特別講師 藤原和博 元・杉並区立和田中学校校長

現在、子どもを持つ親御さんたちの私立一貫校の受験熱は、かつてないほどに高まっています。

しかしながら、仮に有名私立一貫校に合格できたところで、幸せな将来を約束されるわけではありません。一貫校は、なんらかの元本を保証してくれる「保険」ではなく、むしろかなりのリスクを抱えた「投資」なのです。当然ながら、それまでに投じたすべての時間、労力、お金がゼロになってしまうことも十分ありえます。

僕の考える一貫校最大の問題は、生徒や保護者の同質化です。私立一貫校の場合、生徒たちの学力が同じというだけでなく、同じような価値観、同じような家庭環境、同じような保護者が集まった「同質集団」になりがちです。

同質集団って居心地はいいんですよ。人間関係のストレスが少ないし、相互理解も簡単だし、部活を通じて先輩とタテの縁もできやすい。将来「いい会社員」になるには、とても優れた環境です。

一方、公立中学校は完全な「異質集団」です。

学力にも大きなバラつきがあるし、家庭環境も違えば価値観も違う。もちろん、両親の職業や年収、教育方針もバラバラです。同質集団である私立一貫校に比べ、人間関係のストレスは大きいし、教室にエアコンなんかないし、入学して2年後には高校受験が待ち構えています。常識的に考えて、とても居心地がいいとは言い難い環境でしょう。

でも、誰だって自分の人生を振り返ってみればわかるように、人はむしろ、居心地の悪い困難な環境でこそ成長するものです。

たとえば、公立校の異質な集団の中で揉まれていくうちに、多様な価値観を知り、自分と異なる価値観を広く受け入れ、精神的にも強くなっていく、という側面があるのは事実でしょう。

なにかと誘惑の多い14~15歳のときに、高校受験という大きなハードルを課せられることは、子どもたちが自らを律したり軌道修正するうえで非常に大きな意味を持っています。しかし、中高一貫校に通っているとその機会も得られないまま、ずるずると誘惑に流されていく。そうした例は数多く見受けられます。

居心地のよすぎる空間にいると、人は言葉が減ります。言葉を発して誰かに異を唱えたり、自分の意思を伝える必要がなくなり、コミュニケーション能力が衰えていきます。

わが子を思う気持ちがあるのなら、あえて居心地の悪い状況を経験させる、という選択肢も考えてみるべきではないでしょうか。

特別講義2時限目 中高一貫校は幸せへのプラチナチケットか より抜粋

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ふじはら・かずひろ 1955年、東京都に生まれる。東京大学経済学部卒業後、リクルートに入社。2003年から5年間、都内では義務教育初の民間校長として和田中学校校長を務める。現在、東京学芸大客員教授、大阪府特別顧問を務め、「よのなかnet」でジャンルを超えて活動中。

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