特別講師
李相日 新進気鋭の映画監督

それから、僕が台本を考えるうえで常に心掛けているのは、「疑う姿勢を失わない」ということです。

なんと言えばいいのかな、僕ってあんまりおもしろい人間じゃないんですよ。

けっこう計算高い常識人で、これといって破天荒なエピソードも持っていない。そもそも、学校でも「自分はどう振る舞えばいいんだろう?」みたいなことを気にしていたような人間ですからね。

学校には僕よりおもしろいヤツもたくさんいたし、これまでの経験から、自分が非常識な人間なんかじゃないことを十分承知してるんですよ。

一方、映画としてお客さんを楽しませるためには、つまらない常識から飛び出した非常識な展開、予想もつかない展開が必要になる。

だから僕は、脚本を書くときに、いつも「僕が思いついたアイデアなんて、じつは平凡なものなのかもしれない」と自分を疑います。

こんなアイデア、ひょっとしたら誰にでも思いつくレベルなのかもしれない。

自分ではおもしろいと思ってるこの台詞も、全然おもしろくないのかもしれない。

このままの展開だと、みんな結末が読めちゃうかもしれない。

そうやって、思いついたアイデアや台詞をそのままにせず、もう一度ひねってみたり、別の角度から眺めたりという作業を何度もくり返すんです。自分がいいと思ったものを、あえて疑う。これは意識してやらないと、なかなかできないことです。

よく「自分の長所を見つけて、そこを伸ばしていこう」みたいな話を聞きますが、僕は逆に、自分の平凡なところやおもしろくないところ、月並みなところに気づくことも、すごく大切なんだと思います。

僕はそのへんを自覚しているから、時間をかけて丁寧に考えるし、他者の意見も積極的に取り入れようとしている。そして、きっとこれは僕の武器になっている。

もし、僕が「俺はものすごく個性的でおもしろい人間だ!」と思い込んでいたら……僕の映画はちっともおもしろくないものになるでしょうね。

特別講義5時限目 平凡な自分をどう受けとめるか より抜粋

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リ・サンイル。1974年、新潟県出身。日本映画界でいま、最も注目されている若手監督。大学卒業後、日本映画学校に入学。卒業制作作品『青~chong~』でぴあフィルムフェスティバルのグランプリを含む4部門を独占受賞。『69sixtynine』(2004年)、『スクラップ・ヘブン』(2005年)、『フラガール』(2006年)の監督を務める。『フラガール』は、日本アカデミー賞をはじめとするあまたの映画賞で、作品賞、監督賞など最優秀賞を総なめにする。2006年度芸術選奨新人賞受賞。

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