、記憶がありますけど、こんな雰囲気です。丸い窓があったり、変なところにタイルが貼ってあったりね。最後のページで、電車の走っている風景も、情緒的に描けていたね。良いものを持っていると思いますよ。
 

『記憶の熱量』若林里実(東京都・28歳)

●ちば先生
この方は女の人ですか?
●担当編集
そうです、女性の方です。今まで漫画はあまり描いたことはないようですが、自身のホームページなどで絵を公開したりしています。漫画の新人賞に送ったのは今回が初めてです。
●ちば先生
まずページ数で圧倒されたね。参りました。これだけ描くってのは、それこそすごい熱量だと思います。私はあまり詳しい知識は無いのですが、このエーテルっていうのは?
●担当編集
エーテルという名前には、光を伝播する媒質と考えられていた物理学のエーテルと、化学の有機化合物のエーテルがありますが、今回の話に出てくるのは全くの架空の物質です。
●ちば先生
なるほど。この方はおいくつですか?
●担当編集
28歳です。美大を今年卒業されたのですが、美大の前に農大を出ているらしく、ちょっと 変わった経歴の方です。知識や興味の幅がとても広く、話していてとてもおもしろい方です。今は別のネームを考えてもらっています。
●ちば先生
それも応募作くらい長い作品なの?
●担当編集
今度は12~16ページのホームドラマです。建築学や物理学や科学など、いろんな知識がふんだんに登場します。
●ちば先生
なるほど。読んでいると知識欲が満たされてくる、そういう作品が描けそうな、先が楽しみな方ですね。ただ、今回の話は、正直なところ、まとめきれてないなという感想を持ちました。この作品はおもしろいけど、こんなにページはいらない。登場人物が多いし、似たような雰囲気の人間が出てくるのが、また読みにくさの原因になっている。
●担当編集
顔が似てますよね。
●ちば先生
そうそう。子供も出てくるんだけど、アップになると大人の顔になってしまう。読者が迷わないキャラクター作りをしなきゃダメです。話が壮大だし、見開きで見せたい絵もあるだろうけど、この話は必要最小限のエピソードに絞れば半分くらいにはなるんじゃないかと思います。それぐらいにまとめたら、もっと読者の心に響く作品になったのでは? うまく育ててあげてください。とても良い作家になると思います。
●担当編集
ありがとうございます。

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