最終選考会の議事録をノーカット完全収録!

ちばてつや賞一般部門の最終選考はちばてつや先生をお迎えして行い、時間をかけて丁寧に読んでくださったちば先生の各作品への評価をお聞きします。その上で、2次選考会で作品の担当となった編集部員は、自分の担当作品を詳しく説明してちば先生にアピールします。そのほかの各編集部員は、疑問点などをちば先生に質問し、活発な議論が交わされます。

 

『うしかいの左手』山村武大(熊本県・26歳)

選考会の様子

●ちば先生
この方は何回か投稿している? 見覚えがあるかも。
●担当編集
一次で落選したことがあるそうです。ちば先生が選考される最終まで残ったことはありません。この作品を見て絵の構図がいいなとすごく思いました。漫画を描き始めるまでは、ずっとカメラマンをしていたそうで。
●事務局長・鯉渕
センロバアが出てくるシーンがあるんだけど、そのページの絵がいいよね。奥行きがあるしすごく印象に残る。カメラマンって話はなるほどなって思った。
●ちば先生
実際にある風景かもね。砂利や石、線路の風景も上手いね。
●編集部員・A
電線だけとか、普通描きませんもんね。
●事務局長・鯉渕
砂利とかってすごく難しいよね。
●担当編集
この作品は2年くらい前に描いたものらしく、今はもう少し絵が変わっているそうです。
●モーニング編集長・古川
もっと絵が変わっているのか? 見てみたいな。もっと伸びてると思うし。ただ雰囲気や世界観がいいだけでなく、商業的な点から見ても力を持ってそうな人だと思うな。
 

『うねるうたかた』東裏友希(東京都・24歳)

●ちば先生
溺れる描写や、水の表現なんか上手いよね。いじめられている場面にしても、包丁を持ち出すところにしても、迫力があって絵が上手い。ただ、段々と追い詰められて来るって順序はいいけど、ラストに溢れ始めた水が夢か現実かわからなかった。仮にどちらにせよ、水から上がったのに煙草に火をつけてるのは変だよ。
●事務局長・鯉渕
確かにそうですね。その点は担当者も反省していました。ただ、ラストまで伸びていく勢いはすごいかなと。
●ちば先生
そうだね。途中に変なところもあるけど、伝えてしまう力があるよね。
●モーニング編集長・古川
淡々とした日常の繰り返しなんだけど、すぐ裏側にある悩みや恐れっていうものへの引き込み方が上手いなと思った。ただ、水を不安や恐怖のイメージとして使おうとしたんだと思うんだけど、表現の仕方がもう一歩だったと思う。でもまだ若いし、十分可能性は感じる。
●事務局長・鯉渕
「人間の暗部に興味がある」ってメッセージが書いてあるぞ。
●モーニング編集長・古川
今回多いんだよね。読んでいて重苦しくなってくるテーマの話が。今回のこの話も心理的な暗さを示しているところがあるよね。
●ちば先生
それは世相のせいかもしれないね。
●事務局長・鯉渕
そういう気持ちが今の人にとっては一番リアルなんじゃないのかなあ。
●ちば先生
それは少し残念だね。
 

『私の格好悪い恋愛』前田純子(奈良県・23歳)

●事務局長・鯉渕
結局この主人公の女性はいくつなの?
●担当編集
40を超えているぐらいですかね。相手の男は学生で20過ぎかな。
●ちば先生
アシスタントだよね。主人公は個展を開いている芸術家なんだよね。この女性、初めは若いのかなって思った。ちょっと口元に小ジワがあるだけだし。でも、帽子を被った途端に老けるんだよね。この表現は上手いな。
●モーニング編集長・古川
作者の方、若いよね。本当に23歳?
●担当編集
そうです。
●モーニング編集長・古川
実は僕はあまり評価してないんだけど。男側の感情がまったく出てこないよね?
●事務局長・鯉渕
部内選考でも評価が分かれましたよね。やはり、感情の機微を出すのなら、男側の気持ちは描いたほうがいいんじゃないのかな?
●担当編集
気持ちがわからなくても読めるのでは? 女性側に共感できるじゃないですか。
●事務局長・鯉渕
男の気持ちがわからないと、ただ女がウジウジしている描写が続いて、勝手にしてろよって思っちゃうんだよね。
●編集部員・B
ウジウジを面白く思うかどうかの差ですかね。
●モーニング編集長・古川
年上の女を騙している嫌な男かもしれないよ。
●編集部員・C
それは読んでいる人の心の持ち様ではないですか?
●一同
(笑)。
 

『フクノカミ』キタクタイヘイ(東京都・40歳)

●ちば先生
この方は主婦の方ですか?
●担当編集
はい、そうです。家事の合間を縫って描き上げたそうです。
●モーニング編集長・古川
92ページと、かなり長さはあるけど最後まで破綻をきたさずに描ききったのはすごいと思う。何があるかって話ではないですが。
●ちば先生
うん、そうだね。車で夜、老人が飛び出してくるエピソードがあるよね。あのシーンは取って、もっとすっきりとしたほうが内容が伝わりやすくなると思うよ。布袋さまが涙を流すシーンがあるけど、これは誰の涙かな?
●担当編集
おばあさんの涙だと思います。
●ちば先生
なるほど。とてもいい話だと思います。この方には、是非今後もホームドラマを描いていってほしいな。
●モーニング編集長・古川
最初から構成を決めずに、描きたいように話を描いちゃったから冗長になってしまったのかもね。ページ数を予め決めて描くと、もっと上手くまとまったかもな。その点が残念。
 

『小犬とフレンドなんとか』中森茂(福島県・37歳)

●ちば先生
これどう思った? みんなの意見を聞きたいんだけど(笑)。
●一同
(笑)。
●編集部員・D
ことばのセンスすごくいいなと。
●ちば先生
絵は少しね、古いよね。
●事務局長・鯉渕
狙ってやってるのかな? だとしたらすごいよね。
●担当編集
10年ほど前に新人賞の受賞歴があって、何度か掲載されたこともあるそうです。原稿は散逸してしまったそうですが(笑)。
●ちば先生
絵も話もたどたどしいんだけど、最近ギスギスした作品が多いなか、天然記念物的な温かさを感じる良い作品だよね。
●事務局長・鯉渕
編集部の何人かは激しく支持していて、ネームのテンポが良くて面白いと。ただページ数が長いね。もう少し削らないと。
 

『赤い朝』夏次 系(東京都・22歳)

選考会の様子

●事務局長・鯉渕
映画を撮ってる監督と、撮られている女性の話なんだけど、これもよくわからないんだよな。
●担当編集
この作品は、現代に生きる若者が持つ空虚で目的意識がない様子を描きたかったんですよ。
●ちば先生
作者の方は男性なの?
●事務局長・鯉渕
女性ですね。男性名のペンネームですけど。
●担当編集
美術大学の学生らしいです。これがまだ2作目らしくて。1作目も見せてもらったんですけど、話としてはこんな感じでした。ただ、前回に比べて構図とかもすごく上手くなっていて、のびしろがある方だなぁと思いました。
●ちば先生
成長してるんだね。絵もキャラも背景も構図も演出も上手い。ずっと読んでいられるんだよね。ただ、何を伝えたいのかがわからない。詩でもいいし心象風景でもいい、読み手に何か伝える工夫がないともったいないと思うよ。
●担当編集
でも、作者の方はドラマティックになり過ぎないように描きたかったらしくて。日常はそんなにドラマじゃないっていうか。
●モーニング編集長・古川
でも、この男が何者かぐらいはわからないと、話がわかりづらいんじゃないかなとはやっぱり思うよ。
●担当編集
女の子の心情を伝えることができれば、男はどうでもいいんじゃないかなって思うのですが。
●ちば先生
急に男が女性の髪を切り出すシーンがあるよね。女の子に断りも無くジョキジョキと。それまではただカメラを回しているだけだったのにね。そのときに何か発見があったと思うんだよ。でも完成した映画を見ても意味がわからない。「あれっ?」ていうところで物語が終わって疑問符が残ってしまう。こういうときに男側の気持ちがわかればすんなりくると思うんだよね。キャラや線描、陰影が上手いので、もったいないと思うよ。
 

『海と宇宙(そら)』谷島冬美(東京都・21歳)

●ちば先生
このキャラクター、お面を被ってるのかと思ったよ。意味不明なんだけど、演出が上手いのかスーっと読んでしまったんだよね。これはどう読めば良かったのかな?
●担当編集
二人の男性の友人関係を読んでほしいと思います。
●ちば先生
では、何でこういう顔にしたのかな?
●編集部員・E
「あいつの話ってわかんないよな」っていうのを絵で表現しているのではないでしょうか?
●担当編集
そうです。絵で伝えたかったんです。ただ「気持ちが読めないやつ」っていう設定を象徴して、宇宙人のビジュアルを選んだだけで。別に当人同士は宇宙人に見えているわけではないし、特に無表情にしたかったわけでもない。お互いに頭の中では普通の顔に映っているんです。
●モーニング編集長・古川
新しい演出方法だよね。
●担当編集
上手くいっているかどうかは、ここでの評価によりますが(笑)。誰の視点っていうわけでもなくて、神の視点なんですよね。
●事務局長・鯉渕
難しいな(笑)。
●モーニング編集長・古川
初めは何なのかな?って思うけど、途中から作者のやりたいことが伝わってくるし、理解できてくるんだよね。
●事務局長・鯉渕
何がある話でもないけど、会話のテンポがいいよね。
●ちば先生
コマの使い方も上手い。見開きとかも。でも最後のシーンで、お姉さんに呼ばれて顔がポっと赤くなるシーンがあるけど、ここは人間の顔じゃなくて良かったのかな?
●担当編集
ご指摘通りです。その点は作者も反省していました。詰めが甘くてすいません。
 

『熊のおくさん』金崎くーこ(東京都・24歳)

●事務局長・鯉渕
あまりにも突拍子が無さ過ぎるかなぁ。この話は。
●担当編集
熊の描き方がすごいと思ったんですよね。全体にとても温かい雰囲気が溢れていて。ある日、妻が熊に変わってしまうんですけど、昔の優しい妻の姿と今の熊の姿がシンクロしてきて全然違和感が無いっていうか。
●編集部員・E
そう感じているのは担当者だけのような気がするのですが……。
●担当編集
いや、そんなことないですよ。それに、この方は今回が初作品らしく、初めてマンガを描いてここまで表現できるのはすごいなと。
●ちば先生
初めてでも、これぐらいは描けると思うよ。
●一同
(笑)。
●ちば先生
確かに、担当者の言うように全体が温かい雰囲気に包まれているのは伝わってくる。でも後半からよくわからないんだよね。
●モーニング編集長・古川
そうですよね。妻は殺されたのか、姿が変わっただけなのか。殺されたとしたら、誰が殺したのか。物語の核となる部分がわからなかったのは残念だったな。
 

『おとなりにおふくろさん』玉塚明里(大阪府・23歳)

●ちば先生
女の子を家に呼ぶときに、オバちゃんが入り込んでくるよね? どうしてあのシーンで追い払わないのかとても気になったね。
●事務局長・鯉渕
そう、追い払わないんですよね。真ん前を通っているのに。構図が上手く描けなかったのかもね。
●担当編集
この方は、勝手にお風呂に入るおかしな中年の女性を描きたかったそうです。そこに後から話を肉付けしたそうで……。
●モーニング編集長・古川
えー! そこかよー!
●編集部員・D
その割にはいい話ですよね。
●担当編集
ハッピーエンドにしたいってのは作者のポリシーらしくて。
●モーニング編集長・古川
だけど、ちょっと無理があるよね。つくりに。
●事務局長・鯉渕
主人公は、おばさんに優しくできない自分に反省するけど……、この相手じゃ反省する気も起きないよね。
●担当編集
警察呼びますよね、普通。
●一同
(笑)。
●編集部員・D
お母さんのことを思い出して、主人公はおばさんに対して優しくしようって思うんですよね?
●担当編集
そこが上手く描けてないよね。多分、全然伝わってないと思いますし。
●ちば先生
全体的に少し不自然だよね。そのあたりを考えて作り直してみたら、もっと良くできると思うよ。主人公の優しさはとてもいいんだけどね。

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