特別講師 綾戸智絵 奇跡のジャズシンガー

もし、16歳の自分に会えるとしたら、「褒めてやりたいこと」と「叱ってやりたいこと」がそれぞれあるんです。

まず、褒めてやりたいのは「なにごとも先送りしなかった」ということね。

今日できることは今日のうちにやった。今年できることは今年のうちにやった。なにひとつ先送りしなかった。たとえば「アメリカに行きたい!」と思ったときも「でも、大学を出てからでいいか」とは考えなかった。

当時ね、ある人から「ロサンゼルスは21歳からが成人だ。高校生がジャズクラブに行っても未成年だから入れないぞ」と言われたの。

でも、それを聞いたわたしは、「未成年だから入れない」っていう経験をしたい、と思った。お店のアメリカ人に「身分証明書を見せてみろ。おまえは未成年だな。入店お断りだ!」って言われてみたかった。

だって、そんなの高校生のうちしかできない経験でしょ? 21歳になったら手遅れになる。できるはずの経験ができなくなる。

いま気づいたこと、いま感じたことは、いまやらなきゃだめなのよ。

もし21歳まで待って、21歳の自分が「もういいや」と思ったらどうする?

そう思わない保証なんか、どこにもないよ。

だからわたしのアメリカ行きは、「夢」なんて甘いもんじゃなかった。完全な「計画」。どうやって行けばいいのか、お金の問題、親の問題、学校の問題、いろいろと計画を立てて、ちゃんと貯金もして、ひとつずつ実行していった。

高校2年生の6月に、卒業アルバム用の写真を撮ったのね。そのときカメラマンのおじさんに「ねえねえ、この写真ってパスポートにも使えるの?」って聞いて、「使えるけど、パスポートを申請する1年前までに撮った写真じゃないとだめだよ」と教えてもらった。

ということは、1年後、3年生の6月までにパスポートを取らなきゃいけないな。そう考えて、おじさんにもう1枚、パスポート用の写真を撮ってもらってね。

写真1枚とってもそんな感じ。全部自分で調べて、計算して、大人を説得する材料も揃えて、卒業できるだけの出席日数も確保して、当然お金も貯めて、そのうえで「だからアメリカに行かせて!」と言った。

アメリカに行ったのは、ちょうど高校3年の6月です。先生は「夏休みまで待て」というんだけど、パンフレット片手に7月になると飛行機代が何万円も高くなると説明して、向こうの大学に入れるかもしれないとか小さなウソも混ぜて、6月30日に出発しました。母親も学校の先生も、そこまでやったら認めざるをえないよね。

大人を説得して、新しい扉を開けるためには「大きな勇気」と「ほんの少しの常識」が必要です。

くやしいけど、熱意だけでは大人は認めてくれない。大人になにかを認めさせるには、ほんの少しの常識が必要なの。ちゃんと考えてるんだな、こいつは真剣なんだな、もう子ども扱いできないな、と思わせる説得材料がね。

それを全部やりきった16歳の自分に、わたしは感謝してる。

あのときできることは全部やったし、そのおかげで、いまの自分がいるしね。「あのときアレをやっとけばよかった!」みたいな感覚が、いっさいないの。人生のどの場面を切り取っても、完全燃焼してる。

だからみんなも、いまできることは先送りせず、全部やってみて。大きな勇気と、ほんの少しの常識を武器に、ね!

特別講義1時限目 16歳の“ドア”を開けよう! より抜粋

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あやど・ちえ。大阪府に生まれる。17歳で単身渡米、ロサンゼルスと神戸を行き来する生活を始める。ニューヨークでゴスペルクワイヤーのメンバーとして活動した後、帰国。大阪のジャズクラブなどで歌い始め、自主制作盤を3枚制作する。1998年6月、40歳でアルバム『For All We Know』でプロデビュー。饒舌で笑いが溢れるトークと幅広い選曲を織り交ぜた自由奔放なステージは、ジャズファンのみならず、普段コンサートに通うことのない多くの老若男女に感動を与え続けている。現在、母親の介護のため、ライブ活動を一時休止中。

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