特別講師 西原理恵子 漫画家

わたしは貧困を憎んでいます。

この仕事を始めて25年、心や体を壊しても、休むことなくずっと働き続けています。仕事があるかぎり、きっと一生働き続けるでしょう。「もうこれで十分だ」と思うことができないし、自分を休ませてあげることができないんです。

だって、貧乏になるのが怖いから。もう二度とあんな場所に戻りたくないから。

わたしが子どものころ、うちの両親はたったの数万円のお金をめぐって、毎日のように「殺す」「死ぬ」と大声で叫び合っていました。父も母も、普段はいい人なんですよ。でも、人間ってお金がなかったら獣になるんです。そして男の子は泥棒になり、女の子は売春婦になっていく。悲しいことだけど、それが現実です。わたしは実家のあった田舎町や世界の途上国で、そんな家庭を山のように見てきました。

一人前の人間であろうとしたら、どうしたってそれなりのお金が必要なんです。

なのに大人たちは、平気で「お金で幸せは買えない」とか「お金の話をするのは卑しい」なんて綺麗事を口にする。もうね、貧乏のどん底にどんな悲惨な景色が広がっているか、一度でいいから見せてやりたいですよ。

お金がなかったら、人は獣になる。

そしてお金さえあれば、たいていの不幸は乗り越えられる。

これは自分の経験から、自信をもって断言できることですね。

経済が右肩上がりだった昭和の時代は、大学さえ出ていれば仕事ができなくてもクビにならなかったし、一生食べていけた。こんな環境にいたら、そりゃ「お金のことを口にするのは卑しい」という考えにもなるでしょう。

でもね、もう時代は変わったんです。学歴と会社がみんなを守ってくれた、古きよき昭和の時代は終わってしまったの。自分の身は自分で守らなきゃいけないし、どんなに大きな会社に勤めていようと、危機管理をやっておかないといけない。お金のことを、もっと真剣に考えなきゃいけない。

国も学校も、そしてもちろん会社も、いざとなったら助けてくれません。最後の最後は自分しか頼りにならない。

だから、「働くことは生きることで、生きることは働くこと」なんです。

助けてくれる人は自分しかいないんだから、どんなに疲れたって、どんなに八方塞がりになったって、絶対に「自分というお店」を畳まないこと。毎日働いていれば、必ず出口は見えてきます。

特別講義3時限目 「お金」と「仕事」をどう教えるか より抜粋

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さいばら・りえこ 武蔵野美術大学卒業。1988年、『ちくろ幼稚園』でデビュー。ギャンブルや旅行など、実体験に基づいた作品で人気を呼ぶ。『毎日かあさん』ほかで手塚治虫文化省短編賞受賞。著書には『この世でいちばん大事な「カネ」の話』(理論社)などがある。

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